第16話

相談に乗っていた頃、

俺はちゃんとそこにいたと思う。


話を聞いて、

否定しないで、

選択肢を並べて、

最後は「決めるのは瑠璃だよ」って言った。


優しかったと思う。

少なくとも、

突き放してはいなかった。


瑠璃はよく話した。

友達のこと、

グループのこと、

息苦しさ。


俺は聞いていた。

聞く役に回るのは、

得意だった。


自分の怖さを知っているから、

踏み込みすぎない。

でも、

見捨てない。


その距離が、

ちょうどいいと思っていた。


いつからだろう。

言葉の端が、

少しだけ噛み合わなくなったのは。


俺が何か言うと、

瑠璃は一拍置く。

その一拍が、

前より長い。


それでも、

相談は続いた。

だから大丈夫だと思っていた。


でも、

相談って、

信頼と同時に、

期待も生む。


俺は支える側で、瑠璃は選ぶ側で。


そのバランスが、

崩れた瞬間に、

何かが終わることを、

知らなかった。

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