第3話「生存権」
『ニューデトロイト 13月15日 22:19 どこかの路地裏』
壁にもたれ掛かりながら歩く男性がいる
「うっ!! おぉぇっっっ!!」
吐き出された吐瀉物は薄く赤黒い血が混じっている
あぁ気分が悪い!! 昼間公園でバケモンが俺ん中入ってきてからずっとこうや...
腹の奥から引きちぎられる様な激痛が走る
「うっっっ!!!」
痛みに耐えかね転けてしまい四つん這いになる
ふと前を見ると誰かの足が見える
歯を食いしばりながら見上げる
「助けてあげようか? ルーザー」
謎の男性が親切そうに声をかける
首元には部分的に黒い鱗が生えている
「っ!!見下すなやっ! クソ野郎!!」
息が絶え絶えになってきた...
「フッ! 惨めだね」
「クソヤrッッ!」
殴る掛かろうと体を起こすと謎の男に強く顎を蹴られ意識を失ってしまう
「君の中にいる怪異だが...予想以上に弱かった
だから君を食べて知恵をつけてもらうよ...」
ガレージのライトが外へ漏れる
日が沈んでいるようだ
ガレージのシャッターがゆっくりと独りでに閉まり始める
壁一面に飾られた銃達を眺める
「ん? お気に入りの銃でも見つかった?」
ジュディアが嬉しそうに聞いてくる
「いや...特には...」
俺は圧に負け引き下がり気味に言った
それを見たジュディアが肩を落としたがすぐに立て直した
「まぁ銃を選んでもらうのは後でもいっか...さぁこっちこっち!」
ガレージ奥のドアを通りオレンジ灯が点滅する狭い廊下を歩く
柄が見えなくなるまで黒ずんだカーペットが敷かれている
一面が白タイルでピッカピカだったガレージとは全然違う
とにかく狭い 人間2人分の幅も無い
エレベーターの前に着いた
ジュディアが話しかけてくる
「私はこれから酒を飲もうと思うけど君たちはどうする?」
エレベーターが上がってきた 蛇腹状のドアが開く
レヴィディアが俺の目を見つめてくる
「俺は休みたいかな...酒飲めるかわかねぇし」
俺は気怠げに言った
1人ずつエレベーターに乗り込む
「んじゃ先に新しい住まいを見に行きますか!」
ジュディアがノリノリ下の階のボタンを押す
蛇腹状のドアがガチャガチャといいながら閉まり始める
「2人は相部屋でいいよね!?」
ジュディアは調子に乗っている様に言った
「はい 構いません」
レヴィディアが真顔で即答した
エレベーターが動き始め徐々に地下へと降りていく
「決まりだね!」
ジュディアは嬉しそうにしている
俺は口を開く間も無かった
「お酒の件ですがザンさんは21歳なので法律的には問題なく飲めますよ」
レヴィディアが淡々と話した
「そう!? なら後で部屋にお酒持って行くね!」
ジュディアが嬉しそうにウィンクする
昨日寝る前に財布を開けてリビングの机に放置していた事を思い出す
俺の年齢知ってるはそういう事だろう...
エレベーターが止まりドアが開く
廊下を進み1番奥の部屋へ案内される
そこまで広くはないが記憶喪失から2日間しか住んでいないボロアパートよりかは広い
にしてもベットが2つ...アンドロイドってベットで寝るのか? それとも専用の充電器スタンドがあるのか?
「あのー...ベットが2つって....」
「お酒とってくるからしばらく待ってて〜!」
ジュディアに聞こうとしたがタイミングが噛み合わず聞けなかった
リビングのソファに横たわり天井を見つめる
真っ白で何の模様もない天井...
「ザンさん 体調の方は大丈夫ですか?」
レヴィディアが話しかけてくる
声色はいつも通りで何の変化もない
「特に問題ないな...強いて言えば軽い疲労感ぐらいか...」
俺は軽く気怠げに言い返した
あぁ疲労感はある...だが動けない程ではない...
体力はあるようだ...自分の現状を考えると過去の自分が気になってくる...
過去の俺は一体何をしてたんだろうか...
