第7話「死に損ないの尸 2 」
私はお父さんが嫌いだった
アンドロイドのせいで仕事を失いお姉ちゃんや私を殴ってきたから
私はお母さんが好きだった
お父さんを宥めてくれたり殴られた傷を治してくれたから
そしてお母さんはずっと殴ってきたお父さんを殺してくれた
でもその時お母さんも一緒に自殺した
悲しさは感じなかったし涙も出てこなかった
喉から溢れてきたのはゲロのように不味い将来の不安だけ
私はお姉ちゃんが大好きだった
辛い時ずっとそばにいてくれたから
両親が死んだ後も私や妹達を養ってくれた
お姉ちゃんはこの世界で1番輝いていた
いつものようにお姉ちゃんが仕事に行った時
能力者の戦闘に巻き込まれ帰って来なかった
ずっと待ってた何日も...でも玄関を開けたのはホワイトコープのお兄さん達だった
お姉ちゃんの死を聞かされた時ショックの余りその場で吐いちゃったんだっけ...
私は2人の妹達が大好きだ
とっても可愛くてこんな私でも頼ってくれたから
両親もお姉ちゃんもいなくなった時私と一緒に施設に引き取られた
でも施設でご飯が食べれるのは子供のうちだけ
もう私がお姉ちゃんなんだからいっぱい勉強して頑張ろうって...思ってたのに...
「どうして...」
左肩を押さえながら住宅街の路地裏を歩く
錯乱していた頭がようやく落ち着いてきた
背中から黒色の腕が生えてくる
その手のひらが口を開いた
「惨めだなぁ 小娘...ヒヒッ!」
あぁ...そうだった...私の中に今...怪異が住み着いてるんだった...
学校のみんなを殺した...怪異が!
「ヒヒッ! その殺意は認めてやるが死に損ないがどう足掻こうが私は殺せないさ!」
忌々しいがその通りだ...私にはこの怪異を殺せるほどの力はない...
「で...能力のご体験はどうだったかな? 体験者からはフィードバックを貰わないとね」
怪異がニヤニヤしながら話しかけてくる...気持ち悪い...
「痛いし気持ち悪かった...それぐらいしか言えない...」
能力によって縫い付けられた左腕を眺めながら顔を歪める
「ヒヒヒヒッ!それは結構
もう1度提案をしよう 私が貴様の能力になってやろう
好きなだけ暴れてかまわん だがその血肉は私に食わせろ」
まただ...本当にしつこい怪異だ...
「断る お前の言うことはお姉ちゃんを殺した能力者と同じになれって事だろ!?」
少し怒り気味で言うと怪異はニヤニヤしだした
「あぁその通りだ! だがな能力者を殺せる人間は能力者だけだ
貴様に姉を助けるチャンスはなかった
だが私の提案を飲めば姉の仇を討つチャンスが得られる...ヒヒッ!
さぁどうだぁ?惨めにも能力者に殺されちまった姉に吉報が送れるぞぉ?」
怪異は私を嘲笑うかのように言ってきた
私が能力を手にすればお姉ちゃんを殺した能力者と同じ...でも敵討ちはできる...
「そうだそうだ! 姉を殺した奴と同じ土俵に立てば敵討ちができるぞ? ハハハハッ!」
体の内側から...全身から怪異のゲラゲラと笑う声が聞こえる...
まるで私を嘲笑うかのように...まるでお姉ちゃんを馬鹿にするかのように...
赤く染まった右手で怪異の黒い腕を強く握りしめる
「いいよ...乗ってやるよ...だがな...お姉ちゃんだけは侮辱するなよ!!」
そういうと怪異はニヤリと笑った
「よしここの教室はまだ開いてないね」
死体袋をチェックし終え教室から出る
「ライカがこっちの来るみたいだから一旦外に出てくるね
引き続き死体袋が開いてないかチェックよろしく!」
そう言うとジュディアは階段を降りて行った
次の教室に向かって廊下を歩いていると廊下の窓が開いているのに気づいた
すると教室の扉が開き黒いキューブを持った男が出てきて目があう
「「誰
一方その頃校門前ではジュディアとライカが話し合っていた
「住民の避難はほぼ完了したみたい
だけど西側の避難区域ギリギリの所で反能力者のデモや野次馬が集まってる...
今の所はホワイトコープが抑えてるけど酷くぶつかり合うのも時間の問題かな」
ライカがため息をつきながら言った
「実際能力者に家族や親戚、友人なんかを殺されてるんだし恨まれても仕方ないさ
それに今生きてる能力者のほとんどは戦争時代の生き残り
何十年も戦場を彷徨った人間は平和な世界になんて帰れないのさ...
私らだってそうだろ...?」
ジュディアはそう言いながら空を見上げる
「はぁ...死に損ないは辛いね...」
ライカも空を見上げる
ガシャーン!! 2階の窓が勢いよく割れ2人の人影が頭上を舞う
ガンッ! パンチをなんとか腕で防ぐも吹き飛ばされ家屋の屋根に突っ込む
「やっぱお前能力者やろ?」
謎の男が隣の家屋から見下してくる
「はっ! そう言うあんたも能力者だろ?」
そう言いながら瓦礫を蹴飛ばし屋根の上に立つ
あんだけ動けるんだ こいつは能力者で間違い無いだろう...
だがなんだか見覚えがあるというか...チェーンソーの怪異と雰囲気が似てる...
まぁいい 対能力者戦は防御力より回避力
両腕に電力を溜め構える
「おいクソ野郎! スピード勝負だ!」
溜めた電気を全身に流し速度を上げ右下に潜り込む
「まずは1発!」
バコォ!!男の横腹を速度を乗せ殴る
「ぐっ!!」
男は顔を歪ませ軽く吹き飛び隣の屋根へ着地する
奇妙な手応えだ...今までやり合ってきた怪異より遥かに硬い...
