第2話「炎のガンスリンガー」

「よろしくなガキンチョ! 色々お話したいが生憎手が離せなくてね」

妙に馴れ馴れしい...まるで俺のことを知っているかの様な口ぶりだ

女性が背を向けた時咄嗟に声が出た

「俺の過去を知ってるのか?」

彼女は振り返りウィンクしながらこう言った

「後で教えてあげる♡ 駅で落ち合おうね!」

言い終えると彼女はとんでもないジャンプ力でビルへ飛び移って行った

「...なんだったんだ?」

俺は困惑で立ち尽くしていた

「謎の女性が路上駐車している車をペチャンコに踏み潰し

 記憶喪失の貴方とニューデトロイト駅で待ち合わせの約束をしました」

レヴィディアが真顔で淡々と解説してくれる

それを聞いた俺は皮肉混じりに

「解説どーもありがとう...さっぱりだ!」

とにかくさっきの女性が俺の過去について何かしら情報を持ってる可能性がある

「待ち合わせ場所に行こう さっきの人と話ができれば何か」

ガッシャァァァン!! 向かい側のビルの7階ぐらいの窓ガラスが勢いよく割れた

割れた窓の中から何本もの鎖が暴れ散らしながら出てくる

錆びた鉄の様な色をしたアメーバ状の怪物が鎖を手足の様に操っている

「こういうのって惑星ザンラースでは日常茶飯事なのか!?」

焦っている俺を見てレヴィディアは冷静に解説してくれた

「いいえ 過去23年間この様な出来事が起きた記録はありません」

するとものすごい速さで鎖が飛んできた

俺は咄嗟の判断で足元にあるペシャンコになって外れた車のドアを持ち上げた

だが鎖が引っかかったのか一瞬にしてドアの窓枠が吹き飛んだ

バァァァン!! 耳を劈く様な銃声が街に響いた

ビルの屋上に先ほどの謎の女性が立っており右手には炎の様に燃え光るリボルバーらしきものを手にしている

鎖の怪物が呻き声をあげている

屋上にいる女性は鎖の怪物の本体に銃口を向けもう一度発砲する

着弾までの間弾丸が太陽の様に輝く

怪物がの体から紫色の血飛沫が溢れている

「たった2発でこのザマとは...わざとらしい...」

屋上にいる謎の女性が呆れた様に言った

ここは危険だ

「レヴィディア! 一旦駅へ向かおう 走れるか?」

俺は焦りながらレヴィディアへ聞いた

「了解です 走れます」

こんな状況でも冷静だな...アンドロイドだからだろうけどよ

レヴィディア達は駅に向かって走り出した

「お! ガキンチョ達が逃げてくれてる これならガンスリンガーの本気を出せる!!」

ガンスリンガーが満面の笑みで言った

彼女の左手から炎が湧き出しリボルバーを形作った

「楽しませてくれよぉ!!チェーンソーの怪異!!」

怪異からけたたましいエンジン音が鳴り響き回り始めた鎖が遠心力で宙に浮く

何本もの鎖を伸ばし屋上にあるアンテナに引っ掛けビルをよじ登ってくる

登ってくる最中アメーバ状の体をぐちゃぐちゃと掻き回し人型に成形しだす

怪異が屋上に立った瞬間 バァァァン!!

