第7話:毒蛇
冬から春にかけて 季節が変わる頃、
エミリーは「体調を崩し、館で寝込んでいた」
そして情報は、すぐに利権組の耳に届いた。
「おい聞いたか。あの小娘、毒気にあてられたのか臥せっているらしいぞ」
「フフッ、チャンスは待ってみるものだな。……決行するか?」
密室に集まった汚職役人と聖職者たちは、言葉なく頷き、闇へと散っていった。
官職Bの屋敷。影の中から女殺し屋が音もなく現れる。
「お呼びでしょうか?」
「ああ。例の件、今夜決行してくれ」
「ハッ 了解いたしました」
領主の館では、明かりは消されて 皆、寝静まっていた。
エミリーの寝室に 忍び込む 女殺し屋は静寂を保ち、
ゆっくりベッドに近づいていく。
そしてかけ布団の膨らみを短剣で一突きにした。
だが、手応えがない。
弾かれるように布団を剥がすと、
そこには枕が並んでいるだけだった。
(罠だ……!)
気づいた時には遅かった。バルコニーへ逃げようと窓を蹴破れば、
そこには二十人の屈強な兵士が待ち構えている。
踵を返して廊下へ出ようとしても、数十人の兵士で廊下がふさがり進めない。
天井裏へ逃げ込もうとした瞬間、上からも兵士が顔を出した。
次の瞬間、頭上から放たれた捕獲の網が彼女を絡め取る。
「……捕らえたぞ!」
寝室に蝋燭の明かりが灯された。 逆さまに吊るされ、身動きの取れない女殺し屋。
そこへ、両手を後ろに組み、不敵な笑顔を浮かべたエミリーが悠然と姿を現した。
「あらあら、はしたない。逆さまですわよ。――ミランダ」
「なっなぜ、私の名を……!」
(・・・そりゃそうよ どんだけやったと思うの このゲーム)。
エミリーは冷酷な笑みを深めた。
「名前なんてどうでもいいわ、ミランダ。言っておくけれど、
官職Bはあなたのお母様の治療なんてしてないわよ。
あんな奴を信じるなんて、おめでたいことですわね」
母の病気のことまで知られている事実に、ミランダは絶望する。
ねえ聞いて、ミランダ。明日には官職Bは無一文。だから、
私につきなさい。そうすれば、
今度こそお母様の治療費を出してあげてもよくってよ。
「従わないなら、あなたも、お母様も、終わりね。フフフッ」
その時のミランダには、エミリーが冷徹な毒蛇の様に見えた。
だが 従がわなければ、母はどうなる?。
そもそも、私はエミリーを殺しに来たのだ、
「まともな未来はあるまい。」
ミランダは自分はどうなっても構わないが、母だけは 助けてほしかった。
ミランダの苦渋の選択だった。
「……わかった。だが約束は守れよ、エミリー!」。
◆
翌朝、今回の暗殺計画に関わった聖職者と官職、計15名全員が捕縛された。
彼らは全財産を没収された上で国外追放処分となり、
エミリーは山のように積まれた没収金を見て、館のホールで狂喜乱舞した。
「アーッハハハハハーッ! こんなに溜め込んでいたのね、
悪い子たち。せいぜい国外で、みじめったらしい余生を過ごすと いいですわ!」
「ああ、私、今すごく悪女だわ……! 最高に気分が良いですわ!」
エミリーはアホ面を晒して笑い転げた。
彼女の中での「悪役令嬢評価」は過去最高を更新していたのである。
後日、約束通りミランダの母親は王都の病院へと運ばれた。
治療費など、今回得た莫大な隠し財産からすれば
1万分の1にも満たない、はした金である。
「残りの金はすべて投資よ。……倍プッシュですわ!!」
エミリーはダブレの若者たちに目をつけた。優秀だが貧困ゆえに学べない者たち。
彼らを「奨学金と嘘をつき」将来の建築士、医師、技師、科学者へと育て上げる計画だ。
(死ぬほど勉強させて、一生私を潤わせる『奴隷、いえ 家畜』にするわ。
毎年、王都の大学に200人はブチ込んで差し上げますわ!)
おーっほっほっほ!!
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