肉体強化系の何か仕掛けがあるな...
男の左腕から回転するチェーンが飛び出し振りかぶる
咄嗟の判断で上へ回避すると先ほど立っていた場所が叩きつけられ砕け散る
突如右からチェーンがぶつかってきた
右腕でなんとか防ぐも少し血が飛び散る
軽く吹き飛ばされたが屋根に滑りながら着地した
「血だ」
怪異が男に囁く
「黙れや怪異」
肉体硬度を強化する方法はライカさんから教わったけどこれに関しては相手の方が上手うわてだ
チェーンは腕と背中から複数出せる...いや身体中から出せるんだろう
さっきみたいな足場のない場所へ回避するのはやめた方がいいな...
だが俺のスピードにはまだついて来れてない
肉弾戦は速度と硬さを考慮しても五分五分で泥試合...
なら軽く殴って至近距離で電撃を当てる!
相手に向かって走り出す
相手もこっちに走ってくる
接近すると相手は体勢を低くし下から殴りかかってくる
全身を加速させ右膝で相手の腕を蹴りそのまま左手で殴りつける
バコォン!! 屋根を貫き家の中へと落下した
左から2本のチェーンが家具を破壊しながら飛んでくる
全身の速度をあげ距離を離しながらかわすと相手が近づいてきた
右手に電気を溜める
至近距離になった時 バリッ!! 相手の胸目掛けて電撃を放つ
バコォン!! もろに直撃した相手は壁を3枚貫通し隣の家まで吹き飛んだ
あまり頻繁には使えないな...かなりの体力消耗してしまう...
息を整えると相手が瓦礫を押し除けながら立ち上がった
「そう簡単に死ぬわけねぇか...」
そう言いながら苦笑いし全身に電気を溜める
「今のはやばかったなぁ...そう何回もくらわれへんわ...」
顔を歪めながらチェーンを回す
はっきり言って逃げればええ...レコードも回収したし戦うだけ無駄や...
やけどこいつは無力化させとかへんと逃げ切れへんやろな...
「おいチェーンソー...邪魔だけはすんなよ...」
「黙れ小僧 貴様がどうしようと貴様の勝手だが俺もどうしようと俺の勝手だw
だが貴様には死なれちゃ困る...せいぜい頑張れ」
チッ! やっぱ怪異はくそやな...
「おいガキ! スピード勝負とか言ったやんな...乗ってやるわ!」
「ハハッ! 言ってくれるねぇ!」
顔面に向かって電撃を溜めた拳で殴りかかろうとすると
男にチェーンが絡みつきかなりの速度で外へ引っ張られていった
「あぁスピード勝負に乗るってそういう...逃すかよ!」
全身を帯電させ加速する
男は周囲の建物にチェーンをかけ回転を利用して飛び回っている
東方面...確かガザル地区の砂漠だっか...
まぁいい逃げ切られる前にもう1発電撃を当てればいい
背中に手を当てるがスキフカービンがない事に気づく
後で探そう...
そうだいいこと思いついた!
「流石に撒いたやろ?」
息を切らしながらチェーンを使い飛び続ける
すると前方に小さな女性が立っていた
「なんやあのガキ...」
その女性は刀を構えている
「この距離では届かへんやろ...アホらしい...」
「僕の刀が届かないとでも思ったか?」
瞬きをした瞬間右から伸びた刀が
「は?」
ガァン! 右半身にチェーンを集中させなんとか防ぐが左へ吹き飛ばされる
だが吹き飛ばされた方には青色の稲妻が走っている
「クソがよ...」
バコォォン!! 加速と電撃を乗せた拳がぶつかる
当然の攻撃にガードできず多数の家屋を貫通しながら吹き飛ばされる
「スピード勝負は俺の勝ちだな」
吹き飛ばされ動けなくなった男を遠くから見つめる
すると赤い少女が近づくのが見えた
「大丈夫ですか? お兄さん」
少女が動けなくなった男の手を取る
すると黒い布が覆い被さり風と共に消えた
なんだったんだあの男は...
だがチェーンソーの怪異があの男の中にいる事はわかった
ピーピーピー! 背中のタンクから警告音が鳴り響く
「エネルギー切れてるのになんで立ってられるの?」
会議室で見かけた少女が話しかけてきた
「あぁさっきはありがとう...偶然だったけど」
「はぁ確かに偶然とはいえあれには驚いたよ
おい頭撫でるなよ...子供じゃないんだから!」
無意識に頭を撫でていたら振り下ろされた
「まぁいいライカさんに報告しないと」
そういうと少女は歩き始めた
「えっと名前なんだっけ?」
恐る恐る名前を聞いてみる
「僕はキアラだよ 君は...えっとヴィナだっけ?」
そう会話しながら学校の方へと向かった
「あ...銃無くしたんだった! 探さないと...」
『 14月03日 11:51 ワレス国会議事堂 とある会議室にて』
「ホワイトコープからの報告はまだか!!」
会議室内に怒号が響く
「報告が届きました こちらです」
スーツ姿の若い男がタブレットを渡した
「市民が避難しておるからって派手に暴れやがってぇ!!」
ブツブツ言いながら読み進めているととある写真に目が止まった
「この男...まさかこんな所にいたとはな...
よしこの男を秘密裏に捕えろ!
くれぐれも獣人族側のザンラース政府に気づかれないようにしろよ!!」
テーブルに置かれたタブレットには男の顔写真が写されていた
その下には名前が書かれている
『No.8 ヴィナ・ザン・タイナー』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます