お題 二人で一つの心臓

男は椅子に座り胸元から煙草を取り出し、火を付ける。

周囲に広がる血なまぐさい臭いに紫煙が混じり隣に立つ女は顔をしかめた。

「あんたそれが最後の一箱だって言ってたろ。気軽に吸ってていいのか?」

煙を手で払いながら向かいの椅子へと腰をかける。

二人の周囲は肉塊と化したものたち、その血溜まりが広がっていた。

広間のようなその場所の真ん中にぽつんと机が一つ、椅子が二つ置いてあり部屋の奥からは薄ぼんやりとした光が漏れていた。

男は宙を眺めながら煙をふかす。

机の上に血に塗れた足を投げ出し、己の腰に下げた二丁の銃の手入れを始めた。

懐から道具を出そうとしたところで一部が足りないことに気づく。

前回の配給は何時だったかも覚えていない、弾薬などは最悪代用がいくらでも“来る”が道具となるとちゃんと注文しないと届かないのだ。

そもそもこの目の前の女性は何者だったろうか、恐らくは同僚だと思い一緒に戦っていたが正体は測りかねていた。

ふと気づく。

「俺が…そう言ったのか…?」

女も自分の武器を取り出し手入れをしていたところに声をかけられ目を見開く。

「戦う前にそう言ってたろうが、アタシには自分の分だけ発注入れとけって言ってたのにあんたもしかしてしてないのか?」

あーもう、とぼやきながら奥の光の漏れる部屋へと女は入っていく。

それを見送る男は記憶を反芻しようとしていた。

なぜこんなとこに自分はいるのか、なぜ戦っているのか、あの女は誰なのか。

そもそも自分は誰なのか。

思い出せず頭を抱えていると女はまた顔を覗かせる。

「おーい、ほかに頼むものは…ってそうか、あんたまさかまた発作が起きたんだな。仕方ねぇなぁ。こっちの部屋に来な。」

女はちょいちょいと手招きをしてくる。

促されるままに部屋へ入ると中心には深紅に光り輝き脈を打つ心臓のものがありその横にはたくさんの端末が備え付けられていた。

その一つに女は触れており再び手招きをする。

男がのぞき込むとそこには、“緊急時”と書かれたフォルダが存在していた。

「あんたが前に言ってたんだよ。発作が起きたらこれを見せてくれって。そんじゃアタシは先に戻ってるからね」

手をヒラヒラと振りながら女は広間へと戻っていった。

男はフォルダを開くといくつかの資料データ、そして映像が入っていた。

要約すれば

この心臓はかつて存在した邪神のもの。

今は地上のエネルギー源として利用されているが魔の者の手に落ちれば再び蘇る可能性があること。

近くにいると何かしらの異常が起きることから最低限の人員で守るようになったこと。

その耐性が高いこと、そして人類の中では強さという適性も高く自分が選ばれたこと。

あの女性はその中で自分が魔族と戦う中で拾って育てたこと。

本人の要望もありここで戦うことを決めたこと。

そして、広間が突破された時二人の命を使い心臓を爆破する手筈になっていること。

これらが資料にまとめてあった。

映像には自分が語るビデオレターのようなものがあった。

「お前がこれを見てるってことは、恐らく俺に、というかお前に限界が来てる頃だろう。ここからどうするかはお前次第だ。好きにしろ。」

と語りながら不自然に広間と反対方向に指を向けていた。

彼女のことは何も覚えていないが戦いに巻き込んだであろう自分に腹が立っていた。

憤慨するまま広間に戻れば鼻歌交じりに武器を手入れする娘がこちらを向く。

「どうしたんだ、おっさん。顔が怖いぜ?」

軽口を叩きながら微笑む娘を見て考える。

自分のように限界が来るまで戦わせるのか?自分が育てたというこの娘を?

過去の自分に腹が立つ、しかし今こんなことを考えるということは昔の自分とて思わなかったことではなかっただろう。故にあの映像を残したと考えられる。

そして、口を開いた。

「行くぞ、世界のために死んでたまるか。」

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