スザンヌ先生の困惑


 さて――目下の問題は11人いないということである。


 小型宇宙船白鳥座シグナス号の船内で、スザンヌ先生は困り果てていた。

 どう数えても人数が11人に届かない。


「ああ、これでは出発できないわ。どうしましょう」


 スザンヌ先生は頭をかかえた。


 ワープ鴨の発見を皮切りに、地球では半重力シューズやら光速航行技術やらが開発され、その高い技術をもって地球民たちは様々な惑星を支配下に総合政府が発足した。その総合政府設立からはや200年。

 地球に属すAA2ダブリュエーツー小学校の小学六年生の子どもたちは修学旅行で植民惑星へ行く、ということが伝統となりつつある。

 行き先は惑星オブシディア。この惑星オブシディアは火星のふたご星かと思われるくらい火星そっくりな植民惑星である。その惑星オブシディアの周りをぐるぐる回る宿泊用人工衛星のなかで五日間を過ごし、また小型宇宙船で地球へ帰るのが修学旅行の大まかな流れである。

 ただし、宿泊用人工衛星の公転周期は火星のフォボスと同じ約30.3時間なので、30.3時間×5日が正確であり、さらには宇宙船の光速航行機能を用いて1.5時間の移動を行き来で行う。フルパワーで移動すると料金がかさむため、約3%から25%稼働にして移動する。

 やたら具体的な数値を出して説明したが――とにかく。問題は人数が合わないことだ。


「グループツーからセブンまではもう出発してしまったというのに……」


 70人の子どもたちを7組のグループに分けて小型宇宙船に乗せて運び、惑星オブシディアを周回する宿泊用人工衛星で集合する。そういう手筈だった。なのに、スザンヌ先生の受け持つグループワンだけがいまだにβベータ63シックス・スリーターミナルで足止めをくらっている。

 するとグループワンに割り当てられた児童のひとり、アンドロイドのダニエル少年が手を挙げた。


「もう一度人数を数え直しましょうか、スザンヌせんせい」


 たしかに、ここで絶望していても仕方あるまい。スザンヌ先生はダニエル少年の提案にうなずいた。


「そうね。ダニエルくんは縦に数えてちょうだい。先生は横から数えるから。ちゃんと先生とダニエルくんを含めて数えるのよ」

「はい、スザンヌせんせい」


 太陽系における離散数学界では、数え方を変えてもその合計は変わらないということが常識だ。よって2通りの数え方を試すのである。

 グループワンの児童たちを一列に並べ、列に沿って縦軸、児童たちと垂直に横軸を想定し、ダニエル少年は縦軸方向へ歩きだす。1、10、「いま何時?」、「11時だよ」、11、100、101……。途中で時そば的な横やりが入ってもダニエル少年はしっかり数え、その結果を記憶する。ただし、ダニエル少年は電気信号で動くアンドロイドなので、2進法で数を数える。

 スザンヌ先生はというと、児童たちの真ん前に立って透視する。スザンヌ先生はエスパーなのだ。平均的な人類の厚みは10センチから20センチで、自分とダニエルくんを含めて……。そうやって数を計測・算出する。


「スザンヌせんせい。スザンヌせんせいとぼくを含めて、1010でした」


 1010。10進法に置き換えたら10である。やはり11に届かない。

 

「わたしのほうは73.0846で、わたしが15.5634センチ、ダニエルくんが15.3131センチだから、合計103.9611センチ。11で割ると9.45109090……。平均値を想定すると11人いたら110センチ以上ないといけないのに……」

「極端にぺらぺらな生命体が参加している、なんてことはないですか」

「ぱっと見た感じ、みんなが10センチ以上はありそうなのだけど」

 

 むしろノロ星系でもハグロ星系でもマグロ星系でもない、むろん太陽系とその植民惑星群ですらない星系出身の、どちらかと言うとドラゴンやセンチマーニのような伝統的種族の親戚筋のいわゆる非人間型ノン・ヒューマノイド生命体の子どもが多い分、厚み(重みかもしれない)のある児童が目立つくらいだ。

 

「ルウルウの数えた数が一番近いんですけどね」

「そうね。ルウルウちゃんは10.98742人と数えていたものね」


 ルウルウとは、グループワンに割り当てられた児童のひとりである。無所属星系のひとつ、毛玉けだま星の子どもであるルウルウ少女は毛のいっぽんいっぽんに生命が宿るとして、毛のいっぽんいっぽん(抜け毛は除く。あれは死滅した生命体なのだそうだ)を数え、生命体の個体数を把握する。よって本来の桁に戻すと1,098,742。11を超えすぎている。桁を戻さず四捨五入すれば11人だったのに。実に残念である。

 ではどうするか。誰かを+7センチ以上肥え太らせてからスザンヌ先生で再計測・再計算し、そのうえで問題ないとして出発するか。それともまた別の視点で11に届くまで数え続けるか。誰かを真っ二つに割って2人にしてもよい。ちょうど多頭星人もいることだ。ひとつくらい頭を引っこ抜いても、どうせまた生えてくるのだから問題あるまい。だが――それは最終手段だ。


「2人組を作らせると、人数がますます減ってしまうし……困ったものね」


 ペアを作りなさい、と言えば子どもたちは10人。必ず5組のペアができるはずなのだ。だがどういうわけか、「ペアを作りなさい」では友だち同士が融合し、友だち無しの子どもは影を潜ませて「別に余ってない」と主張する。おかげで5どころか1か2しか無くなり、ますます出発できなくなってしまう。名簿があれば名を呼べば特定できるのに、個人情報保護法の観点から「教師をふくめ合計11人になるはずです」としか知らされていない。誰が来ていないのか。はたまた全員来ているが数え方が誤っていたり、誰かと誰かが融合して人数が減ってしまっているのか。とにかく増やさねばならない。限りなく人数を11に近づかせ、「11人いる!」と報告せねばならない。


「しかたない。別視点を取り入れましょう」


 人生なにかと悩みは付きもの。そうした場合、ただひとりで悩むではなく第三者の意見を取り入れるということが解決への糸口になることがある。三人寄れば文殊の知恵、衆力しゅりきこうをなす。数をどうにかして11へ届かせる素晴らしいアイデアを求め、スザンヌ先生は宇宙港に駐在する宇宙警察を呼び寄せることとした。

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