第3話 VS土魔術の後

「昨日、新しくバイトを始めてみたんだ」

「へえ、そうなんですね」

「闇バイトだった」

「楽しげに話すことですかそれ」

「武装したテロリストが出てきたんだよ? 楽しかったに決まってるでしょ!」

「銃を見て戦意を滾らせる魔術師は貴方くらいのものですよ……」


 翌日の昼休み、郷里は自分の前の席で中学時代からの仲の真城まき 郷華きょうかと昼ごはんを食べようとしていた。ちなみに名前は似ているが特に血縁などはなく、ただの友人である。実家にお邪魔して郷華の姉や父親と殴り合ったことはあるが、あくまでただの友人である。


「まずね、まずね、動くなって言うから全力で動いてヘイトを稼ぐの」

「……踊ったんですか?」

「反省を促す意も込めて!」

「貴方が鉛玉で反省を促されるやつでしょう、それ」

「徹甲弾でも効かないよ!」

「よく喋りますね……」

「炎で酸素無くなっても余裕! 放射線も紫外線も遮断できる! 軟弱な他の魔術師とは鍛え方が違うのさ!」

「なぜ魔術以外の兵器を相手取ることを前提にしているんですか?」


 机をくっつけて向かい合わせになっても、郷里は弁当も出さずにその時の話をし続ける。どうせ昼休みはまだまだあるので、郷華はその話に耳を傾けた。


「弾切れまで撃たせた後は流れでね!」

「また考えなしに動いて……巻き込まれた他のバイトの方々が気の毒になりますね」

「部屋の隅でカタカタ震えてた!」

「それはテロリストに怯えていたのか、それとも貴方に怯えていたのか……」


 正解はどっちもだ。郷里は当然のように銃弾を弾くので、跳弾が当たりやしないかと戦々恐々だったのだ。結界魔術も、一般人程度の実力では音速で飛来する金属の塊にはなす術もないのだ。銃弾なんか防げるはずがないという思い込みもそれを助長している。


「ほら、駅前に解体工事した後みたいになってるビルあったでしょ? あれ」

「随分と派手に暴れましたね!?」

「僕はやってないよ? やろうと思えばできるけど、あれは違う」

「では誰が?」

「この学校の英雄部とかいうとこの先輩。土魔術で鉄筋コンクリートをこう……くしゃっとしたみたい」

「土の判定広過ぎでは?」


 土魔術から派生して金属魔術も存在するので、何もおかしくは無い。流石にプラスチックなどは厳しいのか、あからさまに土や金属ではないものだけが瓦礫の山の中で原型を留めていた。


「でさ、でさ、問題なのはバイト先が闇だったことじゃないんだよ」

「……あっ、バイト代」

「うん、それでとりあえず食費を切り詰めることにしたわけ」

「通りでお昼ご飯を出す素振りがないわけですね……貴方、ただでさえ細いのに、これ以上痩せ細ってどうするんですか」

「敵の油断を誘う!」

「強化魔術は素の肉体スペックに対する掛け算だと聞いたことがありますが?」

「何の! 足し算で勝てばいい!」

「相変わらずの脳筋ですね……」


 郷里にも一応体を鍛えようとした時期はあった。体質なのか何なのか、筋肉も贅肉も付かなかったので、二年ほどかけて諦めたが。


「さて、そんな貴方に朗報ですよ」

「似たような弁当が二つ……来るよ郷華!」

「何も来ませんよ。これは貴方の分です」

「えっ」

「妹さんに頼まれたんですよ。今日中に新しいバイト先は見つけるから、弁当は任せたって」

「うわぁ、同級生と妹におんぶに抱っこだぁ。ごめん、ありがとう」

「片手間ですからお気になさらず。それより、趣味のために食費まで切り詰めるのはやめなさいと以前も言ったはずですよね?」


 片手間とは言うが、蓋を開けてみるとそこにはアスパラガスの肉巻きや唐揚げや卵焼きなど、明らかに凝ったおかずの数々が詰まっていた。郷里は弁当代と言って郷華に無理やり千円札を握らせた。最初からそれで弁当でも買っていればいいものを。


