第3話:屈辱の回収ビジネス
元囚人たちは、驚くべき勤勉さで働いた。
みるみるうちに畑は見違えるほど豊かになり、
約束のひと月が過ぎた頃、
彼らはあろうことか
「これからもエミリー様の下で働きたい」
と泣いて縋ってきたのだ。
そもそも彼らの多くは「冤罪」だった。
それなのに、私は彼らを地獄のような
ブラック労働に叩き込み、
「鬼のようにコキ使った」はずである。
それなのに、彼らの口からは「女神様」などという、
意味の解らない言葉が飛び出し始めた。
(どうして こうなるのよ、畜生ーーっ!)
いいわ、そこまで言うなら女神なんて二度と言えないようにしてあげる。
徹底的に、クズ悪女として「汚い仕事」でイジメ抜いてやるわ!
◆
エミリーは、ダブレの街に充満する
「悪臭」を憎んでいた。
その臭いは 排泄物の臭いである。
貧しい者たちは道端で用を足し、
家のある者も窓からバケツの中身を路上にぶちまける。
街は不衛生の極みで、悪臭が鼻を刺した。
その一方で、修繕した畑は土こそ良くなったものの、
肝心の「肥料」が圧倒的に不足していた。
その時、エミリーの脳内に悪魔の閃きが走った。――ピコーン!!
(良い事 思いついたわ フフフフッ 愚民ども 地獄を見せてあげる♡)
私は 無い胸を張り言い放った。
「あなたたちに、新しい仕事を授けてあげますわ」
「それは、『家々を回って、ウンチを買い取る仕事』ですわ!」
台車を引き、一軒一軒の玄関を叩き、他人のウンチを金で買う。
社会的にも精神的にも、これ以上の屈辱はない「底辺」の仕事。
(ざまあないわ。さあ、これでもやる気?
プライドも何もかも、糞尿まみれにしてあげますわ!)
だが、囚人たちは互いに顔を見合わせると――。
「……俺、やります!」
「俺もだ!」
「私にもやらせてください!」 と、次々に身を乗り出してきたではないか。
(ぐぬぬぬっ! こいつら、どこまで私をムカつかせれば 気が済むのよ!)
まあいいわ、どうせ悪臭と汚れに耐えきれず、すぐに音を上げるに決まっている。
やりたければ勝手にすればいいわ!
……だが、エミリーの思惑とは裏腹に 半年も経つと、
「ウンチ買いの仕事」(肥料買い)はダブレの街で最も高給な、
花形の職業に君臨していたのだ。」
「あそこの家のお父さんはウンチ買い(肥料買い)だから、」
「身なりもいいし、子供を習い事に通わせているわ」
「毎週肉が食えるらしいぞ」
当初こそ馬鹿にされていたが、
エミリーが衛生管理のために「免許制」を導入していた事が
ウンチ買い(肥料買い)の仕事を特別な物にしていた。
また 許可のない「闇ウンチ」(闇肥料)の転売まで禁止される始末である。
最終的にはウンチ(肥料)の買取価格の上限規制が入り、
農家の肥料としてのウンチの取り合いは激化を極めた。
そして今や肥料買いの仕事は街中の若者が憧れる仕事になってしまったのだ。
◆
エミリーは領主の館で、大きなテーブルを思い切り叩いた。
バンッ!!
「どうしてこうなるのよーーっ!!」
悔しい……。
あいつら、ついに私のことを「人を幸せにする魔術師」なんて呼び始めたわ。
ぐ、や、じ、い……!!
悪役令嬢としての評価は地に落ち、
逆に「聖女としての名声は天井を突き破って天界に届かんとしている。」
(今に見てなさい。次こそは、あなたたちの財布を直撃し、
致命傷を与えてあげますわぁぁぁ!)
領主の館に響き渡る悲鳴のような叫びは、どこまでも虚しく、
そしてエミリーの心はどこまでもどす黒く闇に包まれていくのであった。
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