1-6
ハーニャが泣き止んで落ち着いた頃、セリオン城では重苦しい沈黙が降りていた。
俺がなんとか公国の貴族を殺した理由はすっかり知られるところとなった。隠していたことがバレた後の空気感というのはとてもやるせない。今すぐ布団に入って何もなかったことにしたい気分だ。
だが、それが絶対に叶わないのが現実だ。世知辛い。
こちらの意図を理解はしてもらえても、根本的な問題は解決していなかった。他国との関係悪化の火種を自分が落としたことに変わりはない。
宰相のエデリオが静かに玉座の間から降りて、備え付けられた書記机に座って何かを書き連ねていく。本来は議事録などを書記が書き留めているが、今回は最初から人払いがされた場なので誰もいなかった。
「現状を分かりやすくするために書き出してみました」
あっという間にまとめ上げられたメモには、以下のように記されていた。
状況:
・デナンダリオ公国オリアイム伯爵の子息ゴロウィン殿の死亡を、どのように先方へ説明するか。
背景と現状:
・麻薬の材料収拾のためにゴロウィン殿が霧の森を暗黙の旗を立てて封鎖中、グレイ殿が強制進入。森の中にて、急襲されるもこれを返り討ちにする。
・さらに伯爵家の私兵がハーニャ殿を拉致。奪還の際に皆死亡。
・オリアイム伯爵家は霧の森で何かがあったことは掴んでいるようで、我が国に関係者がいると当たりをつけている可能性が高い。
補足:
・死体はすべて簡易埋葬済。
・我が国の目撃者は御者一名のみと推察。(同行していた退治屋フロール殿は現在他国で仕事中、関与はできないものとする)
・伯爵家の私兵に生き残りがいたかは不明。我が国への圧力を鑑みるに、なんらかの疑惑となる傍証は持っている模様。
対策案:
1.真実を話してグレイ殿を明け渡す。
2.事実を秘匿し、白をきる。その場合、真偽魔法を回避する手段が必須。
3.スケープゴートを立て、実行犯を捏造する。その場合、協力的な罪人を虚偽情報で操作する必要がある。
4.オリアイム伯爵家と真っ向から敵対する。その場合でもデナンダリオ公国そのものとは敵対しないよう根回しが必須。
5.外交筋を通してデナンダリオ公国にオリアイム伯爵家の魔薬製造の話を流し、対処させる。証拠関係と公国の関与が不明なため実効性は不確定。
「……真っ先に俺を突き出す選択肢に悪意を感じるんだが?」
「偶然です」
エデリオの俺に対する評価は難しい。感謝されている気はするが、同時に厄介者扱いされている感覚もあった。複雑な乙女心か。いい歳のおっさんだけど。
「わしとしては穏便に済ませたい。2の場合、成功すればあちらはあきらめると思うか?」
日和見主義なロゼスは自然にほとぼりが冷めるのを待ちたいようだ。
「五分五分といったところでしょうか。ずっとこの件に時間をかけてもいられないでしょうし、現状の熱意がどの程度持つかは推定不可能です」
「ってか、真偽魔法を回避する方法ってのがあるのか?」
俺はそこの方が気になった。今後のためにも知っておきたい。色々と秘密を抱えている身だ。勝手に暴露される危険は避けたい。
「はい。信用できるかどうかは別にして、様々な裏技の噂はあります。その中でも信憑性が高そうなものは妖精ロームでしょうか。ロームは悪戯好きで幻術の魔法が得意らしく、真偽魔法の結果もひっくり返せると言われています」
「妖精?そんなものがいるのか?見たことないな」
亜人のカテゴリの一つになるのだろうか。是非とも見てみたい。
「天然の精霊種は滅多に人前に姿を表しません。今お話ししたのは召喚魔法による対策です。ですから、魔法書か魔女の助力が必要となりますね」
召喚魔法。そう言えば、そんな種類の魔法も本で見た記憶がある。あまり魔法に関しては既存の情報を取り入れないようにしていたため、知らないことが多い。
いや、魔法書そのものもを見ていたことを思い出す。事後処理でごたごたしててすっかり忘れていたが、あのヤゼンが使っていた。ハマヘッドは精霊だっということか。多少納得がいく。気配もなくいきなり現れたり消えたりしたのは、召喚魔法だったからか。
というより、もっと気になる言葉があったな。
「魔女ってのは?魔法士とは違うのか?」
「おや、ご存じありませんか?魔女は魔法士とは似て非なるものです。魔女は人間で唯一精霊魔法を扱える特殊な魔法使いで、引き換えに一般的な魔法は一切使えない制約がある者を指します。というのも、精霊は通常の魔法を嫌う傾向にあり、使役するためには精霊の機嫌を損なうことはできないからだと言われています」
「ほぅ。精霊魔法ってのはつまり精霊を使って何かさせる魔法なわけか」
