第3話 オンライン会議、ラウンジで

その後、広大はプログラミングレビューを

鈴木ではなく二ヶ月入社の早い麻里ばかりに頼ってくれました


多田広大

お忙しいですか?教えてほしくて。オンライン会議お願いします!


飯嶋麻里

はい!!


麻里は即座に快諾し、二人は会議ツールを繋いだ。※カメラはオフです

麻里は丁寧にコードのレビューを行っていった。

レビューが一段落し、少しリラックスした空気が流れる。


広大

……みんなコミュ力ありますよね。自分、営業やったことないし、営業とか僕できないかもです


麻里

私もです


すると、広大がオフィスで見聞きした「社内の裏事情」をこっそり話し始めた。


広大

そういえば、藤原さんが何者かにキレられてました


麻里

そんなのありましたっけ?


広大

なんか偉い人たちが『藤原ふざけんなよー』って言ってるのを聞いちゃって……


麻里

あったかもですね!!


大企業の荒波(?)に揉まれる先輩社員の噂話に、二人は盛り上がる。

真面目な仕事の話だけでなく、こうして「ここだけの話」を共有できるようになったこと。そして、少し弱音を見せてくれたこと。自分の心が昨日までとは少し違う揺れ方をしているのを感じていた。


麻里

(多田さんのこと、少しずつ……気になってきたかも……)


ある出社日のこと。広大から声をかけられ、麻里の心は一気に華やいだ。


広大

飯嶋さん、ちょっといいですか?


麻里

はい!!


その瞬間、麻里の表情がパァァァッと明るくなる。


あまりに嬉しそうな返事に、近くにいた同期の木村は呆れたように心の中でツッコんでいた。


木村

(飯嶋さん、わかりやす....)


麻里が広大の席に駆け寄ると、もはや言葉にせずとも全身から**「💕💕💕」**というオーラが放たれているかのようだった。


広大と話せるだけで舞い上がってしまう麻里。そんな彼女は、自分からも積極的に広大に話しかけようと、以前の会話を思い出して声をかける。


麻里

多田さん、前にウォーターサーバーどこかって聞いてましたよね、あっちにありましたよ


広大

あっ、、知ってましたよ


少し拍子抜けするような広大の返答。そんな二人のやり取りを、少し離れた席から苦々しい表情で見つめる男がいた。女子に人気があり、密かに麻里のことを気にかけていた森下だ。


森下

(はぁ?!)


一瞬、信じられないものを見たという顔でこちらを睨み、森下はすぐに目を逸らした。


森下

(……多田さんのこと好きなんだ、あんなに分かりやすく……)


麻里の無自覚なアピールは、もはやチーム内の誰もが気づくほどになっていた。


とある別の出社日、、


その日はタイミングが合わず、業務中に広大と話す機会がほとんどなかった。麻里は沈んだ気持ちで帰り支度を整える。


麻里

(今日、、多田さんと話せなかった、、寂しい、、はぁ……)


トボトボと歩き出したその時、背後から聞き慣れた声が響いた。


広大

飯嶋さん!!


広大が追いつきざまに、麻里の肩をポンと叩いて声をかけてくれたのだ。


麻里

多田さん!!


一瞬で顔を輝かせる麻里。すると広大は、周囲に人がいるにもかかわらず、麻里にピトッと体を寄せて歩き始めた。


広大

実務どうでした?


麻里

あ、、なんとか、、


広大

そうだったんですね!


広大は麻里の愚痴を「うんうん」と親身になって聞きながら、駅へと向かっていった。


広大は麻里に体を近づける。

麻里はドキドキキュンキュンきました。


電車に乗り込むと、今日も二人は向かい合って立ち、会話の続きを始めた。広大は相変わらず、麻里の話を聞く時にぐっと顔を近づけてくる。


麻里

(目が綺麗……あ、鼻の穴まで見える……)


あまりの至近距離に、麻里の視線は広大のパーツを細かく捉えてしまう。


麻里

(なんか、ドキドキする、、)


「同僚として仲良くなれたら」と思っていたはずなのに、心臓の音はどんどん速くなる。麻里は、自分が想像以上に広大という存在に惹きつけられていることを、痛いくらいに自覚し始めていた。


いつもの乗り換え駅に到着し、二人の時間は終わりを告げる。


広大

じゃあ自分、ここなんで


麻里

はい!!


