二人で一つの心臓_2

月並みではあるが、目を開けると見知らぬ天井が広がっていた。

起き上がってみればベッドの脇には椅子の上で寝こける彼女の姿があった。

なぜこうなったのかは覚えている。


先日、大学受験へと向かう際に雨だったのを確認した俺はタクシーを停めようとした。

その際に後ろから押されたのか、雨で足をすべらせたのか、はたまたその両方か道路に飛び出してしまった俺は黒塗りの車に跳ね飛ばされたのだ。

俺の人生ではこういうことは度々起きるのだが今回は流石に大量の血が流れ出ていくのを感じ、体も冷えてきてだめかと思った。

そこへ彼女が走ってきて車から降りてきた男へ怒鳴るのが聞こえた。

「…が死んだら…してくれるのよ…たしも…でやるから!」

そう叫んだあと俺を車に載せ走り去ったところまではかろうじて覚えている。

その後に恐らくこの病院へ運び込まれたのだろう。

身体は昔から頑丈なものでいまや大した痛みも残っていない。

彼女とは幼い頃からの付き合いで思えばいつもこうして助けられている。

小学校の頃は何者かに川に突き落とされた俺を助けるために近所の大人を呼んでくれ。

中学生の頃は自転車のブレーキが壊れ先生の車にぶつかり窓を突き破り血まみれだった俺を息を荒くしながらかけつけ手当てをしてくれた。

今では彼女は立派な社会人、常に俺を養うとうちの親に言いながら俺を引き取ろうとしてくる。

俺は流石に断ってはいるが親もまんざらではないのが悩みの一つか。

そんな事を考えていると彼女が目を覚まし俺に気付くと飛びかかってきた。

そのまま俺はベッドに押し倒され馬乗りになり抱きしめられる。

「よかった!もし何かあったら私…私…」

そう泣きつく彼女の頭を撫でながらもこんな不幸体質の自分を好きでいてくれる彼女を不思議にも思う。

彼女がいなければ何度か流石に死んでいたようなこともあったような気もするのだ。

こうなってしまえば俺も男として腹をくくるべきなのかなどと考えながら病院での日々を過ごした。

なぜかハンマーが足に降ってきたり、窓の外から花瓶が飛び込んできて頭に直撃したりして入院が延長したりしたが彼女の献身的な介護もあり無事退院した。

退院日には当然のように彼女が迎えに来ており、親からはお前の荷物はもう預けたとメッセージが入っていた。俺は彼女の家で暮らすらしい。

こうなってしまうと俺ももうええいままよといった感じで成り行き任せに進んでしまった。

気がつけば彼女の家の中に作られた俺専用の部屋に入り早数カ月、居心地は悪くないが気持ちは良くない。

なぜなら基本的に外に出ることは許されず所謂軟禁状態である。

感情をそのまま打ち明けると彼女はすごい形相をし抱きしめてきた。

「あなたに万が一のことがあったら私は死んでしまいます…!」

どうやら俺の命を案じての措置らしい。

確かにこの家に来てからは何も起きてはいない。

俺のせいで彼女に死なれても困るしもう少しこの生活を続けてみることにする。

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