「その通りです。しかも、精霊を使役できるのはなぜか女性のみゆえに魔女という呼称になっています。通常の魔法では行えないことが色々と可能なため貴重な存在ではありますが、その精霊と共生するために様々な制限がかかっているので滅多に人里には降りてきません。今では大分減少しているという話もあるくらいです」
「ん?そんなレアキャラなら、そもそも探すところから始めなきゃならないんじゃねぇのか?助けを求める以前の話のような……」
ちょっと会ってみたいとは思った。やはりトンガリ帽子の婆さんで箒に乗っているのだろうか。こっちのイメージとどれだけ違うのかを知りたい。
「いえ、実は霧の森には霧の魔女がいるという噂があります。単なる与太話だと思っていたのですが、我が国にも時折魔法書を卸しているのではないかという疑いもありまして、実は本当にいるのではないかと……」
「ピンポイントすぎるな。やっぱりハマヘッドのはそれか……」
「はまへっど?」
思わず勝手につけたアダ名を叫んでいた。正式名称は知らなかったので、ヤゼンが使っていた魔法書のものだと説明する。
あの時は召喚魔法のことを気にしている余裕はなかった。なぜヤゼンが持っていたのかは、ちょっと気になるところではある。クリファオでも買えるのなら不思議でもないのか。それらを聞こうとしたところで、場が妙な空気になっていると気づいた。微妙に苦々しいというか、やるせない感じの雰囲気が漂っている。急にどうしたんだと考えて、自分がヤゼンの名を出したからだと思い当たる。
ロゼス王の実弟であるヤゼンは、姪であり第一継承権を持つヴェルナを誘拐した大罪で死刑となった。王家に対する害意はすべて極刑が普通だ。動機が国家転覆となれば、身内だろうと問答無用で死罪は確定となる。せめてもの情けで極秘に処理されたものの、ロゼス王の落胆は大きかった。
それというのも、セリオン王家は現在世継ぎ問題が深刻で、その最中での同族の謀反というのは痛手でしかなかった。ロゼスの妻は既に他界し、その子供はヴェルナともう一人の弟のみしかいない。その弟は現在他国へ長期修学中とのことだ。
ヤゼンは独り身で他に兄弟もいないため、セリオン王家の血筋は現在三人のみということになる。ヴェルナを大事に育てているロゼスにとって、グレイの働きはまさに命の恩人に等しいというわけだ。
そんな大切な娘がさらわれていたことに気づいていなかった時点で大分この国は平和ボケしていると思うが、それだけ安定しているとも言える。
だからこそ、この平穏さの中でとりあえず落ち着こうと居を構えたというのに、どこかのバカ貴族のせいで日常が脅かされそうになっていた。なんとか回避しなければならない。
「とにかく、魔女ってのが霧の森にいるなら、どうにか助けてもらうよう頼むのもアリか……っていうか、もうそのいちゃもんつけてきたなんとか伯爵をぶち殺せばよくないか?魔薬作ろうとしてた一族だぜ?どうせろくなもんじゃないだろうよ」
振りかかる火の粉が分かっているなら、事前に大元を取り除く方がいい。専守防衛よりも先制攻撃で身を守りたい。
「オリアイム伯爵家そのものが腐敗しているかは分かりません。それに他国の上流貴族を我が国で誅するのも、不穏な火種を落とすことになるので絶対にやめてください」
「王都の外に呼び出してからやればいいだろ?前のなんちゃらとかいう犯罪組織に罪を被せればいい」
「メアギのことですか?確かにきゃつらにも相応の報いを与えたいので、その案は悪くはないですが……」
宰相は思案顔になって真面目に検討をしているようだ。適当に言っただけだが、悪くなかったか。冷静に考えると相当あくどい思考になっているが、背に腹は代えられない。
卑怯者に正攻法でやりあうのは狂気の善人信仰者とチート主人公補正者に任せる。俺は生憎と凡人なので、生き汚くてもかまわない。
その時、不意に上空から何かが飛んでくるのを感じた。
散々不意打ちを受けてきた俺の生存反応が反応して、すぐさま魔防壁を展開。何かが弾かれた感覚と共に、俺は仕掛けてきたものを確認するべく上を見上げる。謁見の間というかこの城の一階の天井は高い。こういうときにはその余分なスペースが死角にもなるのかもしれない。
そんな雑念が吹き飛ぶほど、視界にどデカい蜂が見えた。思わず二度見した。そこそこ眼がよくても、遠い頭上を飛ぶ蜂など普通は見えるはずがない。だが、確実にいた。
握りこぶしくらいの大きさがあり、何かその全身が光っているように見えた。ということは、今飛ばしてきたのは毒針か何かか?
