第3話 つ・く・よ♡


「坂下! てめぇがもたつきやがったから余計な金が掛かっちまったじゃねぇーか!」


「ぐほっ! す、すんません……」


 暗がりの中に、殴られた坂下の呻き声が響き渡った。

そんな彼のことを殴った本人と、周囲にいる他の連中はうすら笑い声を上げている。


「こ、これはなんなんですか!? どういうことなんですか!?」


 椅子に手足を縛り付けられている月夜は、勇気を出して、連れ込まれた廃工場へ声を放つ。


 するとさらに湧いてきた軽薄な若い男の声。


「くく……相変わらず、勇ましい限りじゃないか月夜!」


「あ、あなたは……桐原!」


 月夜の眼前に現れた若い男は桐原 三郎。

若くして、桐原グループという企業体を背負っている経営者のドラ息子であり、


「桐原、なんて随分と冷たいじゃないか。俺と君は許嫁だろ?」


「それはもうずっと昔の話です! そうお爺さまからも、お伝えしたはずでしょ!?」


「だから? それが?」


「ひゃっ!」


 桐原はニヤついた笑みを浮かべつつ、スカートから覗く、月夜の健康的な太ももへ触れてくる。


「あのジジイがなんと言おうと、ここで俺とお前が結ばれちまえば……ひひ!」


「や、やめっ……ああっ……! まさか、坂下さんを差し向けたのも……?」


「いざとなりゃ、全部の罪を同じ学校の坂下になすりつけりゃ楽だと思ってよ」


「んくっ、んんっ……なんて、卑劣な……!」


「なんとでも言うがいい。俺とお前が結ばれちまえば、そこまで。お前を溺愛してるジジイのことだから、あっさり俺のパパのグループに入ることを認めるだろうさ。そして俺は名実共に、お前を支配できる……ひひっ!」


