第7話 ドキドキ初デート 続き
サイゼリヤのボックス席に座った二人は、注文したメニューを突きながら、共通の話題である職場の話で盛り上がりました。
広大
最近鈴木さん目が死んでましたね
麻里
あはは!
仕事中よりもリラックスした広大は、よく笑い、よく食べました。麻里は、広大がミラノ風ドリアを頬張る姿を眺めているだけで、胸がいっぱいでお腹が膨れてしまいそうなほどでした。
食べ終わり、少し落ち着いたところで広大が麻里を真っ直ぐに見つめました。
広大
この後どうしますか?
麻里
えっと……(もう帰りたくない!)……なんか、したいです……
麻里は必死に、地元・八千代で二人が楽しめそうな場所を脳内で検索します。
麻里
この辺、とりあえずカラオケとかですかね?
広大
あ、そこでいいですよ、行きましょう
麻里
はい!!
麻里
(ひゃあ〜多田さんとカラオケ💕)
麻里の脳内では、例の「妄想」の断片がフラッシュバックし始め、期待と緊張で心臓の音が衣類を突き破りそうなほど大きく鳴り響いていました。
カラオケボックスの重い扉が閉まると、外の喧騒が消え、急に「二人きり」という事実が際立ちました。
広大
あの……俺、歌下手なんですよ……。飯嶋さんの前だと恥ずかしいな
少し困ったように笑いながら、頭をかく広大。
麻里
私も下手なんです……! 採点してもいつも70点台しか出せなくて
広大
え、全く同じです笑
共通の「苦手」が見つかり、緊張の糸が少しだけ解けました。でも、歌うのが恥ずかしい二人が選んだのは、マイクを持つことではなく、もっと濃密な時間でした。
広大
せっかくだから、、お話ししましょうか
麻里
はい!!
広大は自然な動作で、麻里が座っているソファのすぐ隣に腰を下ろしました。
広大は自然な動作で、麻里が座っているソファのすぐ隣に腰を下ろしました。
広大
学生の時とか、、友達とカラオケ、バカにされた思い出があって、、
広大が語る学生時代の思い出話。麻里は相槌を打ちながらも、その意識のほとんどは、隣にある広大の横顔に向けられていました。
少し長めのまつ毛、喋るたびに動く喉仏、そして時折自分を覗き込む優しい瞳。
麻里
(近い……。少し顔を伸ばせば、キスできちゃう……)
麻里は夢中で彼の話を聞きながら、その美しさに見惚れていました。仕事中の中途同期という壁が溶け出し、ただの一人の男としての広大がそこにいる。
麻里
(この感覚……。妄想してた時よりも、ずっと……ずっと胸が苦しくて、あったかい……)
薄暗い部屋の照明が、二人の影を一つに重ねていました。麻里の心は、もう「好き」という言葉だけでは収まりきらないほど、彼への愛おしさで溢れかえっていました。
広大が隣で楽しそうに学生時代の話を続ける中、麻里の心は一瞬、数年前の大学時代へとタイムスリップしていました。
それは、学科もサークルも同じだった、当時気になっていた「あの男」との記憶。教職課程の講義が終わった、夕暮れの帰り道。
??
飯嶋、寄りたいところあるんだ、一緒に行かない?
麻里
あ、うん
連れて行かれたのは、自然が綺麗で静かな場所。そこで二人は、今の広大と同じくらいの、それこそ「キス寸前」の距離で、夢中になって2時間も話し込みました。
あの時、麻里は間違いなく「彼」に恋をしていました。
けれど、その関係はあるきっかけで、修復不可能なほどあっけなく終わってしまったのです。
広大の体温を感じるこの至近距離が、図らずも「あの時のドキドキ」を思い出させてしまいました。
麻里
(あの時みたいな感覚……久しぶり……。……あんなやつのこと、思い出したくないのに、なんで今思い出しちゃうの……っ)
過去の苦い結末が胸をチクリと刺しますが、麻里はすぐに頭を振って、隣にいる本物の「好きな人」を見つめ直します。
麻里
(違う、今は多田さんが好きなんだもん!! あの時とは違う。多田さんは、あんなやつじゃない……!)
