第6章: 秘密の暴露【後編】

悠斗の過去が明かされたことで、二人の関係は新たな局面を迎えようとしていた。阿部は悠斗の秘密を受け入れ、少しずつ彼の心に寄り添おうとしている。けれど、悠斗自身はそのことで未だに心の中で揺れ動いていた。阿部が自分の過去をどれだけ受け入れたのか、そしてそのことが本当に二人にとっての「未来」にどう影響を与えるのか、それがまだ不安だった。


そして、ある日、悠斗はまたもや自分の心の中で整理できない気持ちに悩んでいた。放課後、阿部と一緒に帰る途中で、悠斗はふと立ち止まり、阿部に向き直った。


「阿部、今日は少し話したいことがあるんだ。」悠斗は少し緊張しながら言った。


阿部はすぐに反応した。「うん、どうしたの?」


悠斗は深く息を吸い、ゆっくりと目を逸らしながら話し始めた。「昨日、君が言ったことを考えていたんだ。君が過去を乗り越えて、もっと良い未来を作っていけるって信じているって言ってくれたけど…その言葉がすごく嬉しかった。でも、僕はまだその未来に踏み出す自信が持てない。」


阿部は悠斗の言葉に、少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに優しく頷いた。「それは…無理もないよ。過去に対する不安や恐れは、すぐに消えるものじゃないから。」


「でも、どうしても怖いんだ。」悠斗は続けた。「自分の過去が、今の僕を作り上げていることは分かってる。でも、もしその過去がまた僕を追い詰めてきたら、どうしようって思う。」


阿部は少し黙って考え込み、そして悠斗の肩に手を置いた。「悠斗、君が過去を悔いていることは、僕にはよく分かる。けれど、それが君の全てじゃない。今、君が僕と一緒にいること、そのことが君が変わろうとしている証拠だよ。」


悠斗はその言葉を胸に刻むように聞いていた。阿部の言葉は、どこか温かく、力強かった。彼は悠斗の過去を否定することなく、今を生きることを大切にしてくれている。それがどれほど大きな支えになるのか、悠斗は少しずつ実感していた。


「阿部、ありがとう。君がそう言ってくれることで、少しだけ前に進める気がするよ。」悠斗は少しだけ笑みを浮かべた。


阿部は笑顔を返し、悠斗の肩を優しく叩いた。「その気持ち、忘れないで。君がどんなに過去を背負っていても、僕は君の味方だから。」


その日の帰り道、二人は静かに並んで歩きながら、言葉少なに歩き続けた。悠斗は自分の過去を受け入れる勇気を少しずつ持てるようになってきた。阿部の言葉が、まるで心の中で何かが解けるように感じさせてくれたからだ。


けれど、その安堵の気持ちが長く続くことはなかった。


翌日、二人の関係に再び試練が訪れることになる。


放課後、学校を出ると、悠斗は突然、見知らぬ人物に声をかけられた。背後から突然、名前を呼ばれ、振り向くと、そこには高校時代の友人、藤田が立っていた。悠斗は驚きと共にその顔を見つめた。


「藤田…?」悠斗は少し警戒しながら声をかけた。


藤田は笑顔を浮かべ、悠斗の前に立ち止まった。「久しぶりだな、悠斗。元気だったか?」


悠斗は彼の顔を見て、かつての思い出が一気に甦った。藤田は悠斗が過去に関わっていた暴力事件にも絡んでいた人物で、彼と一緒に過ごしていた時期があることを思い出した。


「何か用なのか?」悠斗は冷静を装って尋ねた。


藤田はその問いに答えず、むしろ悠斗に近づくと、少し声を低くして言った。「実は、あの頃のことを思い出して、どうしてもお前に伝えたかったことがあるんだ。」


悠斗はその言葉に違和感を覚えた。「伝えたかったこと?」


「お前があの事件から逃げ出して、無事に生きてるってことは、正直驚きだよ。」藤田は微笑んだが、その目にはどこか冷たい光が宿っていた。「でもな、あの頃のこと、全部僕が引き受けるわけにはいかないんだよ。あの事件をどうにかして、お前の過去を消し去ったつもりでも、まだお前には付きまとうんだぜ。」


その言葉に、悠斗は思わず息を呑んだ。藤田が、彼の過去を再び暴露しようとしていることを感じ取った。悠斗は心の中で焦りが広がるのを感じた。阿部にはまだ、完全に自分の過去を話しきっていない部分があったからだ。


「藤田…お願いだから、やめてくれ。」悠斗は冷静を保とうとしたが、その声にはわずかな震えがあった。


「やめろって? もう遅いんだよ。」藤田は冷たく笑った。「お前の過去、誰かにバラされたくなければ、俺が言うことを聞けよ。」


その瞬間、悠斗の背後から足音が近づいてきた。振り向くと、そこには阿部が立っていた。彼は悠斗と藤田の間にすっと入り込み、冷静に言った。


「藤田、お前、何をしてるんだ。」阿部の声は静かだが、そこには鋭い怒気が込められていた。


藤田はその視線に一瞬たじろぎ、少し笑いながら言った。「おお、阿部か。こいつが過去にどんなことをしてきたか、知らないのか?」


「過去のことを口にするな。」阿部は冷たく言い放った。「悠斗の過去は、俺の知っていることだし、俺が受け入れる。それに、今お前に言う権利はない。」


藤田はしばらく黙っていたが、最後に悠斗を見て言った。「まあ、俺はあんまりお前に関わりたくないんだけどな。でも、このことはもう隠せないってことだけは覚えておけ。」


その言葉を残して、藤田はその場を去った。悠斗はしばらく立ち尽くし、何も言わずにその場にいた。


阿部は悠斗の前に立ち、無言で彼の顔を見つめていた。悠斗はその視線を感じながら、ふと口を開いた。


「阿部、僕の過去が…もう、終わりじゃないんだ。藤田が言ってた通り、僕の過去はずっとついて回る。」


阿部はゆっくりと悠斗を見つめ、「それでも、君が今、前に進んでいることが大事だ。」と言った。「君の過去が何であれ、僕は君と一緒にいる。それを信じてほしい。」


悠斗はその言葉に、思わず涙がこぼれそうになった。阿部がどれだけ自分を支えようとしてくれているのか、その深い愛情に気づかされ、胸がいっぱいになった。

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