第9話:教祖

辺境都市ダブレを支配するエミリーには、

今、どうしても腹に据えかねている連中がいた。

――「オニール教団」である。


ゲームをプレイしていた時は便利な味方だと思っていたが、

実際に領主として対面してみれば、これほどムカつく連中もいない。


汚職に手を染めていた一部の聖職者を国外追放にしたことが、

教団側には「全面戦争の合図」と受け取られたようだ。



(このスーパー どクズ極悪令嬢エミリー様に楯突くなんて、いい度胸ですわ!)



当初ミランダを使って全員 ブチ殺しまくると感情的になっていたが、

いくら最強の殺し屋である ミランダでも 

多勢に普通に返り討ちにあって 殺されるだけだ。


畜生っ。


ようは、宗教家の連中にしてみれば 

都市の発展や経済が良くなる事は、一概に良いとは言えない。

また、科学の発展に いちいち イチャモンを付けて 邪魔してくる。


なにより 利口な民は 宗教離れの原因になると考えてる。


「めんどくさい奴らだ。」




そして 私が遂にブチぎれる事件が起きた。


潤沢な資金を得た私は、 

牛や豚の大規模牧畜に乗り出したのだ。だがそうなれば 

オニール教団の支持団体の肉製品などの価値が下がる。


ついに 教団の連中は夜の闇に紛れて牛を盗み、

豚を殺害するという「聖職者」とは思えぬ暴挙に出たのである。


私は豚の油から石鹸製造を考えていた。 

また食料としても価値があったし、

牛は農機具を引いたりも出来た。


それから 豚の毛で歯ブラシを作りたかった。 

現代の日本からの転生者の私は、

とにかく私自身が石鹸や歯ブラシが欲しかった。


それを邪魔するオニール教団は許せなかった。



「ぶっ潰してやるわ。」



エミリーは即座に行動を開始した。


まず、街中の芸術家を館に召喚し、彼らに「漫画」を描かせた。

ヒーロー物、ミステリー、大河ロマン、恋愛物、そしてSF物も。

「娯楽」という名の毒を撒き散らし、


子供たちの識字率を爆発的に引き上げることで、

教団の知識独占を根底から破壊するのだ。


さらに、表音文字しかないこの世界に、

象形文字である「漢字」を導入してやるのよ。

小学校低学年レベルの文字数だけでも、情報の伝達力は劇的に変わる。


宗教家たちの知識独占をぶっ壊してあげますわ。

そしてオニール教団の教えとは違う価値観をうえるのよ。 

「道徳心や不条理なども。」


そろばん大会は賞金付きのビッグイベントにして。

子供たちを「算術ジャンキー」にして差し上げますわ!


潤沢な資金がある 今、大量生産して、

子供達に無料で配りまくってやるわ。



そうよ 思いついたわ!!。 新宗教を作って、

そろばんを教えて、漫画図書館を作り子供達が読めるようにする。


完璧だわ。 フフフッ。

エミリーは ミランダを呼び出した。


ミランダ、貴方 私の言う事なら何でも聞くんでしょ?。


ハッ 仰せのままに。


ミランダ、貴方は今日からミランダ教の教祖よ!!。


はっ?。えっえっえっ?。 意味が解りません。 エミリー様。


そのままの意味よ。 


いやっ えっと。  何ていいましょうか、

私は殺し屋です。 

神様から一番遠いい存在です。


エミリーは爆笑した。 


オニール教団だって、街で転がってる子供を1人だって 

助けたりしない、お金にならないし。


むしろ宗教家なのに どいつもこいつも 金と女、腐敗しまくってるわ。



神だのなんだの えばり散らしてるけど、

あいつらだって、そこらの母親から生まれた ただの人間よ。


それに比べて貴方は何、

お母様の為に殺し屋になった


それは、この館を守る兵士たちが

国や家族のために戦う、 

職業軍人となった者達と何も変わらないわ。 


「貴方はお母様の為に自分を犠牲に出来る」。

私に言わせればずっと あなたの方が神に近いわ。



ミランダは言葉を失った。



これまで「罪人」として自分を呪い続けてきたミランダにとって、

その言葉はあまりに衝撃的で、



あまりに救いに満ちていた。



それに 普通の聖職者が新宗教の教祖になれば 

速攻、オニール教団に殺されちゃうし。 貴方なら適任よね。フフフッ

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