第5話 LINEゲット!

出社日の夕方、チーム長が三人のもとへやってきた。


チーム長

あの、木村さんと飯嶋さん、多田さん。一応……業務時間外の緊急連絡用に、チームのグループLINE入ってくれますか?


三人はそれぞれ「わかりました」と快諾し、その場でQRコードを読み取ってグループに追加された。麻里は(これで多田さんのアイコンが見れる!)と内心ガッツポーズをしていたが、まさかこの後、さらなる展開が待っているとは夢にも思っていなかった。


帰宅後、自室でリラックスしていた麻里のスマホが震えた。

グループLINEの動向かと思って画面を見ると、そこには「新しい友達」からのメッセージが届いていた。


ただこうだい

これ、飯嶋さんのLINEですか?


麻里

え……っ!!! ええええええええええ!!


麻里はベッドから転げ落ちそうになった。グループからわざわざ自分を探して、個別にメッセージを送ってくれたのだ。


麻里

お兄ちゃん……プラスルちゃん……多田さんからLINEきたーー!!!!! 個別! 個別だよ!!!


興奮のあまり、スマホを握りしめたまま部屋中をドタバタと駆け回る麻里。


隣の部屋


俊哉

(…………また騒いでる。。)


もはや日常茶飯事となりつつある姉の奇行に、俊哉は虚空を見つめた。今日のは今までで一番声が高く、何かに取り憑かれたような喜び方だ。


まり ※LINE

そうですよ!


ただこうだい

ですよね!職場の人とLINE交換初めてです!


まり

私もです!


「初めて」という言葉の響きに、麻里の胸はギュンギュンと音を立てて高鳴ります。広大にとっても、自分が職場での「特別な一人目」になった。その事実だけで、夜の静かな部屋がバラ色に染まっていくようでした。


LINEを終え、ベッドに潜り込んだ麻里ですが、興奮して眠れるはずもありません。

ついに自分の気持ちを確信し、「付き合えたら……」と願う麻里の妄想は、一気に最終段階へと突き抜けました。

【麻里の脳内妄想:真夜中の情事】

薄暗い部屋、広大の長い手足が自分を包み込んでいる。183センチの大きな体が覆いかぶさり、心地よい重みを感じる。

広大が激しく、かつ情熱的に腰を振る。


麻里

た、多田さん、、気持ちいい!!


麻里

もっと入れてぇ、いれてぇぇ


広大の、いつもより低く掠れた声が耳元で響く。


広大

飯嶋さん、、気持ちいいです


麻里

....ふふ。こうなるといいなぁ💕


妄想の中の広大に抱かれ、麻里はとろけるような笑顔で布団に顔を埋めます。

未経験ゆえの、知識と願望が入り混じった激しすぎるシミュレーション。麻里の「好き」というエネルギーは、もはや現実と空想の境界線を越えようとしていました。

その時、壁の向こうでは……。


俊哉

(…………。もう、寝ろよ。)


姉の部屋から漏れ聞こえる、何とも言えない艶っぽい(?)溜息と布団の擦れる音に、俊哉は真顔で天井を見つめるのでした。


それからというもの、二人のやり取りは欠かせない日課となりました。

仕事中はメッセージツールで、夜や休日にはLINEで。

麻里は広大からの通知が来ると、まるで跳ねるように即レスしてしまいます。対する広大の返信はいつもゆっくり。

「まだかな、まだかな」とスマホを見つめる時間はもどかしいけれど、その分、返信が来た時の喜びはひとしおでした。


麻里は日々LINEを続けるのを頑張っていまきた。

その日の夜。麻里は一人暮らしをしている兄・裕太に電話をかけ、ここ最近の「多田広大」との進展をノンストップで語り続けていた。


麻里

それでね、多田さんって言うの💕 お兄ちゃん越えの超絶イケメンなんだぁ💕


裕太

(苦笑しながら)へぇ、それは見てみたいね。麻里がそこまで言うなんて


麻里

しかもね、身長が183センチもあるんだよ!


裕太

それはでかいね!


麻里

あー、やっぱり180超えたらデカいよねぇ……。並ぶと見上げる感じなの💕


麻里の声は完全に恋する乙女。裕太は妹の変わりように驚きつつも、ふと気になったことを口にした。


裕太

で、その多田さんって人さ。……彼女とかいないの?


麻里

あ、、、


その瞬間、麻里の思考がフリーズした。


これまで何度もLINEし、オンライン会議で笑い合い、至近距離で鼻の穴が見えるほど近づいた。けれど、肝心な「特定の相手がいるかどうか」という確認を、麻里は一切していなかったのだ。


麻里

……き、聞いてない……かも……


妄想の中ではラブホまで行っていたのに、現実はまだ「彼女の有無」すら知らない。麻里の顔から一気に血の気が引き、その後に激しい動揺が襲ってきた。


次の出社日、チーム長からの指示という絶好の口実で、広大が麻里を誘いました。


広大

木村さんか飯嶋さんに目標設定参考にさせてもらいなってチーム長に言われてて……ラウンジでお願いします


麻里

はい!!(きたぁ!!


二人はいつものラウンジへ。目標設定の資料を広げつつも、会話は自然と職場の人間模様へと脱線していきます。


広大

チーム長……いつも奥様が作ったであろう弁当、レンジでチンしてますよね


麻里

してますね。……愛妻弁当、羨ましいな


広大

ですよね


麻里は、喉の奥まで出かかっていた言葉を、震える勇気と共に絞り出しました。


麻里

多田さんは……作ってくれる人っているんですか?


広大

いませんよ


麻里

あの、、彼女とか


心臓が跳ねる。麻里はさらに一歩、踏み込みます。

すると広大は、少し自嘲気味に、自分の過去を話し始めました。


広大

自分、前職はSES(客先常駐)で全然人と絡まなかったし、その前はIT専門学校だったし……。女性とまともに絡んだの、最後は高校生の頃だったし


麻里

(…………いないってこと!? 絶滅危惧種レベルの純粋培養イケメンなの!?)


麻里の脳内に、勝利のファンファーレが鳴り響きました。

前職も専門学校も男だらけの環境。女性経験が極端に少ないという、信じられないほど幸運な事実。

麻里は必死に顔のニヤけを抑えながら、心の中でガッツポーズを繰り返していました。


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