過去のトラウマを上書きするように、麻里は広大との今この瞬間に意識を集中させます。広大の優しい声、自分を見つめる真っ直ぐな瞳。それが、過去の亡霊を追い払ってくれる唯一の救いでした。
カラオケの個室に表示された時刻は、いつの間にか18時を回っていました。結局、一度もマイクを握ることなく、二人はずっと隣り合わせで語り合っていました。
広大
結局、一曲も歌いませんでしたね(笑)
麻里
うん! 本当に私、下手だから……むしろ歌わなくてホッとしてるかも
広大
わかります。俺も人前で歌うの、すごく恥ずかしいタイプなんで……
二人は笑い合いながら、少し名残惜しそうに個室を後にしました。外はすっかり暗くなり、夜の空気が二人を包み込みます。
広大
あの、、夕飯も食べて帰りますか?
麻里
そうですね!(まだ一緒にいたい!)
広大
どこがいいですか? 飯嶋さんの好きなところでいいですよ
麻里
うーん、ゆっくり話せるなら……居酒屋、ですかね?
すると、広大が少し申し訳なさそうに、でも正直に打ち明けてくれました。
広大
あ、自分、実はお酒があまり好きじゃなくて……。それでもよければ、ぜひ
麻里
あ、そうなんですね! 全然大丈夫です! 教えてくれてありがとうございます
イケメンで長身の広大なら、お酒もガンガン飲みそうなイメージでしたが、そんな「お酒が苦手」という少し可愛いギャップに、麻里の胸はまたギュンギュンと音を立てます。
麻里
じゃああそこの個室居酒屋で!
広大
あ、いいですね、行きましょう
二人は、少し肌寒くなった夜道を並んで歩き始めました。お酒が飲めなくても、居酒屋の個室というプライベートな空間で、広大と過ごす夜。
麻里の頭の中では、昼間の「サイゼリヤ」よりも、もっと大人な雰囲気の妄想が膨らみ始めていました。
居酒屋個室でも、話題は尽きませんでした。チーム長の真似をして笑い合い、職場の人間模様を肴に、広大はウーロン茶、麻里は少しのお酒で、二人の距離はさらに溶け合っていきました。
駅で広大を見送り、一人になった帰り道。麻里の心臓はいまだに激しい鼓動を刻んでいます。
麻里
(夢みたいな日だったなぁ……。本当に多田さんと二人で過ごしたんだ……)
ふとした瞬間に思い出す、カラオケでの広大の近さ、肩が触れ合った時の体温。
麻里
(……股間がギュンギュンしてる。大好き……多田さん。ずっと、多田さんといたいよ……)
帰宅しても、興奮は一向に収まりません。暗い部屋で一人、ベッドに潜り込んだ麻里は、昼間の記憶を燃料にして妄想の世界へ深く沈んでいきました。
広大の大きな手が自分の体に触れる。
183センチの体躯に包み込まれ、逃げ場のない快楽に溺れる。
麻里
多田さんっ!!
妄想はさらに熱を帯び、広大からの熱いキス、丁寧で情熱的なオーラル、そして待ち望んでいた熱い挿入……。
麻里は自分自身の指を広大だと思い込み、彼を求めるように一人エッチに耽ります。脳内では広大の掠れた声が、甘く自分の名前を呼んでいました。
そんな熱帯夜のような時間の最中、スマホが震えました。お兄さんの裕太からの着信です。きっと今日のデートがどうだったか、気になって電話してきたのでしょう。
しかし、今の麻里にとって、現実に引き戻されるのは何よりも苦痛でした。
麻里
お兄ちゃん、ごめん。今、余韻に浸りたいから電話できない
無情にもそう告げて、スマホを伏せる。
今はただ、広大の残像と、自分の体の中に残る彼の熱(妄想)にだけ、どっぷりと浸かっていたい。
麻里は再び瞳を閉じ、脳内の広大を強く、強く抱きしめるのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます