ゴミ山の人型兵器

アスパラガッソ

第一話 邂逅

 割れた窓から差し込む淡い月明りが眩しい。

 血の匂いと硝煙のツンとした火薬臭が広がる室内で、俺は右足の痛みに倒れながら目の前の人影を見上げた。

 光の加減で顔は見えなかったが、立ち方や足幅から男だと推測できる。


「お、前は…誰だ!」


「私は復讐のためにここに来ました」


 そう言うと奴は月光の下に細い銃身を差し出し、ゆっくりと俺に狙いを定めた。

 光が銃の形を浮かび上がらせ、武器はリボルバーだと分かる。


 撃鉄の起きる重い音がした――猶予はもうほとんど残されていない。


「グッ…」


 まだ死ねない…立ち上がらなければ、俺がこの部隊に入った理由はこんなところで死ぬためじゃない、やるべきことがあるからだ――。


「グァァアアッ!」


 痛みを声量で掻き消し無理やり立ち上がる。

 そして倒れた仲間のピストルを取り、奴の頭に照準を合わせた瞬間、指先の力を入れる前に銃声が鳴った。


「ウォォォオ!!?」


 反射的に頭を押さえて飛び起きる。


「はぁ…はぁ……はー…夢、か」


 背中と首元が汗で冷たい。

 あの夢を見るといつもそうだ。

 数年前の出来事なのにも関わらず、完治したハズの右足が痛み出す。


「っと、今何時だ?」


 そう呟きながら右を見る。

 プラスチックの前面が割れた壁影時計は、既に朝の7時を指していた。


「完全に出遅れた…今日は、いや…ダメ元で行ってみるか」


 普段早朝から探してもめぼしい売り物や生活用品は中々見つからない。

 それは単純に同業者が多いということもあるが、ロボットの収集員がそうそうに回収して行くせいでもある。

 そこに残るのは鉄くずや原形も留めてないゴミばかりだ。

 西側にある都市管理のゴミ収集所、俺たちホームレスはそれをガラクタ山と呼ぶ。


「お、今日は来ないと思ったら寝坊か!アンタにしては珍しいな、軍人さん」


「その言い方はあまり気乗りしないな、今はもうただのカムだ」


 ガラクタ山に着くと、主に鉄筋であしらわれた不格好な門の下に白い髭を首まで伸ばした男が立っていた。

 この生活をすぐ安定させられたのは彼のお陰で、川岸に流れ着いていた俺を拾って看病してくれたのも彼だ。


「ま、今日は来なくて正解だったかもな」


「何かあったのか?」


「この山で死体が出た、しかもフレッシュな奴さ。頭を一発、ズドンッてな」


 彼は頭に銃を突き付けるジェスチャーをしながらそう話した。


「バウンティハンターか?」


 最近の物騒な事件は大抵BHバウンティハンター絡みだ。


「多分な。まあワシらホームレスは身元調査がムズイらしくあんまり標的にならないから、その点この立場は安全と言えるがな。ハッハッハ!」


 BHアイツらは殺して証拠となる写真を撮れば死体に興味は無い、ほとんどの場合犯行現場はキッチリと残るが、BHたちの後ろ盾が強大なせいで一都市の自治体が手を出せる様な案件ではなく、被害者遺族は泣き寝入りを強いられている。


「と、笑って悪かった。アンタの家族は…」


「あぁ…いや、良い」


 俺は泣き寝入りをするしかなかった。

 家族に非は無い、ただアイツらが標的を一軒間違えただけ…後ろ盾――谷津乃宮ヤツノミヤコーポレーションから謝罪の一文が来たが、許すわけがない。


 その後独自に調査し続けた結果、仲間が出来たが、結局誰かも分からない奴に撃たれて、トタンで造った家とゴミ山を往復する生活だ。


「ワシはもう帰るが?」


「そうだな…どうせ暇だ、しばらく漁ってみる」


「そうか、まあ頑張り」


「あぁ」


 彼と別れを告げそのまま前へ歩き門を跨ぐ。

 やはり回収は一通り済んだのか、いつもは入口近くまで積まれているゴミはきれいさっぱり無くなっていた。


「この敷地内で土の地面を見ることが出来るとはな」


 だが、一回の収集では限界があるらしく、奥の方にはまだゴミが残っていた。

 普段はそれほど奥までは行かないのだが、今日は行くしかない。

 しばらく無心で歩いていると、案外すぐ着いた。


「まだまだ残っているじゃないか」


 背丈程のゴミ山に刺さるピンク色の携帯電話を抜き取り、大口開けた背中のバックパックに放った。

 電子機器の基盤やバッテリーにはレアメタルが含まれているから高く売れる。

 期待を膨らませながらゆっくり山を登るが、ゴミの道はあまり長くなく、数十メートルも進めば海が広がっていた。


 きっと落ちたゴミが海中に沈んでるんだろうが、それを回収する気は起きないな。

 都市近くの海は汚染率が半端無いらしい――そりゃそうだ。


「あれが最高値か」


 結局日が落ちる寸前まで探したが、めぼしいモノは最初の携帯電話だけだった。

 少しガッカリしながらも、少しゴミが残った外周の塀を沿いながら帰る。


「ん、あれは…手?」


 山から一本何か突き出した棒をよく見てみると、それは機械の手だった。


「ゴミ収集ロボットの残骸か?」


 収集ロボットを狙って壊すホームレスは結構居る。

 だが、大抵は壊しきれないか、護衛ロボットに連れてかれるのがほとんどだ。


「クッ…重いな、これは掘り起こさないとダメだな」


 まるで地球を引っ張っているかの様にビクともしないので、方向性を変えて周りのゴミをどかすことにした。

 難解に絡み合った金属のパズルを解いていくと、やっとソイツの顔が露わになった。


「よく…出来てるな……」


 もしコイツの顔だけが出てたなら、死体と見間違う程に精巧に作られた顔面だ。

 引っ張り出してよく見てみると、腕の人工皮膚だけが剥がれていて、埋まっている身体の方は無事だった。


 男の身体付き、戦闘用ロボットか?

 だが、なぜこんなゴミ山に…。


 戦闘用ロボットだとしたら専用の処理方法があるハズだ。

 あの部隊に入っていた時に、何度か整備などを頼まれたから分かる。

 とにかく、これは大きな収穫だ。

 わざわざ残飯を漁りに来た甲斐があった。

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