第6話「死に損ないの尸 1 」

『ザンラース衛星軌道上 惑星防衛用人工衛星"ヴァルハラ"にて』

半壊した人工衛星の周囲に多数のデブリが浮遊している

このデブリ達は元々この人工衛星の部品だったようだ

ビィーーー!! 人工衛星内で何かしらの電子音が鳴り響く

「排除リスト内の生命体を検知

 ペイロード再起動中...

 起動完了 バイオプリンター起動します」

衛星内のバイオプリンターが動き出す

電子機器の積まれた人型の金属フレームがロボットアームによって運び込まれる

管の繋がったアームが現れ即硬式有機物ジェルで人間同様の筋肉を編み込んでいく

軟質プラスチックのパネルが運ばれ皮を貼り付ける

肉体はアームによって運ばれ直立させられる

多数のアームが現れ軽量装甲を取り付けていく

1つのアームがドラムマガジンの銃を渡す

『HMF-99』と刻まれた銃に搭載されたスコープはギョロギョロと動き回るカメラがついている

「ワルキューレ隊は3番ハンガーへ」

衛星内でアナウンスが鳴る

バイオプリンターで編み込まれた肉体が4機動き出す

4機のワルキューレ達は『アストログ社』と壁に刻まれた3番ハンガーに到着した

そこには1つの丸っこい船舶があった

ワルキューレ達は船舶に近づきその側面へ背中をむける

船舶からアームが現れワルキューレの背中のプラグへ差し込む

アームが機体内に戻りワルキューレ達も船舶の中へ

船舶のエンジンが起動する

船には『クラックス・ヴァイオテクノロジー社』と刻まれている

船が宙に浮かび始める

「目標地点 惑星ザンラース ガザル地区」

再びアナウンスが鳴ると船舶はハンガーから飛び出しザンラースへと向かった


『 14月03日 08:20 』

朝食を済ませ今は会議室らしき部屋にいる

「先日再現都市東京の郊外にある六川小学校で事件があったらしい」

グレートフォールの全員が集まっている

1人見知らぬ子供がいるようだけど...

偶然顔合わせ無かっただけかもしれないし...

「1人の生徒を除く全生徒全教職員234名が死体袋に包まれたまま死亡していた

 能力者の仕業かもしくは怪異、呪霊の仕業かはまだ分かっていない

 チェーンソー同様何者かが強力な怪異か呪霊を放った可能性がある」

ライカはそう言うと部屋を暗くしテーブルのホログラムを起動した

「学校付近の3Dマップだ」

ジョブが半透明なタブレットを見ながら言った

「私たち以外の能力者も現地へ向かうらしい

 ヴィナくんとジュディアは校内の探索を

 キアラと私 ライカン ユリカ レファは学校周辺を捜索

 レヴィディアちゃんとジョブはここに残っていつでも通信できるようにしてて」

レヴィディアとジョブは頷いた

「行方不明者だが 6年A組のロア・ユーサーだ

 ホワイトコープ達が周辺で聞き込みを行ったらしいが

 誰1人見かけた人はいなかったそうだ」

ジュディアが割り込んだ

「とにかく目標は怪異もしくは呪霊の討伐か能力者の無力化

 行方不明になったロアちゃんの捜索だ

 学校付近は小さな怪異や呪霊達がかなりの量湧いてるようだ

 あとは現地行けばわかる」

ホログラムが消え部屋が明るくなる

「よし準備開始!」

みんなが会議室から出ていく

「ヴィナくんは装備する銃とか決めてなかったね」

近くにきたライカがそういった

「そういえばここにきた時にジュディアさんが言ってたような...」

みんなに合わせて俺も会議室から出る

そのままついていくと武器庫についた

「好きな武器を選びな だがまずはこれをお勧めする」

ライカンがそう言うと1つのピストルが渡された

「P-300 1000年以上前のモデルだが今もなお信用され続けているピストルだ

 実弾式で装弾数は15発 射撃タイプはセミオートのみ

 メインの武器が弾切れを起こしたら使え 必ずお前を守ってくれる」

P-300を手にとる

軽量で握りやすい

装填済みのマガジンを入れガンホルダーに仕舞いガンホルダーを腰に取り付ける

「ガンロッカーはあっちだ」

ライカンが指を刺した方向へ向かう

近くにあるパネルを触りロッカーを開くと大量の銃がぎっしりと詰まっていた

1つの細長く四角いライフルを手にすると

「お! スキフカービンじゃん お目が高い!」

ジュディアが横から話しかけてきた

「スキフカービン?」

この銃についてジュディアに聞く

「SKF-m44v Skiffカービン 軽くて使いやすい

 そして電力さえあれば弾切れしないアーク社製の中近距離セミオートライフルさ

 実弾タイプは型番にvがついてないけど残念ながらそっちは先客がいてね」

ジュディアは少し早口で言った

すごいな...片手でも軽々と持ち上げられるほど軽い

「電力さえあれば弾切れ起こさないなら能力でなんとかなるか...

