情を知り、愛を知る

物心がついた時には山の中だった。

山の動物たちに生かされ、育てられた俺は恐らく二桁の歳に入る頃に人間に拾われた。

言葉も知らず彷徨っていたいた俺を拾ったのは年寄りのじいさんだった。

動物たちともある程度意思疎通を取れていたようで、あとにみんなか許しをもらって引き取ったといっていた。

そこからは山を下り、里で育てられた俺は徐々に人の言葉と掟を覚えていった。

最初はじいさんのことをみんなから引きはがした悪党だと思っていたり、里のみんなを敵視していたりした。

だが、だんだんと打ち解けみんなも善意からそうしてくれたことを学んだ。

どうして動物のみんなも、里のみんなも俺を育ててくれたのだろうと成長した今になって思う。


そうして俺も大人になり、じいさんが死んだ。

葬式とかいう文化は俺には未だに理解できない。

死んだら生き物は終わりだ。動物だって人間だって一緒だ。

終わってしまったものをなぜこうやってみんなで囲ってわざわざ悲しむのだろうか。

里のみんなは俺に気を遣ってくれる。俺も悲しいが死んでしまったものはどうしようもないだろう。

じいさんがやっていたように山の警備と巡回を俺が代わりにやることになった。

そのときに知ることになったのは、近くの村で口減らしを行っているせいでたまに子供が捨てられているということだった。

里のみんなの何人かやじいさんもそうやってこの村に拾われた人間らしい。

だから俺も拾われたのかなどと考えながら巡回していると、山のみんなが騒がしかった。

駆けつけてみると恐らく生まれて数か月だろう子供が捨てられていた。

動物のみんなと相談するが、いまは乳を出せるものもなく村へ連れてってやってほしいと言われた。

里へ連れ帰ると、お前の新しいお役目だな。とみんなが笑顔で預けてきた。

育て方は村の産婆をしてくれてるばあさんが相談に乗ってくれるとのことだ。

そうやって人の力、そして動物の力などを借りながら子供を育てることになった。

じいさんもこんなに大変だったのかな、と思うこともあるが基本的には忙しくて頭を使う余裕などなかった。


子供が恐らく5歳ほどを迎えた頃、俺が山の巡回から帰ると家の中が空っぽだった。

慌てて周りの話を聞くと昼に山の方へ向かったがそれ以降みてないとのこと。

そして、山では動物みんなの力を借りて捜索した。

見つけ出した時には傷塗れで一輪の花を握りながら泣きじゃくっていた。

どうやら山を滑り落ちて帰れなくなっていたらしい。

ため息をつきながら背負い、山を下りる。

そうすると子供は花を差し出してきた。

「おとうさんへのぷれぜんと!」

受け取ると疲れていたのか、すぐ眠ってしまった。

花を眺めながら歩いて帰る。

その最中でいろんな情景が頭の中をよぎっていった。

動物のみんなとの山で過ごした日々、じいさんに初めて飯を作ってもらった時、じいさんが死ぬ直前に俺の頭を撫でたいといった時。

気がつけば足を止め、口からは嗚咽が漏れていた。

ああ、俺はみんなからずっともらっていたんだ。そして、葬式の日、みんなはそれをじいさんに返していたんだ。

俺は気づくのが遅かった。なんて馬鹿なんだ。

そう思いながら背負ってる子供を見る。

そして、自分にもじいさんにプレゼントを贈ったことがあることを思い出す。

知らなくともしていた恩返し、それだけでもどれだけうれしいのかを思い知る。

全てを知ったその両頬を伝って零れ落ちたのは、間違いなく愛だったのだろう。

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