「そういえば闇バイトの建物、潰れる時にまだ僕とか他のバイトの人残ってたんだよね」

「落ちてくる天井と床の間でつっかえ棒ごっこでもしたんですか?」

「いや、全員抱えて窓からフライハイ」

「フリーフォールの間違いでしょうそれ」

「皆めちゃくちゃ叫んでた」

「やっぱり絶叫系アトラクションのそれじゃないですか」


 弁当を食べ始めても、話題は変わらず闇バイトの件の続き。建物が崩れかけとなれば足場は必然的に不安定だったはずだが、そんな状況でよく全員を抱えて跳べたものだと、郷華は改めて郷里の強化魔術の力に驚いた。


「その時にね、その建物潰した魔術師の先輩、僕のことを敵と間違えたのか何なのか、瓦礫操作して飛ばしてきたんだよね!」

「嬉しそうですね。ありがとうございますとでも叫んだんですか?」

「マゾじゃないからそんなことしないよ。いやね、ほら、土魔術より強化魔術の方が強いことが証明できちゃったものだからさ!」

「……まだ言ってるんですかそれ」

「いつまでも言うよ! 市街地、それもビルの瓦礫があるっていう土魔術師に有利な環境でも僕の勝ち! ってことは強化魔術最強! ね!」

「空間魔術で削り取られたら終わりでしょうに」

「禁術でしょ空間魔術」


 強化魔術最強と叫ぶ郷里に、郷華はため息をつきながら額を抑え、視線がバレないようにしつつ周囲を見回し、クラスメイトたちの様子を伺う。するとやはり、何かを期待するような目が郷華に向けられていた。


「……しかし、貴方にはまだまだ実戦が足りないでしょう? 強化魔術を最強と決めつけるには、戦っていない魔術の使い手が多すぎます」

「じゃあ片っ端から決闘を挑むまでだね!」

「挑むべきは相応の使い手でしょう。ギラついた目でクラスメイトを睨むものじゃありませんよ」

「相応のって言ったら……例の英雄部?」

「そうですね。彼らは目的や活動内容こそ怪しげなものですが、魔術の腕前はこの学校でもトップ揃いだそうですから」

「……やめておこうかな!」

「さては面倒になりましたね?」


 郷里を放置すればまた何かをしでかす。まだ高校が始まって二週間と経っていないのに、クラスメイトたちはそれを理解していた。そして郷華は、郷里をどうにか制御する係に半ば強制的に任命されていたのだ。他に誰もできる人がいないだけでもあるが。


「では生徒会はいかがです? 彼らも選考基準は魔術の腕ですよ?」

「真面目に魔術師やってる人たち相手に道場破り紛いのことするのは悪いでしょ普通に」

「貴方にそんな普通があることが驚きですよ。この前の炎魔術師さんはどうしてああなったんですか」

「……だって最強とか名乗ってたから……」

「条件反射で喧嘩買いに行ってたんですか??」


 ひとまず矛先が逸れて、クラスメイトたちは一安心する。魔術の性質の都合で、強い魔術師ほど思い込みが激しかったり話を全然聞いてくれなかったりする。郷里は実は比較的まともな方なのだが、そんなことは知らないクラスメイトからは何が着火剤になるか分からない爆弾のような扱いになっているのだ。


「彼、今日は欠席しているそうですよ」

「へぇ、風邪でも引いたのかな?」

「きっと腹痛は治まっていないと思いますよ」

「夜はまだ冷えるから、寝る時はお腹冷やさないようにしないとね!」

「物理的なものですから、むしろ氷嚢でも乗せているのでは?」


 世の中には治癒魔術という便利なものも存在するが、具体的なイメージが無ければ魔術は発動しないため、内臓など見えない部分の治療は難しいものなのだ。そのため、可哀想なことに炎魔術師ボーイは当分の間苦しみ続けることになっていた。


