可愛い女の子になりたいけど、現実は男の子のまま!?でも大丈夫、僕の幼馴染は最強の理解者でした!

きょうこ

第1話  私は女の子だと信じたい


 規則正しい足音が聞こえ、やがてドアが開く音がした。瞬く間に布団が剥ぎ取られる。そこに立っていたのは、幼馴染の綾奈だ。小学生の頃から、朝が苦手な真人を毎朝起こしに来てくれる、いつもの光景。


「ま〜こ〜と〜!朝だよ〜!起きろ〜!」


 綾奈の声が響く。寝相が悪いせいか、真人の身体を包む薄い水色のパジャマは少し乱れている。紺色のリボンとフリルがあしらわれた可愛らしいそれは、見る者の目を引いた。視線を股間に送れば、パジャマの生地越しに、はち切れんばかりに主張している存在があった。


 綾奈はニヤリといたずらっぽく微笑むと、真人の耳元に顔を寄せ、囁いた。


「んもう、こんなに張り切っちゃって。起こしに来るの、待ちきれなかったのかしら?」


 そして、パジャマの上からその隆起を、つんつんと指で突いた。


 一気に意識が覚醒する。


「きゃっ!やめてよ!!」


 真人は布団を引っ掴んで飛び下がり、慌てて股間を隠す。恥ずかしさから顔がみるみる赤くなる。綾奈は楽しそうに笑いながら、股の方を指さして、追い打ちをかけるように囁いた。


「そんなところも可愛いんだから。ね、早く起きなよ、学校遅れちゃうよ? …そっちはもう起きちゃってるのにね。」


 少しドキドキしながらも、このいつもと変わらない日常のやりとりに、真人はホッと胸を撫で下ろした。


 ベッドから起き上がり、鏡台の前に座ると、真人の背後に綾奈がすっと回り込んだ。長い髪を優しくとかし、右の前だけを器用に三つ編みにしてくれる。それが彼、いや、彼女のいつものヘアスタイルだった。


 着替えるため、綾奈には一旦部屋から出てもらった。可愛いクマさんの柄のショーツと、それに合わせたブラを身につけると、気分が高揚する。鏡の前でくるくると回ってみたり、うっとり見惚れてみたり。


 すると、ドアの外から綾奈の急かす声が届いた。


「ほら〜!遅刻するよ!」

「い、いまいく!!」


 慌てて制服のブラウスに袖を通し、胸元でリボンを結ぶ。紺色のスカートを履けば、今日の身支度は完成だ。学生鞄を掴んで部屋を出ると、綾奈が腕を組み、待ちくたびれたように立っていた。


「えへへ、お待たせ」

「くぅ〜、今日も可愛いわね、まこと!」


 綾奈はそう言うと、抱きしめて真人の頭を優しく撫でた。嫌がるそぶりをするが、実はこの愛情のこもったやりとりが、真人は大好きだった。そのころには、朝の主張はもうすっかりおさまっていた。




 僕、いや私、真人(まこと)は女の子だ。身体は男の子だけど、誰がなんと言っても、自分のことは女の子だと信じている。



 幼い頃、男の子の服や遊びに強い違和感を感じていた。可愛い服を着て、おままごとやお人形で遊びたかった。


 そんな思いを胸に秘めていた小学三年生の時、転機が訪れた。担任の生天目(なばため)先生が、「好きなものは人それぞれ。好きなものは好きでいい」と教えてくれたのだ。


 放課後、思い切って自分のことを先生に相談することにした。いつもは賑やかな教室も、この日は真人と生天目先生だけが残っていた。


 真人は黒色のランドセルをぎゅっと抱きしめ、視線を足元に落としている。生天目先生は、真人の目の前で優しく膝をつき、真人の視線に合わせてくれた。


「真人くん、何か先生にお話があるって聞いたけど、どうしたの?」

 

 先生の声は、いつもと同じ、穏やかで優しい響きだった。しかし、真人の胸はドキドキと高鳴っていた。ずっと誰にも言えずに心に秘めてきた、一番大切な秘密を打ち明けるのだ。


「あの…僕…」


 真人は小さく呟き、そこで言葉が詰まった。喉の奥がキュッと締め付けられるようで、続きの言葉が出てこない。先生は急かすことなく、ただ静かに真人の次の言葉を待っていてくれた。その沈黙が、かえって真人に勇気を与えた。


「僕…男の子の服とか、遊びとか、あんまり好きじゃなくて…」


 ようやく絞り出した声は、震えていた。先生は何も言わず、ただ真人の話に耳を傾けている。真人は、意を決して顔を上げた。


「本当は…可愛いスカートとか、お人形とかで遊びたいの。僕…ううん、私、本当は…女の子なの!」


 最後の言葉は、真人の心からの叫びだった。言い切った途端、真人の目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。先生は優しく真人の頭を撫でてくれた。


