第7話 vs火車ヒイロ(前編)

「彼女曰く『ルミアルダは弱いから戻りたくない』⋯⋯だそうだ」



⋯⋯ほーん?


「そのドラゴンの性自認って女性だったんだ」


なんとなくオスだと思っていたけれど、言われてみると女性らしい気品さを持っているような気もする。だが書かれているカードの効果が凶悪過ぎるもんだからオスっぽかった気もしたんだが。



「⋯⋯いや、そこは気にするところではないのでは!?」

「いや気にするだろう。多様性が認められる世界にするためには、普段の生活から個々人が意識する必要があるわけで」

「そういう薄っぺらい講釈はいい! ではなく、私がその⋯⋯実力不足だからと断られている点について思うところはないのか!?」


そりゃまぁ⋯⋯。


「その点に関してはなんとなく予想できていたし」

「なにっ!?」

「多分君が思っている以上に好戦的なんだよ、あのカードは。何せ意図的にデッキから抜こうとしても、ファイト時には絶対入ってきているんだから」



⋯⋯これが、現在進行系で最も俺を悩ませている現象だ。


「例えどんなデッキであれ、俺が使用する際には必ず『聖光の白銀龍』が混入するんだよ。お陰でデッキの選択肢が大幅に減るんだ」

「⋯⋯シルフィーが使えるのに文句があるのか?」

「強いのはありがたいんだが、流石に同じデッキを使い続けるのはね⋯⋯」


同じカードを乱用するということは、相手に対策されやすいと同義。いくら『聖光の白銀龍』が強いカードとはいえ、常にメタ行動をされれば流石に身動きが取れなくなる。


「このカードを使って勝ち続けることを義務付けられているというのは、ある種いい勉強にはなってるよ」


⋯⋯かなり無理やり好意的な解釈をしてだがな!


「それにな、イリーガルカードの譲渡に関しては良くある話なんだよ」

「⋯⋯力を示す必要がある、ということか」

「概ねそんな感じだ。特にカード自身が意思を持っている場合は特にな」


イリーガルカードというのは、今もなお謎に包まれている。

だからこそ現在進行系で研究の最前線において、話題に欠かないテーマの1つであったりするのだ。




「まぁ、要するにだ。ここまで来るとルミアルダさんとシルフィー間の問題に落ち着くな。周りがどうこう言える話でもなさそうだな」

「⋯⋯私がシルフィーを手にするためには、私自身がどうにかしないといけないということか」

「明確な目標を据えるのであれば、俺以上に強くなる必要があるってことだ」


そう現実を突きつけると、ルミアルダは少しだけ顔に陰を落とす。それもそのはず──丁度先ほど徹底的にボコボコにしたばかりのため、その差を鑑みると途方も無く感じられたのだろう。


「兄ちゃんがわざと負けるのじゃ駄目なのか?」

「多分ダメだろうなぁ⋯⋯。このカードが指摘しているのはルミアルダさんの未熟具合なんだから、例えまぐれ勝ちをしたとしても意味ないだろう」


それにそんなことをした暁には、更に『聖光の白銀龍』がへそを曲げて、使用デッキに余計な使用を付け加えようとし始めるに違いない。それだけは勘弁だ。



「⋯⋯いや、余計な気遣いは結構! シルフィーがそう望むのであれば、正々堂々挑戦させてもらうのみ!」

「だけどよぉ。兄ちゃんは日本で一番になれるくらい強いんだぜ?」

「いつか⋯⋯勝てるはず⋯⋯多分⋯⋯」


ヒイロ君の言葉に呼応して、段々とその意志の力が弱まっていくのが目に見えた。

⋯⋯まぁ、先程あそこまでコテンパンにされたあとじゃ、自信を付ける云々以前の問題だろう。



「そしたら、まずはヒイロ君に勝てるようになるって目標でいいんじゃないか?」

「⋯⋯この少年にか?」


『私は幼子を痛めつける趣味はないのだが』という表情を覗かせていたが、それは間違いだ。

なにせ彼は、今はまだ小学生ではあるが、既に全国で戦えるほどのファイト力を保持しているのだから。


「今日のところは俺がルミアルダさんのアドバイザーに付くから、まずはルールのおさらいをしながらファイトをしてみようか。ヒイロ君もそれで良い?」

「丁度いいハンデだぜ!」


ヒイロ君の方はやる気満々といった様子。

対するルミアルダは──早速ヒイロ君へと対抗意識を燃やしていた。


「ユウト殿がそう言うならば、私がまず越えるべきはヒイロ少年ということか。ならばその胸、借りさせていただく!」



早速2人はファイトテーブルへと着いて対峙する。

そして本日2度目の、勇ましい掛け声が店内に響いた。



「「 ブレイズアップ!! 」」



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「ほう、いい立ち上がりだ」


ルミアルダの初期手札を見て、思わず唸る。

先程戦った時は多種族混合でまとまりのないカード群という印象であったが、ファイト前に改めてデッキの中身を確認すると、低級モンスターを連鎖的に召喚できる構築となっていた。