広大の後ろ姿を見送る麻里の足取りは、羽が生えたように軽かった。今日一日の出来事、肩に触れられた感触、そして至近距離で見つめ合ったあの時間を思い出し、麻里の心はウキウキとした高揚感で満たされていた。


飯嶋家のリビング


麻里が帰宅すると、家には両親と二つ下の弟、俊哉がいた。

しかし、今の麻里の頭の中は広大のことでいっぱいで、家族の視線など全く気にならない。

麻里はそのままトイレへ駆け込むと、鏡に映る自分の緩みきった顔を見つめ、思い出し笑いを堪えきれなかった。


麻里

えへへへへへ、、


ニヤニヤが止まらないままトイレのドアを開け、リビングに戻ってくる麻里。


ちょうどそこを通りかかった俊哉は、無言で姉の姿を凝視した。


俊哉

?!?


性格が暗く、普段から口数の少ない俊哉にとって、独り言を言いながらニヤついている姉の姿は、恐怖すら感じる異様な光景だった。


俊哉は何も言わず、ただ怪訝そうな視線を送るだけだったが、そんな弟の冷ややかな反応すら今の麻里には届かない。麻里はただ、広大との距離が縮まった幸福感に浸り続けていた。


次のテレワーク日


その日のテレワーク、麻里の業務は早々に落ち着いていた。しかし、心は全く落ち着かない。


麻里

来ない。。


パソコンの画面、メッセージツールの通知欄を何度も確認するが、期待している「多田広大」の名前は一向に表示されない。


麻里

いつも多田さんからメッセージくれるのに……


これまでは何かしら質問や雑談を送ってくれていた広大。それが今日に限って、音沙汰がない。


麻里

来ないーーーー!!!!


時刻は15時半。いつもなら、そろそろちょっとしたやり取りが発生する時間帯だ。


麻里

いつも来るのに!!なんで今日は来ないの?


もどかしさが限界に達した麻里は、デスクに置いてあったお気に入りのプラスルのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。


麻里

プラスルちゃーん!! 多田さんから連絡来ないよぉぉ!!


一方、壁を隔てた隣の部屋。

同じくテレワーク中で、淡々とシステム作業をこなしていた弟の俊哉は、姉の叫び声を聞いてピタリと手を止めた。


俊哉

(うるさ。。)


姉が何かに狂喜乱舞したり、絶望したりするのはいつものことだが、今日のは特に一段と声がデカい。


俊哉

(仕事しろよ……。何がプラスルちゃんだよ……)


無口でストイックな俊哉にとって、恋に浮かれて仕事どころではなさそうな姉の姿は、理解の範疇を超えていた。冷ややかな溜息をつき、俊哉はヘッドセットの音量を少し上げた。


16:30

時刻は夕暮れ時。諦めかけていた麻里のPCから、ついにあの通知音が鳴り響いた。


多田広大

あ、今ここのプログラミングつまってるんですがよろしいですか?


麻里

き、来たー!!


麻里は椅子から飛び上がらんばかりに叫んだ。


麻里

やったぁぁぁ!!!! プラスルちゃん!! 多田さんから来たよー!!!


興奮冷めやらぬまま、ぬいぐるみを振り回して喜ぶ麻里。


多田広大

オンライン会議お願いします!


飯嶋麻里

はい!!


もちろん、お互いのカメラはオフ。画面にはアイコンが並んでいるだけだが、スピーカーから流れる広大の声に、麻里の全神経が集中する。

プログラミングのレクチャーがひと段落した頃、麻里のサービス精神(?)が爆発した。


麻里

あ、そういえばうちのチーム長って、いつもこんな感じじゃないですか?『え〜、飯嶋さぁ〜ん、そこはぁ〜……


麻里は、イケメンおじさんなのにどこかゆったりとした独特の喋り方をするチーム長の、完璧な声真似を披露した。


広大

(笑いながら)も〜、飯嶋さんたら〜。それ、聞かれたら怒られますよ〜〜


麻里

だってぇ💕


広大の「も〜」という呆れつつも楽しそうな反応に、麻里の心はさらに浮き立つ。カメラがオフだからこそ、麻里は自分のニヤニヤが止まらない顔を隠しながら、甘えるような声を出すことができた。

チーム長の真似をしながらも、麻里の頭の中は「広大さんにウケた!」「広大さんと笑い合ってる!」という幸福感でいっぱいだった。


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