第4話 好きと自覚した麻里 

テレワークを終え、夜の静まり返った部屋で、麻里は一人ベッドに寝転んでいた。

今日一日の広大とのやり取り、オンライン会議での笑い声、メッセージを待っていた時のあの焦燥感……すべてを思い返して、一つの結論に辿り着く。


麻里

あたし、、多田さんのこと、好きかも


声に出してみると、その想いはすとんと胸に落ちた。


麻里

いや! 今更かな?? こんなにメッセージひとつで一喜一憂して……あんなに嬉しいなんて、もう答え出てるよね


これまでは「仲良くなれたらいいな」だった。でも今は、広大のすべてが愛おしく感じられる。

そんな時、スマホが振動した。一人暮らしをしている兄・裕太からのLINEだった。


裕太

久しぶり。近いうちに飯でも行かないか


いつもなら適当に返すところだが、今の麻里には誰かにこの溢れる想いを伝えたくて仕方がなかった。


麻里

お兄ちゃん!久しぶりに聞いて欲しいことが


裕太

どうしたの?


麻里

好きな人できたの💕


画面の向こうで、裕太はきっと目を見開いているに違いない。数秒後、驚きを隠せない返信が届いた。


裕太

麻里に?!あの恋愛に興味なかったあの麻里に?!


兄にとって、麻里は「恋愛とは無縁」な存在だったのかもしれない。それほどまでに、広大との出会いは麻里を変えてしまっていた。


麻里

今度聞いてね💕


麻里は幸せな気分でスマホを閉じると、再びプラスルのぬいぐるみを抱きしめた。


自分の恋心を認めたその日の夜、麻里の妄想は留まることを知りませんでした。ベッドの中でプラスルを抱きしめ、天井を見つめながら、理想のシナリオを脳内で再生します。

【麻里の脳内妄想】

夕暮れ時の公園のベンチ。オレンジ色の光に包まれて、二人は肩が触れ合う距離で座っている。


広大

飯嶋さん、、、好きです


麻里

多田さん、、私も好きです


吸い寄せられるように見つめ合い、ゆっくりと重なる唇。甘いキス……。

そして舞台は一気に、大人の空間へ。


広大

.....入れますよ


麻里

はい💕


麻里

なーんてね💕 あたし経験ないけど!! うふふふふふ💕


あまりにも刺激的で幸せな妄想に、麻里はベッドの上でジタバタとのたうち回ります。自分の経験値のなさを棚に上げて、理想の広大を脳内で作り上げてはニヤニヤが止まりません。


壁一枚隔てた隣では、弟の俊哉が深夜までPCに向かっていました。


俊哉

最近、、本当にうるせぇな


壁越しに聞こえてくる姉の怪しい笑い声と、バタバタという振動。何かが起きているのは間違いないが、あまりに関わりたくないそのオーラに、俊哉はヘッドセットを耳に深く押し込み、深い溜息をつくのでした。


その日の出社日。広大は業務の中で、相手によって「教わる場所」を明確に使い分けていた。

チーム長や、あの問題児(?)の鈴木達人に教わる時は、広大は自席で淡々と話を聞く。しかし、相手が麻里の時だけは違った。


広大

じゃあ、、ラウンジで、、


麻里

はい!💕


麻里

(自席じゃなくて、わざわざラウンジに誘ってくれるなんて……!)


二人きりになれる(かもしれない)その空間へ移動するだけで、麻里の心拍数は跳ね上がる。

ラウンジの椅子に並んで座ると、広大はまた例の「顔が近い」スタイルで麻里の画面を覗き込んできた。


広大

ここなんですけど、、


麻里

あ、ここはですね、、


広大から漂う清潔感のある香りと、時折触れそうになる肩。

麻里にとって、プログラミングを教えるこの時間は、もはや業務ではなく「デート」に近い感覚だった。



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