それを鑑みた上で現在の手札は決して悪くはない。

初期手札は5枚。うちモンスターカードは3枚、詠唱カードは2枚という内訳になっていた。



「ヒイロ君。申し訳ないが先攻手番もらって良いかな。無妨害でいてくれると嬉しい」

「良いよ! 高速詠唱カードは発動しないでおくぜ!」


軽く礼を言ってから、改めてルミアルダの手札を見る。

⋯⋯よし、まずは基礎のおさらいからいこう。




「ルミアルダさん。念のために確認するけれど、アストラル・リンクで相手に勝つには、どうすれば良いか分かるかな?」

「勝利のためには『相手のハートを全損させる』必要がある⋯⋯と解釈している」

「その認識でオッケーだ。特殊ケースは除いて、一般的には相手が有している6つのハートを全損させることで相手に勝利ができる」


試合開始段階で、ファイターは手札を5枚引いて、そしてファイター自身の体力を示す『ハート』としてカードを6枚場に伏せる。


モンスターが攻撃することで、相手のハートを減らしていき、最終的にはハートを0枚にすれば勝ちとなる。


ただし、失ったハートは相手の手札に加わる以上、そこから逆転の目が発生することも多々ある。故にどれだけ有利な盤面であれ、気を抜いてはならない。



「そしたらまずは『白魔道士サクヤ』を召喚してみて」

「わ、わかった!」


ルミアルダは言われるがままに『白魔道士サクヤ』を召喚。低級モンスターなのでそのまま場に出せる。


「『白魔道士サクヤ』の効果で、召喚時にデッキから他の低級モンスターを特殊召喚出来る。そしたら『獣騎士ルベルグ』を特殊召喚して、手札のモンスターカード『ワイルド・ワイバーン』を一枚墓地に送ろう」

「⋯⋯なぜワイルド・ワイバーンを捨てるんだ? 攻撃力が一番高いんだぞ!?」

「先攻手番は攻撃が出来ない以上、ワイルド・ワイバーンを立てても、そこで展開が終わってしまう。君のデッキで大切なのは、如何に仲間を呼び出せるかだ」


確かにワイルド・ワイバーンは他の低級モンスターと比較して、力負けしないような攻撃力を有している。

しかしいくら攻撃力が高いとはいえ、相手が上級モンスターを出してきたら叶わない。格好の的になるだけ。


「ふむ、そういうことか⋯⋯ドラゴンを出せば勝てるという訳ではないのか」

「そういうテーマも無くはないけど、今回は違うかなぁ」


もしかしてルミアルダって、想像以上に脳筋ガールなのか?

まぁ、そういう適性の確認は追々分かっていくだろう。



「さて、次は手札の詠唱カード『一進ニ退』を発動しよう。場にいる2体のモンスターカードを手札に戻して、デッキから『機械技師ドルーグ』を召喚するんだ」

「⋯⋯おぉ、こうすることで強いカードを出せるのか!」


詠唱カード『一進ニ退』を詠唱カードエリアに置いて効果を発動。場に『機械技師ドルーグ』を出すと共に、出したばかりの2体のモンスターカードを手札に戻す。


「ドルーグは攻撃力が高いうえに、相手の行動を妨害することも出来る。取り敢えずこのカードを出しておけば、安心して相手に手番を渡せるかな」

「なるほど。しかし相手の行動を妨害するというのは、正直気持ちの良いことではないな⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯え?」



何を言っているんだ⋯⋯?


「カードゲームは、いかに相手の嫌がることをして、自分のやりたいことを通すかが最重要要点だぞ?」

「⋯⋯⋯⋯あぁ、なんと無慈悲な」


そう言ってルミアルダは、視線こそ『機械技師ドルーグ』に向いていたが、どこか遠くを見ているかのような表情を浮かべていたのであった。

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