第10話 夜襲

ルミアルダをビジネスホテルへと連れて行った、その帰り道。


時刻は21:00頃。

すっかり日も落ち、空には満天の星が輝いていた。


(今日は星がよく見えるな)


あの日も確か、空一面に星が輝いていたことを思い出す。

⋯⋯否、輝く星を見たその時から、俺の運命が変わったともいうべきか。




だからこそ、なのか。

こんな夜には厄介な奴も舞い込んでくる。


「⋯⋯ルミアルダさんを先に宿に届けて正解だったな」


夜道の中、何者かが目の前に現れて進路を塞ぐ。

暗がりのせいで顔元は明確に分からないが、明らかに『敵意』を孕んだ視線をこちらに向けていた。


「み、みみみみみ、みつけた」


目の前のソイツは汚れた格好をしていて、髪の毛は黒で長くて、杖みたいなものを持っていて──恐らくコイツが巷で噂の『辻斬り』なのだと合点がいった。



「エアリィ」


そう呟くと、即座に『彼女』は俺の隣に現れた。


「知り合いか?」

『⋯⋯因縁を持つ相手。その影かと』

「なるほど。どうせなら本丸を叩きたかったな」


中性的な顔立ちを持つ彼女は、その表情を崩すことなく淡々と答える。

簡潔な応対ではあるが、少なく見積もって友好的に対話できるような相手ではないことが確認できた。


⋯⋯まったく。今日1日だけでどれだけのトラブルに巻き込まれてしまうのか。

しかしこれもまた──運命力による引き合わせが起こした巡り合わせなのだろう。



「お、おま、おまままえ、ルルルルミアルダじゃ、じゃじゃじゃないな?」


まるで壊れかけたラジオの如く声を発する『影』は、俺の姿をみるや否や、あからさまな不快感を剥き出しにする。

どうやらコイツもルミアルダ同様、目当ての『このカード』を辿ってここまでやってきたみたいだ。


「ル、ルミルミ、ルミアルダは、どどどどこだ?」

「さぁな。仮に知っていたとして、不審者のお前に言う必要はないだろう?」




沈黙の間が一瞬だけ訪れた後⋯⋯お互いが示し合わせたようにデッキを取り出す。


「行くぞエアリィ⋯⋯いや本名は『シルフィー』なんだっけか?」

『その名は過去のものです。今の私は貴方のエアリィ⋯⋯それ以外の何者でもありません』


そう言って彼女は、白銀の挑発を揺らしながら光となり、1枚のカード──『聖光の白銀龍』の中へと集約した。



「いくぞッ、ブレイズアップ!!」

「ケヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」



◇  ◇  ◇  ◇  ◇




唐突に始まった辻斬りとのファイトは、ついに終盤を迎えようとした。

佳境を迎え、最も熱がこもる場面へと突入する。


意外なことにこの『影』は中々に手強く、ルミアルダよりも格段に強力なファイターであることが分かった。


恐らくはヒイロ君と同じ⋯⋯或いはそれ以上。


その次元となると並大抵の野良ファイターでは歯が立たない。それほどまでに所持デッキの完成度と理解度が高いことが伺い知れた。



紬原ユウト

ハート 2


xxxxxxの影

ハート 4



「おま、おまおまおま、よわすぎぃ!」


相手が使ってくるデッキは『展開型』。猛攻を掻い潜り、残存ハート数を2個で耐え凌ぐことが出来た。


首の皮一枚で俺のもとに手番が回ってきたが、もしここで相手のハートを削りきらなければ、抗う術なく敗れるだろう。


⋯⋯⋯⋯普通の相手ならな。



「使うぜ、禁断詠唱エクストラスペル


手番が回ってきたと同時に、手札から詠唱スペルカードを発動する。


禁断詠唱エクストラスペル

それは規定のハート数以下の時に発動可能な逆転の一手。公式では刷られていない、存在そのものが『イリーガル』なカードだ。


つまり、世界に1つしか存在しない⋯⋯俺だけの切り札。



「発動。禁断詠唱エクストラスペル──『白銀の十字架プラチナム・リリース』」


ハート数3個以下の際に発動可能。

相手の場にいるモンスターを3体までを選択して墓地に送り、『聖光の白銀龍』を召喚出来る。

そしてこのターン中、相手はモンスター効果を発動することは出来ない。



「遍く悪鬼を照らし出すその姿は聖火。疾く駆け抜けるその姿は閃光。──君臨しろッ『聖光の白銀龍』!」


「グォォォォォォ!!!!」



『聖光の白銀龍』が場に出た手番では高速詠唱ソニックスペルカードを使用できない。


「押し通らせてもらうっ!」


そして『聖光の白銀龍』が持つもう1つの効果──その無慈悲なまでの暴力が、相手のハートを全損させたのであった。



xxxxxxの影

ハート 4→0



◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「キヒッ、キヒッキヒッ⋯⋯」


ファイトに敗れた『影』は、立っているその場から霧散するように消えてしまった。名前の通り、影も形もない残すことなく。



(⋯⋯正直、ギリギリの戦いだった)


カードゲームというのは、デッキへの理解度やファイターの熟練度の他に、勝利において抗いようのない程の『運』の要素に振り回される。


故に必ず勝たなければならない場では、どんな場面どんな相手でも、圧倒的な差をもって制圧する必要がある。それこそ相手が切札を出してこようとも、それすら覆す力が。


そのために必要なのは──デッキの新陳代謝だ。

対戦相手や世の流行りに合わせたデッキ選択が肝となる。


だが⋯⋯今の俺には、それが出来ない。

このデッキは、半年前の大会から変えることが出来ていないのだ。




(やはり鍵は⋯⋯彼女か)


異世界からの訪問者──ルミアルダ・アストレア。彼女がこの騒動の中心にいるとしか思えない。

エアリィ⋯⋯もといシルフィーを巡った一連の争いに決着を付けるためには。


「何が何でも強くなってもらわないとな」


見込みはある。異邦人というならば尚更だ。

しかし強くなるにしても手頃な目標が必要だろう。


(君がこの世界に『呼ばれた』のだと、俺は信じている)


我ながら身勝手な考えだとは分かっているが、それでも夜空に浮かぶ無数の星に向かって願わずにはいられなかった。

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滅魔の聖女は、現代カードゲームで気持ちよくなりたい! しろいの/一番搾り @mjp_red5

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