第17話 涙の告白

須藤は、麻里との妄想の中では、動画の麻里が自分を求め、情熱的に愛し合っていました。しかし、現実の麻里は、ただの冷静で仕事熱心な同僚でした。


須藤

(飯嶋さん、昔はこんなしっかり者じゃなかったのに、、)


この妄想と現実との差が、須藤の精神を蝕んでいきました。彼は、愛する麻里が目の前にいるのに、手が届かない、むしろ遠ざけられているという事実に苦しみました。

その結果、須藤はだんだんと体調が悪くなっていきました。睡眠不足、食欲不振、そして常に麻里さんのことを考えてしまうことで、仕事の集中力も低下し始めていました。


麻里は、須藤に対して冷たくはしてるつもりは全くありませんでした。指導役として、須藤にはわかりやすく教えてあげたりしているつもりでした。彼女にとって、須藤はあくまで同僚として平等に接する相手でした。

しかし、須藤の受け取り方は全く違いました。


須藤(心の声)

(なんでだ。俺には業務の話しかしてくれないのに...)


須藤は、麻里が冴えない新卒2年目の男の子には、業務外の雑談やちょっとした優しさを見せているのに、自分には業務以外のことは話しかけてくれないのが辛かったのです。


須藤の目には、麻里の「平等」が「業務上の線引き」として映り、自分に対する冷たい拒絶だと感じられました。動画による妄想で麻里との距離が極限まで近づいている分、現実の距離感が彼をさらに苦しめました。


妄想と現実の乖離による体調不良は、ついに隠しきれないレベルに達し始めました。

須藤は、集中力の低下と睡眠不足から、出社中にあからさまに顔色が悪いことが増えました。


麻里は、その異変にすぐに気づきました。


麻里

須藤さん大丈夫ですか?顔色悪いよ


麻里は、同僚としての心配から、純粋に声をかけました。しかし、須藤には、その言葉が麻里からの**「同情」や「優しさ」**のように聞こえました。


麻里の心配に対し、須藤は本心を隠し、突き放すような態度を取りました。


須藤

大丈夫です。。

麻里

なら、よかったです。。


須藤は、麻里の優しさを引き出すチャンスを自ら逃しましたが、内心では麻里の心遣いに一瞬、満たされた思いを抱きました。

その日の退勤、麻里は珍しく定時に退社しました。そして、まさに須藤が望んでいた通り、たまたま須藤と退勤が被りました。

須藤は、麻里と一緒に帰れるかもしれないという高揚感と、体調不良による疲労の極限状態にありました。須藤がオフィスを出た、まさにそのあたりで、須藤が倒れてしまいました。

麻里は、その場に崩れ落ちた須藤に、驚きと動揺を隠せませんでした。 


麻里

須藤さん!! 


麻里は、須藤の過去の冷たい態度や、広大への不自然な言動を知りながらも、同僚としての責任感と優しさから、須藤を放っておけませんでした。麻里が、近くにある医務室みたいなところを探して、そこに須藤を運んであげたのです。


医務室での目覚め

しばらくして、須藤は意識を取り戻しました。

須藤は目を覚ましたら、医務室のベッドに寝かされていました。そして、彼の横には、心配そうな顔をした麻里が横にいました。


須藤(心の声)

(……飯嶋さんが、そばにいてくれる。まるで、動画の妄想が現実になったみたいだ)


須藤の体調不良は、図らずも麻里の個人的な優しさを引き出し、彼との距離を一気に縮める結果となったのです。


目を覚ました須藤の横には、麻里がいました。須藤の意識が戻ったことに、麻里は安堵した様子で声をかけました。


麻里

あ、須藤さん目が覚めましたね。


須藤

飯嶋さん、俺はどうして、、


麻里

さっき倒れたんです。なので運びました


須藤

そうですか。。


須藤は、自分が望んだ通りの状況、つまり麻里からの献身的な介抱を受けていることに、内心強い満足感を覚えていました。この機を逃すまいと、彼は長年抱えてきた思いを打ち明けることを決意しました。


須藤

飯嶋さん。俺の話を聞いてくれますか、、


麻里は、須藤の過去の態度や、広大への不自然な言動を知りながらも、倒れたばかりの相手を突き放すことはできませんでした。


麻里

わかりました。いいですよ。


須里は、麻里の許可を得て、ついに医務室で、麻里へ心の内を話し始めました。彼の瞳は、熱烈な執着と、現実の麻里への切実な思いを宿していました。


須藤は、麻里の優しさに包まれた医務室の状況を利用し、涙ながらに心の内を語り始めました。彼の言葉は、麻里への執着と、それが受け入れられないことへの苦痛に満ちていました。 


