第6話 初々初デート
彼女がいないと分かってから、麻里の毎日はさらに加速していきました。
LINEとメッセージツールで絶え間なく続くやり取り。麻里は「自分に彼氏がいるか」なんて一度も聞かれないことに少し寂しさを感じつつも、広大との距離は確実に縮まっていると信じていました。
そして迎えた、とある土曜日。
ただこうだい※LINE
今日暇なんですよね
スマホの画面に映るその文字を見た瞬間、麻里の脳内に衝撃が走りました。
(暇……? それって「誘って」ってこと!? それとも「誘っていい?」ってこと!?)
期待と緊張で指が震える中、麻里は勝負に出ました。
まり
あたしも暇です
まり
よかったら、会いませんか?
心臓の音が耳元まで聞こえてきそうなほど激しく打ち鳴らされます。
「送っちゃった……! ついに言っちゃった!!」
麻里はスマホをベッドに放り出し、プラスルのぬいぐるみを顔に押し当てて悶絶しました。
数分後、恐る恐るスマホを覗き込むと、メッセージの横には非情にも**「既読」**の文字が。
しかし。
5分、10分……30分が経過しても、広大からの返信は来ません。
麻里
嘘、、既読無視、、?
麻里
……早すぎた? ガツガツしすぎた? 嫌われた……?
さっきまでのウキウキが嘘のように、麻里の心は急速に冷えていきました。画面をスワイプしても、新しいメッセージは届かない。広大の「暇」は、決して「麻里と会いたい」という意味ではなかったのか……。
暗い部屋の中で、スマホの光だけが虚しく麻里の顔を照らしていました。
13:00になり、、
スマホの通知音が鳴った瞬間、麻里は飛び起きました。恐る恐る画面を見ると、そこには「ただこうだい」の名前が。
ただこうだい
『返信遅れてすみません! 飯嶋さんって八千代でしたよね? 自分船橋あたりなので……』
『八千代いきましょうか? 俺免許ないんで電車でいきます』
麻里
……っ!! よかったぁぁぁ!!
既読無視の絶望は一瞬で吹き飛び、麻里の目からは嬉し涙がこぼれそうになります。しかも、広大は「どこに行きますか?」ではなく、わざわざ麻里の家の近くまで来てくれると言ってくれたのです。
さらに、麻里の心に突き刺さったのはその言葉遣いでした。
麻里
(たまに「俺」って言うの……嬉しい💕 いつもは「自分」なのに……!)
職場で見せる丁寧な姿とは少し違う、プライベートな「男」の部分が垣間見えた気がして、麻里の胸はギュンギュンと激しく波打ちます。
麻里
嬉しい……! 土曜日に会えるなんて! 仕事以外で会えるなんて!
麻里はクローゼットをひっくり返し、勝負服を選び始めました。プラスルのぬいぐるみを高く掲げて、くるくると部屋を回ります。
麻里
プラスルちゃん! 多田さんが八千代に来るって! 私に会いに来るんだよ!
一方、隣の部屋では……。
俊哉
(…………。さっきまで死にそうな顔してたのに。本当に忙しい女だな……)
待ち合わせの14時。改札から現れた広大の姿を見つけた瞬間、麻里は息を呑みました。
広大
飯嶋さん!
麻里
多田さん!
183センチの長身に、仕事のスーツとは違うラフな私服。そのあまりのカッコよさに、麻里は直視できないほど胸が熱くなります。
広大
遅れてすみません。。
麻里
いえ、突然誘ったの私の方なので、、
お互いに少し照れくさそうな、それでいて職場とは違う、どこかそわそわした空気が流れます。
広大
お昼、食べました?
麻里
まだですね!
広大
俺もです
自然な流れで食事に行くことに。麻里は、近場にある馴染みのお店を提案しました。
麻里
この辺、、サイゼあります
広大
サイゼいいですね、好きですよ、まずはサイゼ行きますか
麻里
はい!!
「まずはサイゼ」という飾らない言葉。でも、麻里にとっては世界で一番豪華なディナーの予約よりも、この瞬間のほうが価値がありました。
隣を歩く広大の歩幅に合わせて、麻里は必死にドキドキを隠します。
麻里
(「俺も」とか「いきますか」とか……多田さんの話し方がプライベートモードだ……💕)
お店に入り、向かい合わせの席に座る。メニューを選ぶ広大の指先、少し乱れた前髪、そして仕事中よりリラックスした表情。
麻里
(幸せすぎる……! サイゼで広大さんとランチなんて、夢みたい……)
麻里
麻里の心の中では、すでにプラスルのぬいぐるみが歓喜のダンスを踊っていました。
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