拝啓、二十歳の私へ

そんな手紙がふと見たポストに放り込まれていた。

母親に聞いてみてもなんのことやらと素知らぬ顔をされる。

だいぶ年季の入った封筒に書かれたその文字には覚えがあるものの、剥がれかけた封のように出てきそうで出てこない記憶にもどかしさがあった。

せめて開く前に思い出したいと部屋に戻り考えるも一体いつのことだか。

そもそも自分はもう齢三十を迎えたばかりで二十代とは縁が切れたところである。

何か手がかりはと思うも封筒を開ける以外にそれを確かめるすべは思いつかず部屋の中を視線が彷徨っていたところで、ふと一冊の本の背表紙が目に入る。

中学校の卒業アルバムを取り出し、めくる。

なぜ忘れていたのだろうか、とあるページにたどり着くと涙が溢れ出す。

「ああ、そうだ、そうだった…」

1枚の写真、そして1枚の封筒がこぼれ落ちる。

挟んだままになっていたその封筒には同じ宛名が書かれていた。

「なぁ!これお互いがハタチになったときに渡し合おうぜ!そんでオレたちがどれだけ変わったか確かめるんだよ!」

友の声が頭をよぎる。

お互いが欠けてしまうなんて1ミリも思っていなかったあの頃。

「どれほど変わったかなんて…測る事もできないのにな…」

そんな風にぼやきながら封を切る。

忙しさにかまけてずっと忘れていた記憶。

中から不思議と香る懐かしい匂いに包まれながら手紙を広げる。

ここまで生きてきたことを思い返しながら眼で文字をひも解き、心に刻んでいく。

かつての自分の想い、そして未来への希望、それら全てを受け入れながら読み進め、最後に置いてあった“文字”はどうしようもなく受け入れがたく、しかし、現実を思い返させるのであった。

「ハタチの自分よ、今も変わらずアイツといますか?大事にしていますか?俺達はずっと相棒でいることをここに誓います!」

文字のあとに残された二つの拇印。

確か漫画などで読んだのだったか、そのような仕草に憧れこんなことをしてみたことだけは覚えている。

あの日の俺たちは確かに永遠の誓いをした。

しかし、今はもう何年も会いに行っていない。

それどころか日々仕事に追われる体たらくだ。

溢れ出す気持ちに耐えきれず窓を開けるとヒグラシの声が飛び込んできた。

十年ぶり近く経って再び繋がった縁を頼りに、会いに行ってみるのも良いのかもしれない。

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