第8話 vs火車ヒイロ(後編)

「よしっ、今度は俺のターンだぜ!」


後攻手であるヒイロ君へと手番を渡すと、慣れた手つきで山札からカードをめくる。

相当自信のある手札なのか、どこか得意げな様子が垣間見えた。



「先攻・後攻はそれぞれで強みがある。先攻は攻撃も初手ドローも出来ないが、先に妨害札や壁を用意することが出来る。対する後攻は全力を持ってその壁を乗り越える必要があるが、突破力さえあれば一方的な制圧が可能だ」

「となると⋯⋯一般的には先攻のほうが有利にはたらくのか?」

「デッキ種類に依存するとしか。ルミアルダさんのは先攻後攻どちらもいけるタイプ、ヒイロ君のは先攻タイプだ」


ヒイロ君には無理を言って先攻を譲ってもらったが、もし彼に先攻を渡したら最後、例え俺が相手取るとしても、このデッキでは勝てないだろう。



しかし先攻を譲ってもらったからといって、必ず勝てる保証はない。

彼の強みはルミアルダ同様モンスターの連鎖的な召喚。そして最上位モンスターへのアクセスのしやすさに尽きる。


「フィールド上の3体のモンスターを墓地に送り、『炎刃皇マグラ・カルマ』を合成召喚!」


後攻1ターン目から繰り出すのは、ヒイロ君が持つエースカード『炎刃皇マグラ・カルマ』だ。

トップクラスの攻撃力・守備力を有する上に、相手の詠唱カードを妨害するという万能型ヒーローカードだ。その汎用性の高さから、現環境においても採用率が高いカードの1つ。



「あの『炎刃皇マグラ・カルマ』が場に居続けられたら困るよね。このタイミングで手札にある高速詠唱カード『異次元の落とし穴』を使用してみようか」

「あ、あぁ!」


言われるがままにルミアルダは手札にある高速詠唱『異次元の落とし穴』を発動する。

通常の詠唱カードは自分の手番でしか使用できないが、高速詠唱カードに限り相手のターンでも発動可能。これら二つを駆使することで、相手のターンで妨害札を提示することが出来るのだ。


しかしヒイロ君は、傍から見れば劣勢な立場であるはずなのに、ニヤリとした笑みが浮かべていた。


「『炎刃皇マグラ・カルマ』は合成した素材の数だけカードの発動を無効化出来る。だから『異次元の落とし穴』は効かないんだぜ!」

「なにっ、それでは駄目ではないか!?」



──まさか相手のカード効果を確認しないで『異次元の落とし穴』を使わせたのでは、とルミアルダは訝しむ視線をコチラに向けてくる。


「大丈夫だから。ほら『機械技師ドルーグ』の効果を発動して」

「⋯⋯あっ、そうか!」


ルミアルダも意図を解釈して合点がいったのか、『機械技師ドルーグ』の効果を発動する──相手モンスターが効果を行使した際、そのモンスターを破壊することが出来るというものだ。


「ドルーグの効果を発動。効果を行使した『炎刃皇マグラ・カルマ』を破壊!」

「このマグラ・カルマはあと2回妨害出来る!その効果を無効化する!」


そう揚々とヒイロ君が宣言をするが、対するルミアルダは小さく首を横に振った。


「⋯⋯『炎刃皇マグラ・カルマ』で無効化出来るのは詠唱カード効果のみ。『機械技師ドルーグ』はモンスターカードだから、その能力の対象にふくまれない!」

「なっ⋯⋯、あっそうか!」



ことカードゲームにおいて大切なことが1つある。

それは『お互いにルールを守る』ということ⋯⋯これが簡単なようで一番難しい。


ルールといっても、初心者用ルールブックに書いてある内容を遵守すればいいわけではない。正しくカードの効果を処理しようね、いうことだ。


しかし数万種近くのカードが刷られている昨今、それらすべてのカード効果を把握するのは極めて困難。

故にファイターはその場でカード効果を読み取り、正しく解釈する必要がある。そういう双方の善意が存在した上で『ルール』が成立する。



つまり何が言いたいかというと⋯⋯。


「くそっ、やっぱり日本語は難しいんたぜ!!」


例え母国語であってもファイターに牙を向けてくる──それがアストラル・リンクというカードゲームなのだ。



マグラ・カルマが破壊されたため、ヒイロ君はこれ以上は何も出来ないため仕方なく手番を終了。

ルミアルダのカードを何も削ることが出来ずに手番を明け渡したということは、それはすなわち。


「白魔道士サクヤを召喚!デッキから拳闘士ララバイを特殊召喚!続いて手札より獣戦士ルベルグを特殊召喚!」


展開型デッキの恐ろしいところは、隙あらば大量のモンスターを召喚可能である点に尽きる。そこから生み出される無尽蔵のリソースは時として脅威となる。



「展開完了!総攻撃よ!!」

「うわぁぁぁぁぁ!!」


火車ヒイロ

ハート 6→0



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「やった!やっと勝てたわ!」



ヒイロ君に勝てた喜びのまま、ルミアルダはその場でぴょんぴょんと跳ねていた。


「ぐぬぬ⋯⋯俺だって高速詠唱カードが使えていれば」

「それに関しては悪かったって。無理を聞いてくれてありがとうな」


ルミアルダの監督中にヒイロ君のプレイングも見ていたが、彼は初期手札に妨害用の高速詠唱カードを握っていた。


しかしハンデとして1ターン目で使用できなかったことで手元で腐り、発動タイミングを逃してしまったというわけだ。


「あとでカードパックをおまけしてあげるから」

「⋯⋯まっ、しょうがないなぁ。負けは負けだしな!」


小学生は素直で助かるなぁ!

ありがとうヒイロ君。今後とも贔屓にしてくれ!



一方その頃ルミアルダは、ヒイロ君に勝てたことが余程嬉しいのか、その顔からは笑みがこれでもかと言わんばかりに漏れ出ていた。


「ユウト殿、これは私が強くなったという証拠なのでは?」


今日見てきた中で一番のドヤ顔を決めているが、この勝利は俺の助言ありきのものだよな⋯⋯?

だが敢えて水を差すのも違う気がするので、決して口には出さないでおこう。



「ナイスファイト、ルミアルダさん。初心者とは思えないほど良かったよ」

「へ、へへ⋯⋯」

「これからドンドン経験と実力を積んでいけば、きっと俺をも超えるファイターになれるはずだ」

「そ、そうかな。そう言われると⋯⋯ちょっと自信がついちゃうな⋯⋯」


傍から見れば小学生相手にハンデありでボコってドヤ顔しているだけだが。まぁ、自信がつくことは良いことだろう。



「ルミアルダの姉ちゃん、もう一回勝負だ!今度はもう手加減しねぇ!」

「望むところ!返り討ちにしてやるわ!」


先程ファイトを終えたばかりだというのに、すぐさま再びファイトテーブルに着いて、改めて対峙する。


「「 ブレイズアップ!! 」」


彼らの勇ましい掛け声が、昼過ぎの店内で朗らかに響き渡るのでたった。

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