ガンスリンガーが目にも止まらぬ速さで発砲し成形していた頭が弾け飛ぶ

ビルの屋上にアメーバ状の肉片が飛び散る

「だからお前はこの程度じゃねぇだろ...」

ガンスリンガーがニヤニヤしながら怪異を見下す

怪異の体がボコボコと沸き立ち頭を再成形する

再成形した頭から口の様なものが現れエンジン音の混じったような声で叫ぶ

「ニヒッ!」

ガンスリンガーの顔から笑みが溢れる

バァバァバァァァン!! とてつもない速さで銃口を向け右2発左1発を放つと同時に怪異が間合いを詰めてくる

1発目は怪異の頭を掠め付近を抉り取り2発目は振り回された鎖によって弾かれる

3発目は左腕の付け根を吹き飛ばす

右手に持っていたリボルバーが燃え尽きるように消えた

怪異は吹き飛ばされた左腕に鎖を絡め大きく振りかぶりガンスリンガーに向かって叩きつけた

だがガンスリンガーは宙に舞い軽々と避け間合いを保ち続ける

怪異が風船の様に体を膨らませ衝撃波を放ちガンスリンガーが地に足をつける暇もなく吹き飛ばした

千切れている左腕を付け直しガンスリンガーを追う

ガンスリンガーはビル14本分ぐらい中を舞った後左手に持っていたリボルバーを片手ショットガンに変え後方に向かって放った

その反動で空中を追ってきていた怪異の頭上に飛びショットガンを大型ライフルに変え怪異に向かって放ち轟音と共に地面へ叩き付けた

彼女は軽やかに着地し微動だにしない怪異を不思議そうに見下した

「もう少しやれると思ったが...まぁ戦争時代じゃあるまいしこんなもんか...」

するとサイレンが鳴り響き『イージス・サイバーテック』と書かれた航空車両が付近に着陸した

航空車両から青色の装甲を身に纏い複合ライフルを持ち歩く隊員が8人ほど降りてきてガンスリンガーに向けて銃を構える

「手を上げろ!!」

エリートガードが怒鳴り声をあげる

「なんだエリートガードか...ちょっと今首突っ込まないでもらえる?」

彼女は不機嫌そうに手をあげ怪異に背中を向ける

その瞬間怪異が起き上がりエリートガードとは反対方向へ走りだす

「あぁまずい!」

ガンスリンガーが急いで追いかけエリートガードは怪異に向けて11発発砲する

怪異は3発ほど被弾したが怯みもせず走り続け平和記念公園の木々に紛れ込む

ガンスリンガーも公園の中へ入って行った

しばらく周囲を調べていると木々の間に気分の悪そうな男性を見つける

「あの! 錆びた鉄の様な色をした怪物見ませんでしたか!?」

男性は俯いたまま首を横に振る

「チッ!!」

彼女は舌打ちをし公園の外へ歩き出した

公園の外に出るとそこは追悼式が行われている場所だった

4機ほど航空車両が着陸しており白色の隊員達が周りを囲っている

要人らしき人が隊員と会話し航空車両へ乗り込んでいる

「おい 動くな!」

ガンスリンガーは白隊員2人に呼び止められ銃を向けられた

「はいはい...」

彼女はイヤイヤ手を上げたが突如走り出しビルへ飛び移って行った

「あ! おい待て!!」

白隊員は呼び止めようとしたが無駄だった


「爆発音が聞こえなくなりましたね」

レヴィディアが周囲をキョロキョロ見回しながら言った

「だが車をペチャンコに潰した人は来ないな...」

俺は疲れた様に言った

「呼んだかい? 坊や」

先ほどの女性がどこからとも無く現れた

今回は派手な登場はしなかった

「とりあえず名前教えてもらえます?」

名前を教えてもらわないとずっと車をペシャンコにした人って呼び続けなきゃなんない

「あ! そうだね名前教えてなかった 私の名前はジュディア・サーナリー

 炎のガンスリンガーさ!」

ジュディアはウィンクをした

あぁ底なしに明るい人だ...記憶が無くても直感で分かる...俺の苦手なタイプだ

「私とつるむ前に1つ警告しておくよ 史上最悪の地獄を見る覚悟はあるかい?」

ジュディアは明るい笑顔でそういった...

「まぁ君がこんな脅し文句に怖気付く様な人ではないって知ってるけど...一応ね?」

やっぱこの人は過去の俺と何かしら関わっている人だ...

「ご忠告どうもありがとう だがあんたの言う通り脅し文句には乗らないさ」

俺はジュディアの目を見て言った

「やっぱそう来なくっちゃ!!」

ジュディアが俺の肩をポンポン叩く

「あぁ悪いけど2人ともしばらくの間家には帰れないからね! だから私の隠れ家へ案内してあげる!」

軽く言ってくれるが荷物どうすんだよ...

突如シルバーカラーの無人車が路肩に止まる

「おぉ最高のタイミングで来てくれた! さぁ乗って乗って!」

俺とレヴィディアは後部座席に座った

ジュディアさんは運転席に座ったが...座席を回転させた

「ジョブ あとよろしくー」

ジュディアが車内パネルをノックしながら無責任に言い放つ

「はいよー」

パネルから男性の声が聞こえた

どうやらこの車は遠隔操作で動いてるようだ

ジュディアに見つめられながらしばらく車に揺られていると俺の家のボロアパートと同じぐらいボロボロの一軒家のに着いた

車から降りるとガレージが開いた

ガレージの中は外外見とは真逆で全面が白タイルでピッカピカだ...

壁には様々な銃が飾られている...

ジュディアがにこやかに言った

「ようこそ 生存兵の溜まり場 グレートフォールへ」

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