そう思いついたとき「うぐっ!?」とロゼスの呻き声が聞こえた。
次いで、その丸っこい体が玉座から転げ落ちてくる。この光景を見るのは二度目だ。ただ、決定的に違うのは今回は明らかに具合が悪そうなことだ。
人の好さそうなたぬき顔が真っ青になって身体もブルブルと震えている。
「陛下っ!?」「お父様っ!?」
さすがにヤバそうなので何事かと俺も駆け寄る。
近づくと、その樽腹に何かが突き刺さっていた。
「あ、ヤベ……!」
それで俺はすべてを悟った。先程飛んできた何か、弾いた魔防壁、飛んでいた蜂。
組み合わせてできる解答は、俺が弾いて方向転換された毒針がロゼスに当たったということだ。
すぐさまロゼスに向かって回復魔法を放つ。持ってて良かった状態異常回復。
毒やら麻痺やらで死にそうになった経験がここで活きた。スリップダメージ、時間経過で継続的に体力であるHPが減少するのが毒のイメージだが、実際は数値以上のデメリットがある。体力減少に伴って他の要素にも影響を及ぼすからだ。
単に数値としてのみ見ていると、例えばHPが10/50というのは体力が8割減っただけでまだどうにかいける、とか判断しがちだ。
しかし、現実には違う。8割のダメージを受けていると五感が鈍り、身体的にも十全に動けない場合が多い。体力減少というのは実際の傷やら状態異常やらの結果だったりもするので、2割の生命力しかない状態というのは、言わば風邪をこじらせて寝込んでダウンしているような、ひどく調子が悪いときをイメージした方がいい。HPが8割以上あるときは五体満足に動ける状態、それ以外は調子悪し、そういう認識の方が正しいわけだ。
ゲーム感覚で数値だけを気にしていたら死にかけた俺の豆知識だ。さて、閑話休題。
腹下しから猛毒まで、万能に効く俺の状態異常回復魔法は、しっかりとロゼスの命を救った。
口から泡まで吹いていた状況から、徐々にその丸顔に赤みが戻ってくる。
「ふぅ……まさかお前に飛んでくとはな。なんてツいてないやつだ」
「グ、グレイ殿、一体何がっ!?」
エデリオが慌てて駆け寄ってくる。いつもは冷静沈着なエデリオも、さすがにロゼスのあんな状態を見たら焦るか。
「あのバカでかい蜂が毒針を撃ってきたから、俺がとっさに魔防壁で弾いたら、それがロゼスに反射したらしい。ああ、毒はもう抜いたから大丈夫だろうよ」
「なんと、そんなことが……む、蜂?」
「ああ、あそこに……げっ、逃げるのかよ!?」
俺が再び視線を頭上へ戻すと、巨大な蜂は窓から出てゆくところだった。今更ながら、第二射がなくて良かったと気づく。次の攻撃のことをまったく考えてなかった。危ない、危ない。
「何と巨大な!あんな蜂が王城に入り込んでくることはまずありません。もしかしたら、モンスターの類やも?」
「そうなのか?とにかく怪しいから追いかけてくる。俺を狙ったんだとしたら、許しちゃおかねぇ」
俺は風の魔法で跳躍して窓へと跳び上がった。
この世界では、魔法で人は飛べないということは学んでいた。しかし、それは水平飛行するには継続して魔法を発動させなければならないという制限があるからだ。ずっと集中しなければならず、空中制御が難しいこと。その間中ずっと魔力が消費されること。その消費量が破滅的な燃費の悪さのせいであって、理論上は飛べるとも言える。
だから、瞬間的に浮遊することならば可能だ。その応用で超ジャンプと空中に一時的に足場を作るという風魔法を連動させると、疑似的に空中散歩のようなことはできる。ある意味で飛んでいる状態と同じことができるわけだ。すなわち、空を飛ぶ鳥だって追いかけられる。
あまり人前で使いたくはなかったが、今はそんなことを言っていられない。高い建物だろうと越えられるという秘密が晒されようと、今は自らの命を脅かした正体を知る方が先決だ。あの毒針は洒落にならない。命を狙われるような覚えはなかったが、あるとしたら先程話題になっていたオリアイム伯爵関係者だ。