まぁとんでもない超能力を使えるジュディアさんに絡まれてるんだ
やべーもんに巻き込まれたか首突っ込んだのは予想できる...憶測に過ぎないが
「よっぽどのバカだったか...あまりにも不運だったか...」
独り言が口から溢れる
「どうかされましたか?」
レヴィディアがこちらに顔を向け首を傾げる
「いや...過去の俺が何してたか考えてただけだよ...」
天井を見つめ続ける
廊下から足音が聞こえる
ドアが開きジュディアが入ってきた
右腕には瓶や缶ビールがギッチギチに入ったビニール袋を下げ左手には白色の箱を担いでいる
「よぉーし飲むぞー!!」
ジュディアが膝より低いテーブルに酒を並べ始める
レヴィディアがテーブルの横に座り俺も身体を起こしソファに座る
「そういえば名前聞いてなかったね」
ジュディアがレヴィディアに名前を聞いた
「レヴィディアです」
「レヴィディアちゃんねOK!」
真顔で話すレヴィディアと違ってジュディアのテンションは高い
「サイバーブラッドは何タイプ?」
持ってきた白色の箱を弄りながらレヴィディアに聞く
「今使用しているのはタイプBです 一応タイプDも使用可能です」
レヴィディアが答える
知らない単語だ...
「えっと サイバーブラッドって何?」
知らない事はとりあえず聞いておこう
「アンドロイドの体内を流れる青色の血だよ
サイバーブラッドは体内情報伝達システムの一部であり
身体を動かすバッテリーでもある
だから定期的に交換が必要なのさ」
ジュディアが青色の血が入ったパウチと空のパウチを白い箱の装置に取り付けながら解説してくれた
「さっ! レヴィディアちゃん上の服脱いで!」
レヴィディアが服を脱ぎ始めた
俺はソファに横たわりまた天井を眺める
服を脱ぎ終えたレヴィディアがジュディアに背中をむける
背中のパネルを開きジュディアが軽く見渡す
「うーんC系列だから ここだね」
白い箱から2本の管を引っ張りレヴィディアの背中に差し込む
白い箱のボタンを押すとブゥゥンと唸り始め血液交換がスタートする
「ちなみにサイバーブラッドの交換って何分ぐらいかかるの?」
天井を眺めながら質問する
「大体2分ぐらい」
ジュディアが管を見ながら答える
しばらくすると白い箱が止まり取り付けていた管を外す
背中のパネルを閉めレヴィディアが服を着始める
「交換はこれで終わり いつまで天井見てるの?w」
ジュディアが笑いながら言った
俺は身体を起こしまたソファに座る
「んじゃ気を取り直して飲むぞ〜!」
ジュディアが缶ビールを開け飲み始める
「今更だけどジュディアさんって酒飲める歳なの?」
ジュディアに缶ビールを渡されながら聞く
「何〜私が若く見えるってぇ?」
嬉しそうに怠絡みしてくる 酒の回りが早いようだ
「ん〜まぁ100年以上生きてるし大丈夫っしょ」
ジュディアはそう言いグビグビと飲み進める
100年以上ってマジかよ戦争時代に生きてた事になるぞ
「まぁ長生きなのは戦争時代の強化手術のおかげだよ...」
ジュディアが酒を飲む手を止める
「強化手術は体内保持エネルギー量を底上げする機関を体内に埋め込む
2000年戦争時代の技術です
インテンシファイと呼ばれる超能力を一般人も使用可能する為に発明されました」
レヴィディアが説明してくれた
「そうそう そんで私のインテンシファイ...能力は炎の生成とその成形だね
能力ってのは大飯食らいでね〜
その強化手術を受けないと能力の使用どころか
自分の持ってる能力の認知すらできないのさ」
そう言うとジュディアは酒を飲み進める
「能力を持ってて100年も生きてるってことは...戦場に...?」
恐る恐る聞いてみる
「あぁもちろん最前線で戦ったよ...ガザル地区なんかでね」
ジュディアが首元のネックレスを弄りながら話す
「ガザル地区って今復興中の?」
病院のテレビのニュースを思い出す
「ふははっ復興だなんてw政府は何も手をつけてないよw」
ジュディアが笑いだす
「えぇマジかよ...」
「グレートフォールのみんなもそんなニュース信じてないよw」
ジュディアは息を整えながら言った
「実際に見ればわかるよ
ニューデトロイトを東に行くと再現都市の東京があって
さらに東に行くとガザル地区さ」
「ザンラースの政府は酷いもんだなぁ」
俺は呆れたように言った
「腐ってるのは旧地球人側ね...
