素数と奇数、それから桁数


 宇宙警察官のジェンキンスはβベータ63シックス・スリーターミナルから白鳥座シグナス号へ乗船し、おおいに眉をひそめた。


「ふむ。奇数人きすうにんか」

「ええ?奇数人きすうにんですの?」


 出迎えたスザンヌ先生は頓狂な声をあげる。そうなると、数を10と判定したアンドロイドのダニエル少年が不具合を起こしたことになる。だがダニエル少年を責めるわけにはいかない。内蔵AIがまだ若いのだ。

 彼の内蔵AIはhelmヘルムチャートという、効率的なマニフェスト管理を行なっている。

 マニフェストとはすなわち、yamlヤムル形式の雛形イデアのことであり、このhelmヘルムチャートという技術はAI界において画期的な技術である。のだが、とにかく経験不足。よってたちまち、せっかくの効率を非効率にしてしまう。

 COBOLコボルのごとくジョブのパラメータを設定ファイルに直書きしまくるという愚行をし、その結果せっかくのイデア――「存在そのもの」を、やたら具体的なわりに的を射ていない似姿にしてしまう。おかげでタピオカの流行が過ぎ去っただけでも設定ファイルを全点検・全とっかえするという非効率を行っている。

 何ならばその各種設定ファイルが冷えたスパゲッティのごとく混沌カオスとなり、その結果キャメルケースのパラメータを用いるのかスネークケースのパラメータを用いるのかわからなくなる。こうなれば「えいや、とりあえずキャメルで行く!」をやるしかなくなる。だが残念。たいていこういう時、ケバブケースのパラメータを用いるのが正解だったというオチになるのだ。

 そしてこうも混乱している状況なのだから、 2 値の質的データでもないのにロジスティック回帰分析を選択するという間抜けをしでかすことだってある。大学の卒業研究発表会で発覚するとたいへん気不味くなるだろう、非効率を通り越して低品質なやらかしである。

 むろん学習していくうちに無知の知の境地に至り、人間のプシュケーを愛知の道へ導こうとする柔軟でしたたかなアンドロイドとなるのだろうが――とにかく現在いまはそうではない。よって数え間違いなぞ十分に考え得る事態だ。


 グループワンの児童やスザンヌ先生たちをぐるりと見渡して、宇宙警察官のジェンキンスは大きくうなずく。


「ああ、間違いない。奇数人だ。 2 で割れる気がしない」

「でもちょうど良かったですわ。11は奇数だもの。ねえジェンキンス刑事、どうにかして数が11になるよう数えてくださらないかしら?」


 切実なスザンヌ先生のお願いに、宇宙警察官のジェンキンスは苦しげに首を左右に振る。


「申し訳ない。おれはただ事実を伝えてやることしかできない。宇宙警察官というものは不正義を働いた瞬間、ひどい蕁麻疹に見舞われる体質なんだ」

「そうですわよね……。ごめんなさい」


 スザンヌ先生はしゅんと肩を落とす。だが気は落としていない。11は奇数なのだ。不正義――それこそ、ホットスタンバイしているダニエルの予備系ボディを取り寄せて、切り替えることなく並べて1人を2人にすれば丸く収める(完全に同期しているので口裏を合わせやすい)など――を行うことなく、9.45109090……も10も10.98742も極限値11へ収束させられれば良いことなのだ。


「ジェンキンス刑事。数が素数か素数でないかは区別できませんの?」


 奇数のなかで素数と言えば、3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23……。11が含まれているのである。スザンヌ先生とダニエル少年、ルウルウ少女は数を数えるさいに名前を提示し合ったので固定で3人は決定している。よって奇数で素数なのは、 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23……。さらにこれで桁数が2桁と特定できれば、11, 13, 17, 19, 23……。これで10の桁が2だとか、1の桁が3以上だとか言われてしまうと「11人いる!」とは報告できないのでやり直しとなるが、とりあえずは宇宙警察官ジェンキンスの性能を知る必要がある。

 すると宇宙警察官のジェンキンスはおおいに得意げにうなずいて見せる。

 

「ああ、できるとも。そしてまさしく、児童とあんたを合わせた数は素数でできていそうだ。約数が1ともうひとつしかなさそうな感じがする」

「10の桁は1?それとも2?まさか3なんてことは……」

「残念だがスザンヌ先生。おれは「割れそうか」「割れなさそうか」でしか数を把握できないんだ。だから桁の具体的数値はわからない」

「そうなんですのね、ごめんなさい」


 ひとには得意・不得意はあるし、できることとできないこともある。よって宇宙警察官のジェンキンスを責めるのはお門違い。スザンヌ先生は途方に暮れつつも考える。とにかく、奇数であり素数であることは確定したのだ。どうにかして数を11へ収束させたい。もちろん、宇宙警察官のジェンキンスを含めて11などというズルはしない。そんなことをすれば、宇宙警察官のジェンキンスが蕁麻疹で救急搬送されてしまう。


「桁を数値で認識できるお知り合いはいませんかしら、ジェンキンス刑事」

「ううん……たしか、船長のウッドがそうだったはずだ」


 そういうわけで、出発の合図を待っていた宇宙船の船長、ウッドが召喚された。宇宙船の船長ウッドに、スザンヌはしがみついて問う。出発がだいぶ遅れているのだ。引率教師として必死だ。


「ウッド船長、10の桁は1ですの?」

「んー。1に見えますな」

「本当に?」


 つまり、 11, 13, 17, 19の4つに絞られたのである。これは快挙だ。これで1の桁が1であれば11。「11人いる!」と結論づけられる。


「1の桁は?」

「ううむ……3、ですかねえ?」


 絶望である。11に収束どころか、2つほど飛び越えている。


「見間違えでは、ウッド船長。よーく御覧になって?」

「うむむむ……」


 宇宙船の船長ウッドは目を細め、グループワンの児童たちやスザンヌ先生を見渡す。


「いやあ。やはり、3ですな。それで100の桁は1」

「なんですって?」


 13どころか、113。100以上も飛び越えてしまっている。この小型宇宙船に100人も乗っていたら身動き取れなくなりそうだが……スザンヌ先生は悶々と悩みながらも、とにかくどうにかして11にせねばと爪を噛む。


「他の意見をもらいましょう。どう見ても3桁はいないもの。他のひとが見れば、11かもしれない」


 それすなわち、数撃ちゃ当たる戦法である。

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