花明かりの下で

ある日ふと見つけた、一本の桜の木。
夜になると、ぼうっと灯るように咲くその姿は、“花あかり”と呼ばれる春の風物詩のようだった。

けれど、その桜にはひとつの噂がある。
――満開の夜、その花に魅入られた者は、姿を消してしまうのだという。

浮遊霊のさゆりは、ある春の夜にその桜のもとを訪れ、
名前も記憶もない、ひとりの少女の幽霊と出会う。

咲き誇る花の下で交わされる、静かで、ほんのりあたたかな夜の時間。
ふたりの幽霊が見つめた“満開の桜”の、その先にあるものとは――

花あかりに照らされた、ひと夜の物語。