第4話:ソルジャー

エミリーはダブレの街を散歩しながら考えに耽っていた


農村の状況が改善したからと言って 

生産量が即 元通りになるわけではない。


今は暖かい季節だ それだけは救いだった

だが 今年の冬には この街は食料不足に陥る


餓死者が出るのは ほぼ確実

そうなれば 


エミリーの悪魔の重税計画は 根本から破綻する


どうしたものか・・・。



ダブレの歓楽街。

表通りはそれなりに灯りがともり、人通りも戻りつつある。

だが、一歩裏道に入った瞬間、状況は一変する。


薄暗い路地に、売春婦たちが肩を寄せ合って座り込んでいた。


客はほとんど来ない。


衣服は擦り切れ、肌は痩せこけ、視線は絶望に沈んでいる。

聞けば、彼女たちの多くは戦争で夫を亡くし、


その日のパンを買うために仕方なくこの仕事に就いた者ばかりだという。


(……同情はしてあげる。けど、金にならない女なんて私の領地には不要なのよね)



私が冷ややかにため息をつきかけた、その時だった。

路地の隅に、ガリガリに痩せ細った子供たちが何人も倒れ込むように

座っているのが目に入った。


頬はこけ、服はボロ布。だが、どの子も売春婦たちによく似た面差しをしていた。


(つまり、この女たちの子供ってわけね)


私は腕を組んで思考を巡らせる。

このまま放っておけば、彼らは確実にチンピラになり、

盗み、喧嘩、薬物、あらゆる悪事に手を染めるだろう。


(嫌よ! そんなの! せっかく私がダブレを「金のなる木」にしてるのに。

将来この街を汚すゴミに育つなんて……絶対に私の邪魔をさせないわ!)


その時、クズな私の脳内に悪魔的な閃きが走った。


露店の裏には、売れ残った野菜や魚が

黒ずんで積み上げられていた。


食料はあるのに、保存できないせいで 捨てられていく。


「……そうだわ。缶詰……は技術的に無理でも、『瓶詰め工場』を作りましょう」


ダブレの食糧事情はまだ不安定だ。

保存の利く食品を大量生産すれば、

飢えが減って労働力は安定する。


何より、将来的に「鬼のような税収」が見込める。


「この女たちを雇えばいいじゃない。

売れない売春婦より、工場で働く母親の方が、

よっぽど私の役に立つわ!」



私は心のなかで叫んだ  

「労働者 ゲットだぜ!!」


徘徊している子供たちは工場に併設した施設で預かる。

つまり、学童保育としてまとめて管理する。


徹底的に教育し、 最低限の読み書き計算、

そして社会規律をこれでもかと言わんばかりに叩き込む。


(従順で働き者の労働者階級に育てるのよ……!

そう 将来のスーパー納税ソルジャーとして完璧に!)


私は思わずニヤリと悪い顔になった。


「ふふふ……義務教育を導入しちゃいましょうかしら?。  

――もちろん、この私のためになるようにね。」



売春婦たちの絶望した瞳。


子どもたちの痩せた体。


それらすべてが、私の“使える駒”として再生されていく。


ダブレの街は、知らぬ間に 悪魔の悪役令嬢エミリー式

改革独裁国家 へと変貌を始めていた。

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