須藤

俺、、飯嶋さんと再会できて嬉しくて、、でも飯嶋さん、あんまり仲良くしようとしてくれないの辛くて、、再会して、、俺、また君のことが好きと思ったんです。


麻里さんは、その言葉を遮らず、ただ静かに聞いていました。


麻里

、、、


須藤

俺が仕事は真面目に取り組んでいても飯嶋さんそれでも俺のこと見てくれなくて、、


須藤

他の年下の男の人たちには話しかけてんのに、、俺には話しかけてくれないし、、


彼の訴えは、麻里の「平等な態度」を「自分への拒絶」と受け取っていることを示していました。 


須藤

飯嶋さんへの気持ちが伝わらなくて、、気づいたらここまで来てしまいました。


須藤は、体調不良の原因が麻里への報われない執着であることを告白し、泣き出しました。


須藤

俺には冷たいのが辛くて、、飯嶋さんが、、、


麻里さんは、自分が冷たくはしてないにもかかわらず、須藤がここまで思い詰めていたことに、動揺を隠せませんでした。同時に、彼が自分の気持ちを押し付けてきていること、そして広大との関係を脅かしていることへの警戒心も強まりました。


麻里は、須藤の気持ちを受け止めつつも、今の自分の立場と、彼との関係に明確な線引きをする必要がありました。


麻里

須藤さん。まず落ち着いてください。体調が悪いのは、あなたのその気持ちが原因だと思うわ。


麻里

私は、須藤さんに対して特別なことは何もしていない。他の同僚と話すのと同じように、あなたにも接しているつもりよ。もし、それが須藤さんに冷たいと感じさせてしまったのなら、ごめんなさい。


麻里は、一度深呼吸をし、核心を伝えました。 


麻里

でも、わかってほしいの。私はもう、結婚している。須藤さんが大学時代に私を好きでいてくれたことは、もう過去のことよ。今の私にとって一番大切なのは、広大との生活なの。


麻里

あなたの気持ちは、同僚として聞いてあげられたけど、これ以上は応えられない。これからは、仕事の同僚として、普通に接しましょう。それがお互いにとって一番良いことよ。


麻里から、広大への愛と、須藤への明確な拒絶を伝えられた須藤は、泣き続けました。好きな人からはっきりと気持ちには応えられないと言われてしまったのです。


しかし、目の前にいる麻里は、自分のことを好きでいてほしい、好きな人には変わりませんでした。


須藤は、涙をこらえながら、麻里の言葉を受け入れたふりをしました。


須藤

ごめんなさい。わかりました。。


麻里は、須藤が冷静になったことに安堵し、帰るよう促しました。


麻里

落ち着いたら帰りましょう


須藤は、このチャンスを逃すまいと、最後の、個人的な接触を求めました。


須藤

あの、、お願いが、、ご飯、、一緒に行ってほしいです。。今日だけでも、、


麻里は一瞬ためらいました。須藤の気持ちに応えるつもりはありませんでしたが、倒れるほど思い詰めている相手を完全に突き放すのは酷だと感じました。また、食事をして、きちんと話をしてしまえば、須藤も諦めがつくだろうという考えもありました。


麻里

、、わかりました。行きましょう


麻里は、あくまで同僚としての情と、これ以上のトラブルを避けたいという思いから、須藤の願いを受け入れました。


麻里は、須藤の願いを受け入れ、二人で居酒屋に入りました。須藤の気持ちに明確に線を引いた後だったので、麻里は冷静に部署の人の噂話などを中心に、楽しく談笑しました。 

須藤は、麻里がそばにいて、自分と笑い合っているという束の間の幸せに浸っていました。 

解散の時間が来ました。


麻里

じゃあまた明日!


須藤

はい!


麻里が旦那の元に帰るんだなと思うと、須藤は再び寂しくなりました。


須藤(心の声)

(諦めないといけないのかな、、でもこうしてたまには二人きりでいたいな、、) 


須藤は、麻里の「夫が好き」という言葉を受け入れつつも、完全に諦めることはできずにいました。


その夜、須藤は、麻里への執着を断ち切るために、美緒に連絡しました。 


須藤

あの、、誰か女子紹介できたりする?


美緒は、須藤の真意を察しました。


美緒

麻里のこと忘れたいのかな?ちょうど友達一人、彼氏欲しがってるの!


美緒は、須藤に女子を紹介しました。須藤は、その紹介された子とやりとりをし、さらには一回デートもしました。

しかし、須藤の心は全く動きませんでした。気が乗りませんでした。 


須藤(心の声)

(この子も違う。飯嶋さんじゃなきゃ気持ちがやっぱり乗らない...)


須藤は、どうしても、、麻里への気持ちが残ってしまいます。動画での妄想が彼の心を麻痺させている以上、現実の女性では麻里の代わりにはなり得ませんでした。

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