「そっか。真人くん…、ううん、まことさんだね。まことさんは、本当は女の子だって感じているんだね」


 先生の声は、驚きも否定も含まない、まっすぐなものだった。真人は涙で滲む視界の先に、先生の優しい笑顔を見た。


「先生ね、まことさんの気持ち、少しだけどわかる気がするよ」


 真人の前でしゃがみ、視線を合わせる。


「先生もね、小さい頃、周りの女の子たちが興味を持つものに、全然ピンとこなかったことがあったんだ。新幹線が好きで、特にドクターイエローっていう、新幹線のお医者さんの新幹線が大好きだったの。みんなに男の子っぽいっていつも言われてた。お母さんにも『女の子なのに』って言われたこともあったんだよ」


 先生はそう言うと、少し寂しそうに、でもすぐに優しい笑顔に戻って続けた。


「でもね、先生は思ったんだ。好きなものに、男の子も女の子も関係ないって。人が何を好きかなんて、誰かに決められることじゃないってね。まことさんが『女の子だ』って感じるなら、それはまことさんの、かけがえのない気持ちなんだよ」


 先生の言葉は、まるで固く閉ざされていた真人の心の扉を、ゆっくりと開いてくれるようだった。自分と同じように、誰にも理解されないかもしれないと思っていた気持ちを、先生は否定せず、むしろ肯定してくれたのだ。


「まことさんが、どんな自分になりたいか。どんな自分でいたいか。それは、まことさん自身が決めていいことなんだよ。先生は、そんなまことさんのことを、ずっと応援するからね」


 先生の温かい手が、真人の震える手をそっと包み込んだ。その瞬間、真人の心に、これまで感じたことのないような、確かな光が差し込んだのだった。


 生天目先生は、女の子として生きる選択肢もあることを教えてくれた。


 その日から、真人の世界は一変した。可愛いショーツ、可愛いスカート、可愛いキャミソール。ずっと着たかった可愛い服を、もうなんの気兼ねもなく着れるようになった。


「私は女の子なんだ」


 パジャマの柔らかな布地が肌に触れるたび、スカートが風に揺れるたび、その確信は深まる。身体が男の子であっても、この心が感じる『私』は、間違いなく女の子なのだと、魂が納得する音を聞いた気がした。



 生天目先生との出会いをきっかけに、真人の世界は大きく広がった。女の子としての自分を受け入れ、可愛い服を身につける喜びを知った。


 もちろん、常に順風満帆だったわけではない。学校では、男子からの奇異の視線や、時には心ない言葉に傷つくこともあった。


 それでも、綾奈はずっと真人のそばにいてくれた。彼女は、真人の「女の子としての私」を誰よりも深く理解し、支え続けてくれた唯一無二の存在だった。



 小学生の高学年になると、真人の体は思春期を迎え、男性としての成長も始まる。体つきの変化に戸惑い、自分の性自認とのギャップに苦しむ時期もあった。


 鏡を見るたびに、複雑な感情を抱いた。しかし、そんな時も綾奈は決して真人を一人にせず、優しく寄り添い、励ましてくれた。彼女の存在があったからこそ、真人は自分を見失わずにいられたのだ。



 中学生になると、声変わりが始まり、真人を悩ませたが、もともと高い声だった事もあり、綾奈曰く、少し低くなったけど、違和感はないらしい。


 学校では、真人はさらに「女の子」としての一歩を踏み出した。女子の制服、いわゆるセーラー服を着て登校し、休日は積極的に女性らしいファッションに挑戦するようになった。


 周囲からの視線は相変わらずだが、真人は「自分らしさ」を表現することに喜びを感じるようになっていた。時には勇気を出して、理解のある友人には自分のことを「女の子」として話すこともあった。




 そして、高校生になった今、真人は自分を偽ることなく、一人の「女の子」として日々を過ごしている。学校では、当然、セーラー服に身を包み、友人たちからは当たり前のように「まことちゃん」と呼ばれている。


 学校側も配慮してくれていて、名簿では女子の欄に真人の名前が記載されている。


 もちろん、身体には男性としての特徴が残っているし、戸籍上の性別が変わったわけでもない。しかし、綾奈をはじめとする理解ある友人たちに囲まれ、何よりも自分自身が「女の子」であると強く感じられることが、真人にとっての真実だった。


 朝、綾奈に起こされて、いじられながらも身支度を整える日常は、真人が最も大切にする、ありのままの「私」が息づく時間なのだ。

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