一方で、疑問もある。まだグレイの身元はバレていないはずだった。動きが早すぎる。何がどうなっているのか、状況を確認する意味でも放置はできない。
「ご主人様!?」
窓から飛び出そうとしたところで、ハーニャの声が聞こえた。しまった、すっかり忘れていた。
ハーニャはまだ奴隷気質なところがあって、俺からの指示がないと不安がる傾向がある。命令がないと、俺から不要なものだと捨てられてしまうという恐怖があるのだという。そんなことは絶対にしないと約束しても、深く刻まれたトラウマのようなものが邪魔をして精神的に不安定になるときがある。
「ここでロゼスたちを守って、俺の帰りを待ってろ!まだ何か変なのが来るかもしれねぇ」
そんなことはないと思うが、緊張感を持たせるためにそう言っておく。
「了解です!お気をつけて!」
指示をもらえて安心したのか、嬉しそうな笑顔で見送ってくれる助手。うん、やはり可愛い子には笑顔が似合う。
それで心置きなく城の外へと飛ぶ。素早く周囲を索敵。いた。左手を飛んでいる。
大きいとはいえ、蜂は蜂だ。離れすぎると見失ってしまう。
俺は手近な民家の屋根へと飛び降りる。空中に足場を作り、跳び乗ってからまた別の足場を作る、といった工程で空中散歩は可能だが、それでも魔力の消費は大きい。視界に収められる高度であれば屋根上を伝っていく方が経済的だ。身体強化で運動能力向上は必須だが連続跳びよりはいい。
蜂はこちらに気づいている様子はなく、どこかに向かって一直線に飛んでいる気がした。
何者かに操られていると俺は推測している。それに、あの光が気になった。今は発光しているようには見えないが、確かにあの時は光をまとっているように映った。ただのモンスターとかそういう感じではない気がする。向かう先に何か秘密があるはずだ。
貴族屋敷の屋根の上を忍者の如く駆けてゆく。
基礎体力はある程度鍛えているが、どうやらこの肉体のポテンシャルはそれほど高くないことはもう学んでいる。悲しいかな、一流の剣士とかにはなれそうもないと判明してしまった。その代わりに魔力の伸びは凄まじかった。要するに典型的な魔法士タイプの潜在能力だったということだ。
魔法を使うことは楽しいので嬉しい反面、やっぱり少年ハートとしては近接武器でカッコよくモンスターを倒すというのは憧れる。だから、雑魚相手には圧勝できるように最低限の筋トレは怠っていない。人間、見栄からつながる実用性もある。
それにしても、あの蜂は一体どこへ行こうとしているのか。
そろそろ王都の内壁へと到達する。壁の上は通路になっていて兵士が巡回しているため近づきたくはない。が、そんなこちらの事情を汲んでくれるはずもない。
蜂は更に上昇して内壁を飛び越えてようとしていた。普通の移動では屋根からは届かない。また魔法で跳躍する。周囲に兵士がいるかどうかを確認する暇はなかったが、幸い誰にも見られずに済んだ。そのままの勢いで普通の住宅街の民家の屋根へと着地。この辺りはいわゆる平民街だ。
蜂は依然として目的地へ向かって一直線に飛んでいる。町の外に出るつもりだろうか。
MPはまだあるが、長期戦には心許ない。そう思っていると、蜂の高度が下がった。
裏路地のような入り組んだ街路に入って行ったので、慌てて後を追う。まばらに人がいる。蜂はその頭上を飛んでゆくので騒ぎにはなっていない。
この辺りの建物はそれほど高くない。屋根上は逆に目立ちそうなので俺も降りて後を追った。
やがて蜂は廃屋のようなボロボロの小屋へと消えた。辺りに人気はまったくない。俺はそのままの勢いで突っ込む。考えている暇はなかった。
扉は鍵もかかっておらず、なんなら開けたらそのまま外れたほどだ。つまり、しばらく人の出入りはなかったということだ。
「―――っ!?」
入ってすぐに、異常な光景が映った。暗がりの中で薄く光る円形の何かが見えた。
最初は鏡か何かかと思ったが、光を反射するにも窓も何もない。自発的な輝きだ。そこに蜂が吸い込まれてゆく。
そして、すぐに消えて行った。
まさかのワープゲートか?