 よしこれにするか」

スキフカービンを一度近くのベンチに置き背中のタンクの上からガンラックアーマーを着る

カービンを背中に取り付けるとジュディアが腰のガンホルダーに気づいた

「P-300か みんなのお守りだね」

少し微笑んでいた

3つほどグレネードを手に取り腰に付ける

準備が終わりガレージから外へ出る

日光が眩しい

2台の車が止まっている

みんな乗り込むと東に向かって走り出した


『14月03日 10:11 六川小学校付近 とある路地裏 』

「なんでついてくるんや このガキンチョは...」

鱗野郎の言われた通りに学校に向かっとる途中やがようわからんガキに会った

全身真っ赤や...なんなんこいつ...

「なんか話してくれや 黙っとるとなんもわからんで」

膝を突き目線を合わせる

会った時から一度も話してくれへん...

あぁ腹の奥が痛む...俺ん中におる怪異が起き始めたんか...

「早いとこ言われたレコード回収せなあかんな...」

すると少女が口を開いた

「小学校に行くの?」

「...あぁ回収しろ言われとるもんがあるけんな」

「近づかない方がいいよ...化け物が居るから」

高音と低音の混じったエンジン音が微かに聞こえる

「チッ! ホワイトコープか!」

学校に向かって走り出した

「気をつけて お兄さんルーザー

声が重なっているように聞こえた

て言うかなんで俺の名前知っとんや?

振り返った時にはもうその少女は居なかった


『 14月03日 10:15 六川小学校前 』

学校の前に到着した

周囲にはホワイトコープの隊員が6人ほど警備を行っている

ジュディアが白隊員と話している

校舎の方へ目をやると2階の窓から血が垂れていた

目の前の校門にはホログラムバリケードが起動している

「行くよ ヴィナくん」

ジュディアに呼ばれ装備の最終チェックを手早く済ませる

ホログラムバリケードが消え粒子らしきものがパラパラと地面に落ちる

校門をくぐるとジュディアが手のひらサイズの電子機器を取り出した

そのまま空に向かって投げると起動し宙に浮き始めた

「コンパクトドローン 展開検知完了

 カメラも羽も良好だ」

通信機越しからジョブの声が聞こえる

背中の銃を取り能力を使用して装填する

ジュディアも炎からライフルを成形した

校舎内に入る

しばらく廊下を歩いていると多数の死体袋が浮遊する教室についた

銃を構えつつ教室内に入った

死体袋はぶら下がっているのではなく浮いていた

「確かにこれは単なる殺人事件じゃないっすね...

 数も尋常じゃないし」

銀色の死体袋を見つめながらぼやく

「完全に浮遊してるね 能力の特性によるものだろう

 一般物理現象ではこんなの出来ない...」

ジュディアが頭につけていた丸っこくて黒いバイザーを目に取り付ける

バイザーから死体袋に向けて赤色のレーザーが照射される

「生体反応は無し...そりゃそうか...」

ジュディアが小言を呟く

「ドローンが2階の方で動きを検知したぞ

 2人とも2階に行ってくれ」

ジョブがそういうと俺達は教室を出て階段へ向かった

銃を構えながら2階の廊下を進む

昼間なのに薄暗い

「そのまま突き当たり右の教室だ」

耳元にある通信機からジョブの声が届く

5年B組と書かれた教室に入る

そこにも多数の死体袋が浮いていた

ここも床が血に染まり真っ赤だ

注意深く観察していると窓際にある1つの死体袋のチャックが開いている事に気づいた

中には黒い粘液が少し絡み付いている

ジュディアがバイザーでスキャンすると

「この粘液少し温度が高い...」

おそらく動きってのはこの事だろう

「まるで卵から孵ったみたい...」

そう呟くと静かだった校舎に音が鳴る

ジジジジジジジ......ベチャッ!!

突然の音に2人とも銃を構える

どうやら隣の教室からのようだ

今の教室を出て6年A組と書かれた教室の扉に近づく...