「ーーなるほど、そういうことだったのか。やはり追跡をして正解だったな!」


 突然、廃工場中に響き渡る男の声。


 桐原共は驚いた様子で周囲を見渡し、それまで絶望に染まっていた月夜の顔に輝きが舞い戻る。



●●●


「己が欲望のためにのみ行動を起こし、他人を不幸へ落とし込めるもの……俺、それを"愚者"という!」


「へ……? うがあぁぁぁーーーー!」


 千祭さんと、桐原とかいう阿呆の間へ"転移"した俺は、おもいっきり拳を振り上げて渾身のアッパーカットをお見舞いしてやる。

かなり当たりどころが良かったのか、桐原の前歯が折れて、くるくると宙を舞っている。


「ひ、ひぃー! す、菅田ぁー! な、なんで、お前がここにぃ!」


 先ごろ俺にコテンパンにやられた坂下は、恐れのあまり蹲っている。


 だがやはり、一度やられた坂下以外は、俺のことを侮っているらしい。


「お、お前誰だ! なんなんだ!」


「お前に名乗る道理などないっ!」


 そう思いっきり否定してやると、桐原は益々憤怒を募らせる。

そしてやぶれかぶれといった具合に、手下の黒服達へ俺を倒すよう指示を出す。

 黒服達はなんとなく、俺のことを侮っているようにみえた。


「まぁ、良い……こうして油断をしている連中の方がやりやすい!」


 すでに臨戦体制をとっていた桐原の部下の黒服達へ突き進む。

そして繰り出される拳を次々、易々といなしーー


「邪魔だ、失せろっ!」


 言葉と共に適当に魔力の波動を放っただけで、黒服達は四方八方へ吹き飛んで行き、ぐったりとしてしまうのだった。


「な、なんだよ、このガキ……! い、行け坂下……ってぇ!?」


「すみません、菅田様っ……お許しください……! 俺、今回はなにもしてません……! だから命だけはぁ……!」


 俺の姿を見ただけで、すっかり戦意を喪失している坂下はただ蹲るのみ。

もうこいつは放っておいても大丈夫だと判断し、代わりにズボンの間をびっしょり濡らしている桐原を睨め付けた。


「お、お前、なにが目的なんだ……!? 金か!?」


「そんなものはいらん! 俺がこの世界で欲するのはただ一つ……転生できた、配下たちの穏やかな生活と幸福のみ!」


 闇の風魔法を刃のように放つ。

その風は、千祭 月夜を椅子の拘束から解き放った。


「千祭 月夜……いや、我が三魔将が一角、ヴァンパイアロードのメルサードよ! この場は貴様に預けようと思うが如何か!?」


「……うふ……よろしいのですか、魔王様?」


 冷たくも、しかしどこか楽しげな千祭さんの声。

そして今、彼女の瞳は、かつてのヴァンパイアロードの時の如く、血のように赤く染まっている。

どうやら、記憶と共に力の覚醒にも成功しているようだ。


「でもよろしいのですか、魔王様。私に預けて頂いてはこの者は……」


「なぁに、俺が最も得意とする"記憶改竄の魔法"を使えば問題ないだろうて」


「ああ、なるほど、さすがは魔王様。うふふ……」


 俺たちの不穏な会話に桐原はただただ怯えるばかり。

そんな奴を見下ろし、千祭さんこと、メルサードはにぃと不気味な笑みを浮かべる。


「この私を辱めた罪……死よりも重い罰を!」


「な、なんだ……やめっ……月夜……ひぎゃああぁぁぁぁぁーーーーーー!!」


ーー相変わらず、怒った時のメルサードは凄まじかった。

それは千祭 月夜という可憐な乙女に転生しても変わらず、であったらしい。


(これは結構細かく記憶改竄をしないとなぁ……)


 などと少々、この後少々骨が折れるなと考えつつ、メルサードの桐原への復讐劇をのんびり眺めている俺。


 ちなみに坂下は、記憶を改竄しない方がより大人しくなって、今の俺にとっては好都合だと思い眠らせるに留めておくのであった。


「ーー委細完了しました魔王様。この度は機会を与えていただき誠にありがとうございました」


 すっかり桐原や他の連中の気配が消え去った頃、メルサードは恭しく傅いてくる。


「相変わらず見事な処理だったなメルサード!」


「いえ……あの、えっと……魔王様、一つお伺いしたいことが……」


「なにか?」


「先程、仰っていた御身のこの世界での目的をお聞かせください……世界征服では、ないのですよね?」


「まぁ、それも視野には入れているが、なにぶん人間として生活が長く、これはこれでなかなかに良いものだと思ってな。そしてそれはこの世界に転生しただろう、配下達にも同じような気持ちになって欲しいと思っていてな」


「つまり、私の平穏と幸福こそ、魔王様の至高の目標と?」


「うむ……ぬぅっ!?」


 一瞬、何が起こったのか分からず、俺は間抜けな声を響かせる。


「ま、魔王様の今般の至高の目標が私共の平穏と幸福でしたら……その想いは私も同じですっ……!」


 急に抱きついてきたメルサードは、さらに耳元でそう囁きかけてくる。

その甘い声音と、柔らかい体の感触が、俺の心臓を激しく拍動させている。


「い、いきなり、なにをするのだメルサード……!」


「あら? お気に召しませんか? 私自身が申し上げるのもアレですが、この千祭 月夜という人間の娘はなかなかに上物であると思いますよ? だから、こうされて嬉しくはありませんか?」


 確かに千祭 月夜は可憐で、美しく、そしておっぱいがでかい! 人間の男として、こうして抱きつかれて嬉しくないわけがない!

 しかし……ヴァンパイアロードのメルサードは、魔族であるため性別を超越した存在ではあるのだが、元々は胸筋が分厚いゴリゴリマッチョな奴なのだ!


「あと……私のことは今後、メルサードではなくお気軽に"月夜"とお呼びくださいね♡」


「う、むぅ……」


「恥ずかしがらずに……せーの……つ・く・よ♡」


「つ、つつ……月夜!」


「なんですか、真央様♡」


 どうやらこれらの俺の日常はとんでもないことになりそうだ……。




★とりあえずパイロット版として作成しました。

もし、良い感じに数字が取れれば、頑張ってカクヨムコン11の長編部門へ続きを書いて出そうと思ってます。

間に合うかは怪しいところですけどね……(笑)


 そういうわけでよろしくです!

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【パイロット版】前世の"魔王"としての記憶を取り戻した俺、美少女に転生した元配下に懐かれる。 シトラス=ライス @STR

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