獣人族側の政府も大概だけどこっちよりまだマシ...」
ジュディアも呆れたように話す
「ザンラースの政治体制は他惑星と違って色々特殊でね
一般的には人類種同士の戦争なんかが起きないように
1つの惑星に1政府なんだけど...
旧地球人がザンラースに移住してきた時には既に獣人族が住んでてね
色々話し合った結果移住を許可されてるって感じで色々ややこしいのよ」
ジュディアが3本目の缶ビールを手に取りながら話す
「獣人族は人類種の一種ですよ ザンさん」
いつものレヴィディアの解説だ
「ありがとう...って喋り方変わった?」
「タイプDの効果か出てきたね」
ジュディアが4本目の缶ビールに手を出す
「サイバーブラッドのタイプDは最新のやつでね
感情モジュールの性能を引き上げてくれるとかなんとか...
本物の人間みたいで気持ち悪いって言われて売れ残っちゃってるらしくて
結局今もタイプCが主流みたい
うちのエンジニア担当のアンドロイド修理を軽く手伝ったくらいで
私はそこまで詳しい訳じゃないんだけどね」
相変わらずジュディアはグビグビと酒を飲み進める
俺もさっき渡された缶ビールを開け飲み始める
しばらく話していると1時間ぐらい過ぎた
「グレートフォールって結局何なんすか?」
「えっとグレートフォールはね...
元々2000年戦争で戦ってた兵士たちの生き残りや無法者の集まりでね...
街中で湧く怪異や呪霊の対処をしたりね......
非公式でアンドロイドの修理やっるところだよ.........」
ジュディアはなんだか眠そうだ
「怪異は純粋な恐怖の具現化で呪霊は怒りや憎しみの具現化です」
解説ありがとうレヴィディア
ジュディアがビール缶を握りめながらテーブルに突っ伏した
「大丈夫ですか?ジュディアさん」
レヴィディアがジュディアの肩を突っつく
寝てしまったようだ...
レヴィディアがジュディアの手から缶ビールを取りジュディアを持ち上げる
そのまま寝室へ連れて行きベットに寝かせた
アンドロイドって力持ちなんだな...
なんだか俺も眠くなってきた
ソファに寝そべると眠気が強くなっていく
「おやすみ レヴィディア...」
そのまま寝落ちしてしまう
「おやすみなさい ザンさん」
『再現都市 東京 13月16日 03:22 とあるビルの屋上』
「ほらヘカテー 大丈夫だよ」
幼い少女の声が聞こえる
「......ナ...タ.........ナタ...」
掠れるような声が答える
少女の前には腕が7本あり手の指が6本で顔が渦のように抉れ
まるで肉がないかのように痩せ細った体の大きな怪物が立っている
ナタと呼ばれる少女はその大きな怪物ヘカテーに対して笑顔で接している
「調子はどうだい? 2人共」
首に黒い鱗を持った男が現れた
「あなたの助けなんか無くたって十分任務は進めれるわよ」
ナタが不機嫌そうに言った
「そうだね...君たちには期待しているよ」
そうにこやかに言うと黒い鱗を持った男は少し遠くにいる和服の男の所へ歩き始める
「君はどうするんだい道満?
君は私たちと違って大きな目的を持っていないが」
黒い鱗を持つ男が糸目で和服の男に問いかける
「相変わらず失礼だなぁ君は...だから色んな人に嫌われるんだよ...
でも僕はもう暫く見学かな...」
「そうか...君の力を拝めることを祈るよ」
黒い鱗を持つ男はそう言い残すと暗闇に消えた
「失礼な君はきっと僕の力は見れないよーだ!
でもまぁ面白そうなのが見れそうだね」
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