ガシャーン!! 勢いよく窓が割れ黒い液体が飛び出してくる

ジュディアが7発俺は4発発砲した

液体は機敏に動き回り天井に張り付き逃げていく

俺はカービンをセミオートからハイターボに切り替えチャージを始める

ジュディアはその間も12発撃ち続ける

6発被弾した液体は天井から剥がれ落ちる

宙に舞うその瞬間俺は引き金を引き青色の電撃を放った

ベチャッ!! 液体は電撃にあたりそのまま弾け散った

発砲音が鳴り止み校舎はまた薄暗く静まり返る

ジュディアが飛び散った液体に近づきスキャンを始める

「デス・イーター...ではないか...流石にね」

「デス・イーターって?」

またもや俺の記憶にない単語だ

「デス・イーターはさっきみたいな液体状の凶暴な生命だよ

 体内に隠している真っ黒な球体のコアを壊せば死ぬ

 2000年戦争で絶滅させたとは聞いたしさっきの奴はコアが無かった」

ジュディアはそう言いながらハンドスナップで火を起こし液体を燃やした

液体は瞬時に燃え尽き灰すら残らなかった

ジュディアが耳に手を当てる

「ジョブ 少し厄介なことになってきたよ」


『 14月03日 10:16 六川小学校付近の住宅街 』

「暇だなぁ...ロアって子も見つからないしチビ怪異しか居ないし...」

キアラが家の屋根の上で胡座をかいであくびをしている

ライカンは下の歩道で耳に手を当て通信を聞いている

「...了解

 おーいちびっ子 東の方に捜索行くぞ」

キアラが屋根から飛び降りてきて少し怒り気味に言った

「だから子供じゃないってば...

 でもこれ以上東に行くとガザル地区の砂漠地帯に出ちゃうよ?」

「防塵用の防壁があるとはいえ扉がない訳ではないからな」

ライカンが歩き始める

すると2体の小さな怪異が現れた

「はぁちっこい奴相手するの飽きたんですけどぉ」

そう言いながらキアラは刀を取り出しうねらせる

そのまま鞭のように振り回し怪異の頭を軽々と刎ねた

刎ねられた怪異の頭は宙を舞いべちゃりと地面に叩きつけられた

「さすがライカが見込んだ天才だな」

ライカンが歩きながら話す

「半年も鍛えられたけどまだまだ改善の余地がるんだよなぁ

 難しいよこの能力...」

キアラがため息をつく

しばらく歩いていると少し暗めの赤色をした7mぐらいの防壁に辿り着いた

住宅街との幅は10mほどでそこには防壁に沿った道路がある

「ここを南に行けば東京湾っていう湖に出るんだっけ?」

キアラが南方面の道路を見渡す

すると突如真っ赤な少女が現れた

「怪異...じゃねぇよな...」

ライカンが銃を取り出す

「君がロアって子かな?」

キアラが刀に手を伸ばしながら少女に話しかける

「あなた達は...能力者?」

少女が口を開いた

「能力者だったら...なんだよ?」

ライカンが威圧的に言い返した

すると少女は声を荒げ始め

「能力者...能力者は...お姉ちゃんを殺した!!

 能力者は私が殺す!! 今すぐ死んでっっ!!」

少女の左腕が4本ほどの黒く枝分かれしとてつもない速度でキアラ達を襲う

ライカンが左腕を前に構えフレームを展開しそのフレームから粒子を散布する

すると粒子が発光しホログラムシールドとなり1本目と2本目の腕を弾き返す

キアラはライカンの後ろで刀を変形させ左と上から来る腕を切り落とした

少女は痛みで顔を歪めながら変形させた左腕を元に戻す

「これって怪異が人間に憑依したって事でいいの!?」

キアラがライカンの後ろから質問する

「あぁそう言う事だろう ジョブ!ロアを発見した 体全身が赤く染まってる

 おそらく怪異か呪霊が憑依してるんだろう 場所は防塵防壁道路だ」

ライカンは通信機に向かって声を荒げた

すると少女は後ろに振り返り住宅街に向かって走り始める

その隙を見逃さなかったキアラは刀を逆手持ちに変えライカンの横の立つ

そして思いっきり振りかぶり少女の背中に刀を投げつける

刀は少女の左肩を貫き少女は痛みに悶絶しながら倒れ込む

キアラが素早く近づき捻りながら刀を引き抜くとグチャリと言いながら左腕がとれる

だが少女の後頭部から瞬時に腕が生えキアラの胸の拳をぶつけた

その衝撃でキアラは吹き飛び少女は起き上がる

頭に生えた腕は瞬時に消え左腕のあった場所から糸が伸びとれた左腕を持ち上げる

軽々しく着地したキアラは刀を伸ばし少女に切り掛かるが

その時には少女の左腕は元の戻り黒いマントに包まれ刃先との距離1cmギリギリの瞬間ふと姿を消した

「チッ!!」

ロアを逃してしまったキアラは近くにポイ捨てされた空き缶を真っ二つに斬った

「まぁあの一瞬であれだけ動けるのは訓練の成果なんじゃないか」

ライカンがキアラの頭を撫でながら慰める

「だから子供扱いしないで!」

キアラは頭を撫でてくるライカンの手を振り落とした

「ジョブ悪い知らせだ ロアが逃げた

 黒いマントを使って瞬間移動っぽいのをしてった感じだ

 あぁ あぁ了解 学校の方に戻る」

ライカン達は通信を済ませ学校の方へと歩き始めた

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