第11話 魔法使いの素質②
亜澄果の表情は一変。笑顔が消え、瞳が揺れている。
『まぁ、馬鹿な話だと思うよな』と真帆は、亜澄果が何を言うのか待った。彼女は両手で口元を覆う。
「嘘……」
「あはは、そうなるよね。僕も実感ないから──」
「オズヴァルトの生まれ変わりなんて、まじヤバいじゃん!!」
真帆は呆気に取られた。彼女の目は光り輝いていたのだ。
「……へ?」
「古代魔法使いオズヴァルト。最強とも謳われる
亜澄果は手で顔を仰ぐ。彼女の顔は冷房の効いた部屋の中で赤くなっている。
「八尾さん、まさか信じてるの?」
あまりにも純粋に受け止められ、真帆は驚いていた。
「え?嘘なの?」
「いや、恐らく本当だと思うけど……」
「ヤバ〜い!」
彼女はあっさり信じた。しかも喜んでいる。このおかしな状況に、自分が女子の部屋でドギマギしている場合じゃないのだと冷静になった。
「ねぇねぇ、魔法は使えるの?杖はある?やっぱりオズヴァルトみたいな魔法使いを目指してるの?」
真帆の困惑に構わず、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。ノンストップで続く彼女の話に真帆は終止符を打つべく、負けじと声を張り上げた。
「待って!!僕は魔法使いじゃない!」
すると彼女はきょとんとした顔で真帆を見つめる。
「オズヴァルトの魔力があるんでしょう?なのに魔法使いじゃないの?」
「僕の前世はオズヴァルトかもしれないけれど、僕自身は魔法は使えない。使い方も知らないんだ」
亜澄果から笑顔が消える。真帆は彼女の期待には応えられなかった。
「……勿体無いね。才能があるのに魔法使いにはならないんだ」
彼女は顔を伏せ、覇気のない声が聞こえてきた。
「あたしは魔力があっても妖精が見えるだけで、魔法が使えるほど魔力の資質はないの」
「聞いたことあるよ。魔法が使えるかどうかは魔力の資質によって変わる。魔力が人並み以上にあっても、資質が高くなければ魔法は扱えない。普通はせいぜい妖精が見える程度なんだよね」
「そう。魔力は誰もが持って生まれる“
亜澄果が顔をあげ、若草色の瞳がこちらを見つめる。
「魔法使いの家系でもない進堂くんの魔力の資質が高いのは
真帆の瞳が揺れた。
「僕が、異常?」
亜澄果はバカにしたり茶化している様子もない。真剣そのものだ。
「進堂くんは、わかってるの?オズヴァルトって魔法を研究して、たくさんの魔法を広めただけじゃない。それが原因で戦争を起きてしまい、自ら終戦させたの。オズがいなければ魔法は発展しなかったとまで言われてるんだよ。魔力はとてつもなく資質が高かった。だから彼を恐れる人もいた。この時代にオズヴァルトと同じ魔力を持つ人間がいるなんて前代未聞なの。進堂くんがいま生きてるってことは、オズヴァルトが現世に存在してるってこと。魔法が衰退している
真帆は亜澄果から視線を逸らした。今まで自分がオズヴァルトの生まれ変わりであることに、重要性について考えたことがない。否、考えたくなかった。
歴史を動かした人物が自分の前世。それだけではなく魔力までも引き継いでいる。にわかには信じがたい真実を受け止めるのが怖かったのだ。それを抱えられるほどの器を真帆は持ち合わせていない。
『真帆は特別な子なんだ』
父はよくそう言っていた。だが真帆はその言葉があまり好きではなかった。『特別』というのは少年にとって重荷だ。たった一言で周りと隔離されるような感覚を覚えていたからだ。
「進堂くん?」
亜澄果の呼びかけに真帆はハッと現実に引き戻された。
「僕は魔法が使えないから、オズヴァルトのようにはいかないよ」
「魔法使いにはならないの?」
真帆は首を横に振る。
「そんなつもりはない。オズヴァルトの魔力があるからといって、僕が魔法使いにならなきゃいけない理由にはならないし」
「……それもそうだね」
「八尾さんは魔法使いになりたいの?」
彼女は小さな声で「え?」と困惑した声が返ってきた。
「なんとなく、そんな気がして」
亜澄果は本棚に顔を向ける。彼女の視線の先には魔法に関する本が並べられた段のところだ。
「なりたい、とは思ったけど資質が足りないし才能もないの。だから無理」
「資質が低くても、リカバリーできたりするかもよ」
本棚から視線を外すと、亜澄果は困ったように眉を下げた。
「本当に何にも知らないんだ。資質があっても魔法は才能がいるの。魔法を扱える才能がね。資質があるのは魔法使いの大前提。次に才能、次に体力。体力は運動すれば努力でどうにでもなるけど、才能だけは駄目。それは持って生まれたものだもん」
悲しげに語る亜澄果。彼女は本当に魔法使いに焦がれているようだ。真帆は返せる言葉が見つからずに黙ってしまう。
「進堂くんには才能があると思う。だってオズヴァルトの生まれ変わりだよ。もし魔法使いになったら、きっと素敵な魔法使いになれる」
彼女は真帆が魔法使いになれると言い切った。
「どうして、そう思うの?」
少女は静かに微笑む。
「なんとなく、そんな気がする」
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