 ちなみに決闘の結果なので、郷里に治療費を負担する責任などは存在しない。流石に大怪我させていれば違ったが、魔術師同士の小競り合いでこの程度のことはよくあるのだ。


「ごちそうさまでした、おいしかった! 絶対片手間じゃないクオリティだった!」

「お粗末さまでした。現実時間で換算すれば片手間も片手間ですよ? 時間魔術で加速しましたから」

「どうして当然のように禁術使うのかな」

「黒魔術師の家系なものでして」

「ま、正直バレなきゃセーフなとこあるよね」

「貴方の強化魔術のようにですか?」

「ちょっと待ってどこで気づいたの」

「カマをかけただけですが……えっ、マジなんですか?」


 郷華の両親は黒魔術師だが、ただの黒魔術師ではない。国家試験を受けて免許を取った、公認黒魔術師なのだ。だからといって郷華が禁術を使っていいわけがないが。


「……確かに触れてみると、僅かに違和感があるような、ないような……」

「周りに魔術をバレないようにする小手先の技術だよ、どやあ!」

「まあ確かに、これは誇るべき技術ですね。活用法はさっぱり思い浮かびませんが」

「褒めるか貶すかどっちかにして?」

「凄いじゃないですか」

「うへへ」

「単純な人……」


 郷里は結構単純な奴だ。強化魔術を貶したり最強を名乗ったりしなければ、これでも普通の良い奴として付き合える。恐ろしい強化魔術師という認識が先走ってしまっている以上、周囲の認識を変えるのは難しいだろうが。


「あっ、そういえばこの弁当箱どうすればいい? 洗って明日持ってくる?」

「面倒ですから持ち帰りますよ」

「待って今どこに仕舞った?」

「亜空間……ですかね」

「空間魔術! 禁術!」

「あっ、ほら、そろそろ五時間目の授業始まりますから。教科書とか準備するべきですよ」

「このぉ!」





──────────





おまけ


テロリストについて

 魔術師の倫理観はゆるふわなので、武装したテロリストくらいなら半月に一回くらいニュースで見かける。火薬さえ用意できれば銃や弾丸は魔術で作れるうえに、空間魔術なら海外からワープするくらい容易なので、本当にたくさんいる。


プラスチック

 強度にはやや不安があるものの、金属と違って魔術では破壊する以外に突破方法のない素材ということで、この世界ではセキュリティを重視する時に魔力センサーと一緒によく使われる。


治癒魔術について

 魔術師が「治せるなら壊してもよくね?」と思うようになった原因。建物もコンクリート製なら土魔術で直せるので、いざという時は破壊に躊躇がない。


真城家について

 実はすごい家系。お金持ち。政界や経済界にも影響力がある。古いしきたりのせいで少し前までは家族同士で殺し合わないといけなかった。


郷華の姉と父

 色々あって郷里と殴り合った。このおかげで家族関係が拗れる前に複雑骨折することができ、なんやかんやで改善することもできた。郷里は郷華の姉から今でも殺意を向けられているが。





キャラクター概要


「なんかちょっと頭痛くなってきましたね……」

名前 真城 郷華

年齢 15歳

称号 上級付与魔術師

概要

 対象に何らかの魔術の性質を付与する付与魔術の使い手。自分に強化魔術を付与すれば、短時間ではあるものの郷里と殴り合うこともできる。郷里と違って別に他の魔術が使えないわけではない。郷里に強化魔術を付与すると郷里自身の強化魔術といい感じに組み合わさり、化け物が誕生する。郷里が姉や父と殴り合っている間に妹や母と殴り合っていた。

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(自称)最強の魔術師の華麗(?)なる日常 ぐすてんたん @gstentun

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