思考している間にも、その光の輪が狭まっていくのが分かった。役割を終えて消え去ろうとしているように思えた。
「マジかよっ!?」
ここで見過ごすという選択肢はなかった。俺はその光の中へ迷わず飛び込んだ。いや、嘘だ。一瞬、いや、二瞬ほどためらった。
意味が分からなすぎて怖かった。だが、ここで逃すとまたいつ狙われるか分からない。その恐怖の方が嫌だった。平穏な日々のために、不安要素は排除しなければならない。
自分がどんなものに突っ込んだのか分からないまま、気が付くと見知らぬ場所に投げ出されていた。ゲート通過は一瞬だったようだ。
「あいたっ!」
思わず声を上げる。受け身も取れなかったので、肩から落ちた。凡人の情けない運動能力の限界だ。
それよりも周囲の状況確認だ。ぱっと顔を上げると、見知らぬ誰かと目が合った。
「…………?」
お互いに驚きすぎて声も出せずに見つめ合う。翡翠色の瞳に切れ長のまつ毛。見惚れるほどの美貌だった。
薄紫色のローブをまとい、いかにもな魔女風の美女がそこに立っていた。さすがにトンガリ帽子は被っていなかったが、古木で捩れた木の杖を持っていた。
更にしばしの沈黙。そして、
「きゃぁぁあーーーー!!!そなた、なぜここにおるっ!?」
その杖でいきなりぶん殴られそうになったので慌てて避ける。
「うおっ!?落ち着け!俺は怪しいもんじゃない!」
説得力のない言葉が口から出る。咄嗟に出るのはやはりテンプレートな文言のようだ。
「勝手にわらわの精霊門輪(サークル)を使っておいて、何を抜かすかー!」
ぶんぶんと杖が振り回され、攻撃が激しさを増した。
なんだ、この女は物理系なのか。避け切れそうになかったのでとっさに魔防壁で弾く。
バキッと小気味いい音がして「はぅっ!!!?」と今度は魔女の方が弾かれて尻餅をつく。
ちらりとのぞくその生足はなかなか綺麗で思わず見てしまう。が、そんな場合じゃなかった。周囲を見る。どこかの部屋のようだが、問題はあの蜂の有無だ。いた。またもや窓から出ていくようだが、間違いなくここに来たわけだ。
つまりはそういうことか。この状況を素早く分析する。
「お前があの蜂を仕掛けたんだな?」
「な、ななっ、何のことかしら?」
この女、嘘が下手すぎる。明らかに動揺した声で視線がそらされた。
「しらばっくれるな。お前、さっき俺に向かって『誰か』じゃなく「なぜここにいるか」って聞いてきたな。俺を知ってたってことじゃねぇか」
「し、知らぬ。そなたは何を言っておる」
後ずさりながら、女が不意に杖を振り上げた。殴るつもりじゃない、本来の使い方のはずだ。
とっさの行動というより、チャンスを狙っていた気配がある。こんな恰好をしたヤツが魔法を使わないということはあり得ない。どんな魔法であれ発動させること自体が危険だった。
最初から警戒していたので、すぐさま反応してその杖を蹴り飛ばす。
「ちょっと大人しくしてろ」
魔法の縄でその両手足を素早く縛る。「うにゃー!?」と抵抗があってもなんのそのだ。
他人を無力化させなければならない場面は星の数ほどあった。
この手際だけはすっかり手慣れたもの。問答無用で縛り上げる選手権があれば、上位三位入賞には自信がある。一位とは言わない。俺は謙虚なんでな。
「さて、じゃあ、質問に答えてもらおうか」
俺はお待ちかねのお楽しみタイムを宣言した。
次の更新予定
2026年1月2日 09:00
異天地奇略相談所 南無参 @nyarth
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