3生命体の意見


 こうして呼ばれたのが、宇宙港で勤務する生命体たちである。具体的には宇宙船整備士のヤング、宇宙港で大衆食堂を営む料理長ロバーツ、宇宙港でクリニックを開く眼科医キャンベル、そして通りかかりの超神的ちょうかみてき崇高物理学者(彼は本当に人間マンだ)トンプソンだ。

 彼ら一同は、横一列にぴったり並ぶグループワンの児童たちとスザンヌ先生たちをじろじろと見まわし、数を見定める。


「うへえ。こりゃあ、おれには難しい」


 第一声を放ったのは整備士長ヤングだ。


「もう少し年齢にばらつきは持たせられねえのか?」

「小6ですもの、どうしたって。小学校だと留年もありませんし」


 困惑顔でスザンヌ先生が応じれば、整備士長ヤングは頬を掻きたいそう申し訳なさそうに言葉を返す。


「そりゃ困る。おれは経年劣化を束で認識するんだ。だから先生やそこにいるオッサン方と、その他子どもたちってのは認識できるんだが……ああ、あと仙人がひとりいるみたいだが。もちろんそれに先生はお気づきだろうし」


 まったくもってお気づきではない。「仙人とは……?」となりながらも今それは重要なことではないので聞かなかったこととする。よってスザンヌ先生は目を整備士長ヤングから料理長ロバーツへ移す。時間がない。速やかに意見を聞き取る必要がある。


「あたしにとっちゃ重要なのは飯を美味そうに食ってくれるか食ってくれないかだよ。食材に関しちゃ重さで測るから、数えたりしない。むしろ数えるなんて愚行で数ミリグラムでも容量を誤ると、味が変わってしまうからね。料理ってのは化学実験と同じさ。うっかりミスってボン!ってならないだろうって言うヤツもいるがね。そんなことはない。味が悪いほうへ行ってしまえば客に唾を吐きつけられ、あたしらはたちまち職を失うってもんさ」


 なるほど、とスザンヌ先生は納得しつつもその一方で「これは困った」と頭を悩ませる。つまり「普通」「不味い」と感想を零した生命体は数から除外されてしまうということだ。その結果、数が10以下となってしまうと都合が悪い。

 いっそ子どもたちに「なんでもいいから美味いと言いなさい」と指導しようかと思ったが、それをすかさず料理長ロバーツが見抜いたのか、「あたしの目は誤魔化せないよ」と言った。その目はちらちらと宇宙警察官のジェンキンスの蕁麻疹へ向けられていたので、本当に見抜けていたのかどうかは定かでない。

 とにかく、料理長ロバーツの意見も使えないということだ。さっさと見切りをつけ、スザンヌ先生は眼科医キャンベルへ意識を向ける。

 

「キャンベル医師せんせいはいかがかしら。何人に見えます?」


 すると眼科医のキャンベルはビン底眼鏡を持ち上げ、眉をぴくぴくと震わせて言った。

 

「ようは先生と児童の合計数を11にしたいのだろう。なぜわざわざ、数える必要がある」


 数える行為自体を否定され、スザンヌ先生は呆気に取られる。数えなければどうやって「11人いる!」と断定できるのだろうか。


「ではキャンベル医師せんせいならどうなすったと?」

「まあ、そうさね。まずなんで誰か追加で乗せるとか、半分に割るとかできなかったのかを教えてくれるかね」

「それをすると……ジェンキンス刑事が蕁麻疹で悩まされることになりますので」

「やはりそうかね。まったくどうして宇宙警察何て呼んだんだね。誤魔化しがきかなくなって大変だろう」


 確かに、とスザンヌ先生は深く反省する。知恵を貸してくれる(11と断定してくれるとなお良い)人ならば誰でも良いという安直な考えがよろしくなかったのだ。ここはその知恵を貸してくれる生命体に必要な要件をしっかり検討し詰めたうえで、要件を満たす第三者に相談しに行くべきだったのだ。迂闊だったとスザンヌ先生は過去の自分の頬を張りたい気もちでいっぱいだ。


「過ぎてしまったことは仕方あるまい。――タイムマシン製造メーカーに問い合わせてやり直すという手もあったと思うが、それはなぜやらなかったのかね」

「タイムマシンは高くてとても。教師のお給金ではどうにも難しいのですわ」

「なるほど。ではそうなると並行世界パラレル・ワールド生成器ジェネレーターも難しかったのかね」

「あれはタイムマシンに比べると安価だけれど……でも、そのぶん成功する確率も低いので。うっかり12に収束してしまったらと思うと恐ろしくて手が出せませんわ」


 11でなければならないのである。むろん、10に収束するくらいならまだ12のほうがマシかもしれないが……その場合、スザンヌ先生が下船し引率なしで児童を白鳥座シグナス号が運ぶこととなる。あとで責任を追及されそうだ。


「なるほどなるほど。ならば、わたしの提案がもっともお手軽で先生向きのように思われる」

「とおっしゃいますと?」

「眼鏡を掛けてしまえばいい」


 なるほど、とスザンヌ先生は納得し手を叩く。人間(スザンヌ先生はエスパーだが)、色眼鏡を掛ければ世界が変わるものである。フツメンがイケメンに見えることもあるし、ただの親切が好意の体現に見えることもある。なぜそんな簡単なことが思いつかなかったのか。真っ先に眼科医を呼べば丸く収まったというのに!


「ではどんな眼鏡がいいかしら」

「そうさな。望んだ数がそのまま反映される眼鏡がよいだろうな。ただし、ヤング整備士長のように経年劣化で数を感知したり、ロバーツ料理長のように食事への感想で数を把握したりするケースは対応しきれないが、「数」という概念のもと数を認識するものなら問題ない」


 たとえば、アンドロイドのダニエル少年ならば強制的に「1011(11)」が表示され、宇宙船の船長ウッドならば、全ての桁数が歪んで融合・分裂し、10の桁が「1」で1の桁が「1」となる。宇宙警察官のジェンキンスならば、1か11でしか割れないように感じるだろう。


「その眼鏡はおいくらですの?」

「いまならなんと、初回割引きで半額、通常の近眼眼鏡と同等の値段で購入可能だ」


 この眼科医は眼鏡のセールスマンでもあったようだ。

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11人いない! 花野井あす @asu_hana

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