第二話 背信

 人型兵器を持ち帰るのには難儀するかと思いきや、それは存外軽く、バックパックにすっぽりと入った。

 主に掘り起こすのに時間が掛かり、すっかり太陽は沈んでいる。

 そして無事橋下のトタンの家に辿り着いた俺は、いつも以上の疲れを自覚した。


「コイツをアレコレするのは明日だな」


 一つ伸びとあくびをし、荷物を置いて外に出る。

 川の水はお世辞にも綺麗とは言えないが、人間の適応力は凄まじく、水を使った初日はかぶれや嘔吐下痢が激しかったが、数か月程それらを繰り返していたらいつの日からか症状は出なくなっていた。

 水で汚れを流した後、俺はマットレスに転がり、が入ったバックパックを見る。


「ふ…ぁあ」


 どうやらいつの間にか眠っていたようだ。

 視点はそのまま、壁の隙間から光が入り顔に差している。

 時計を見ると4時を回っていた。

 まだ時間の猶予はある、少しだけを見るか。


 バックパックから引き出し、マットレスに横たわらせる。

 左の二の腕に印刷されたバーコードを見たところ、死体じゃないのは確かだ。

 ただ、人型兵器ってだけでどこが造ったモノなのかは見当が付かない。


 だが、この精巧さ…多分旧型だ。

 昨今は一目見ただけで人とロボットの判別が付くように、身体に何か製作者が分かる特徴や意匠を入れなければならない規約がある。

 これはどこを見てもそれらしいモノは無く、写真で見たら人としか思えないし、実際触れてみないと目の前に居たって分からない程だ。


「ん…なんだ?」


 それをひっくり返してみると、ウナジだけ金属が剝き出しになっていた。

 どこかに引っ掛けて皮膚が剥がれたのかと思ったら違った。

 一点だけ金色のボタンの様なモノがあったので押し込んでみると、それを中心に指と比べると二回り大きい円形が奥に押し込まれ、カチッと音がして、指を離してみると何かが飛び出した。


「ショットシェル?」


 拾ってみると何なのか分かった。

 黒色で塗装されたショットシェルだったのだが、用途が分からない。

 それに俺が整備していた兵器にはこんなモノは当然無かった。


 他にも背中には肩甲骨が開く仕組みがあったり、その中に小型のハンマーがハマっていて、ヒラにはトゲが生えていた。


「ショットガンスターターか!」


 この特徴的な形のハンマーで思い出した。

 これは、ショットシェルの爆発力を借りてエンジンを起動する仕組みだ。

 つまり、首元にショットシェルを入れて、雷管をハンマーで叩くことによって発破。

 多分これで起動する。


 だが、身体の至るところを探してみたが一発しか見当たらなかったため、試しに起動…なんてことは当然出来なかった。


「昨日よりは随分マシだな、昨日は早く寝たか?」


 結局いつもの様にゴミ山に向かうと、今日も門の前に彼が立っていた。


「いや、まぁ…そうだな」


「なんだ、煮え切らん返答だな。まあホームレスはお互いに探り合うモンじゃない。ただ、厄介ごとなら言ってくれよ」


 いつも彼には見透かされている気がする。


「いつも頼りにしている」


「ははッ!おう、行ってこい!」


 背中のバックパックを叩かれ、よろけながら門を潜る。

 少し歩き、後ろの彼の方へ振り向くと同時に、巨大な門が閉じる音がした。


「ん?」


「動くな!」


 すると、両脇のゴミ山から人影が複数出て来て俺を囲む。

 手には長身の銃を持っていて、照準は俺に向いていた。


「なんだお前ら!」


「しゃべるな!跪け!」


 会話を交わす暇も無く、銃を向けられているので仕方なく命令に従う。


 コイツらの額のロゴ…谷津乃宮ヤツノミヤのロボットチームか…。


「ご苦労だった」


「あぁ、なに…自治に貢献したまでだよ」


「裏切ったな…」


 彼は俺を売ったらしい。

 きっと昨日ずっと見張ってたんだろうな、当然俺が人型兵器を掘り起こしたことも見られていたハズだ。

 まさかあれを作ったのが谷津乃宮コイツらだったとはな。


「初めまして、レンド」


 跪く俺の前に立つのはロボットじゃなく人間だ。

 額にロゴは無く、代わりにスーツの肩にそれがあった。


「その名は捨てた」


 そうだ、その名前はあの橋下で目覚めた時に捨てた。

 だが、そうだな…コイツら俺のことをよく調べてる。


「今はカムですか。家族のことは残念でした」


 思ってもいないことを軽々と……。


「そのことを話したくて来たわけじゃないだろ?」


「話が早くて助かります。えぇ、昨日貴方が拾い上げた人型兵器についてです」


 やっぱり…おかしいと思った。

 みんなに拾われなかったんじゃない、みんなは拾わなかったんだ。


「俺もそれについてアンタらと話したかったよ。ありゃなんだ?人造兵器にしては人過ぎる。旧型だよな、いつ創ったんだ?」


「よくお分かりで…。ですが、あれに関してはこちらとしても同じ意見です。旧型としかわかっておりません。そもそもそれが正解なのかも」


 コイツらもあの兵器についてはほとんど何も知らないのか。

 技術力ならどこにも負けないと噂のコーポが手を焼く程のモノ…。

 というか――。


「アンタらも拾った側か」


「えぇ、ですので…返してもらいます」


 コイツらの本当の所有物じゃない。

 なら…コイツらを出し抜けるのは今のところあの兵器だけだ。

 復讐…忘れるモノか。

 諦めてなんかいないぞ。


「あぁ、良いぜ。家、来るか?」


「良いのですか?」


 俺の返答に拍子抜けしたのか、少し驚いた顔をしてやがる。


「その前に一つ聞かせてくれ……起動はしたか?」


「ノーコメント」


 簡単だ、扉を開けて兵器を起こしコイツらをヤる。

 だが、奴らも起動してない分実際に戦闘兵器なのかどうかが問題だ。

 起動する素振りを見せたら即射殺だ、つまり捨て身――あれが起動しなければ俺は終わりってことになる。


「ここだ」


 俺は逃げ出すチャンスを伺いつつも、周りに居る10体以上のロボットの見張りに抜け出せずに居た。

 そのせいで結局家の前まで逃げることはできなかった。


「少し待ってろ、あれを連れ出す」


「いえ、それには及びません。それと、ここまでご苦労様でした」


 こちらに銃口が集まる。

 ここは橋下で通路が狭い、そのおかげで囲まれずに済んだ。

 俺は奴らの方にバックパックを投げると家へ飛び込む。

 すぐに銃声が響き、続けて壁に穴が空く。


「そのまま掃射を続けなさい!」


 外から奴の声が聞こえる。

 俺は銃弾の雨の中、床に這いながらマットレスに横たわったあれの上体を起こす。


「頼む…起動してくれよ」


 既に弾は装填済み、あとは項にハンマーを打ち付けるだけ。

 俺は神に頼みながら雷管にそれを打ち付けた。

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