第6章: 秘密の暴露【中編】

悠斗は阿部に自分の秘密を打ち明けた後も、どこか不安が心に残り続けていた。阿部の反応は冷静で、思っていたよりも穏やかだったけれど、その反応の裏にある本当の気持ちはまだ分からなかった。阿部がどれほどの理解を示しているのか、そしてその秘密が二人の関係にどんな影響を与えるのか、悠斗は心の中で繰り返し考えた。


その翌日、学校でのやり取りは、いつもと変わらなかった。阿部は悠斗に対して優しく接していたし、二人の間に何か冷たい空気が流れることはなかった。しかし、悠斗はどこか気まずさを感じていた。彼が話した内容を阿部がどれほど深く受け止めているのか、気になって仕方がなかった。


放課後、二人はいつものように帰ろうとしていた。悠斗は少しだけ阿部を待たせてしまい、慌てて追いかけていった。


「阿部、待って!」悠斗は急ぎ足で彼の後ろに追いついた。


「うん、何?」阿部は振り返り、いつもの優しい表情で微笑んだ。


「昨日のこと…ちょっと考えてて、気になったんだけど。」悠斗は少しだけ躊躇しながら言った。「昨日、僕が話したことに対して、どう思ってる?」


阿部は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに穏やかな笑顔を浮かべて言った。「君が話してくれたこと、僕は正直に受け止めてるよ。」


その言葉に、悠斗は少し安心した。しかし、まだ心の中には不安が残っていた。阿部はどうしても、悠斗の過去に対して無関心にはなれないはずだ。その過去を受け入れたとしても、きっと心の中で何かしらの疑問や不安があるのだろうと思ったからだ。


「でも、どうしても気になるのは…君がその時、どうしてそんなことをしたのか、ってことだよね。」阿部は少しだけ顔を曇らせながら言った。「君の気持ちや、どうしてその道に進んでしまったのか、知りたくて。」


悠斗はその言葉に驚いた。阿部がそんなことを思っているとは、少し意外だった。でも、それは当然の疑問だとも思った。


「その時、僕は自分を守るために必死だったんだ。」悠斗は静かに答えた。「家族のことや、周りの状況が、僕を追い詰めていた。それに、誰かに認められたかったという思いもあった。」


阿部はその言葉を静かに聞き、しばらく無言で歩いていた。悠斗はその時、阿部が何か考え込んでいることに気づいた。彼は一体、何を考えているのだろう。悠斗の過去が明らかになったことで、阿部はどんな決断を下すのだろうか。


「君がその時、どうしても自分を守ろうとしたこと、分かる気がするよ。」阿部は突然、静かな声で言った。「でも、僕は君にその過去を乗り越えてほしいと思ってる。」


その言葉に、悠斗は驚きと共に胸が温かくなった。阿部が自分の過去を受け入れ、それでも自分に対して期待を持っていることが伝わってきた。


「乗り越えてほしいって、どういう意味?」悠斗は少し不安そうに尋ねた。


「君が過去に犯したことや、傷ついたことはもう取り戻せないかもしれないけど、それでも君が今、どんな人間になりたいのかが大事だと思う。」阿部は言った。「僕は君が過去を悔い改めて、もっと良い未来を作っていくことができるって信じてる。」


その言葉を聞いた瞬間、悠斗は自分がどれだけ阿部に支えられているのかを改めて感じた。阿部はただ自分を受け入れるだけでなく、未来に向けての希望を与えてくれている。悠斗はその気持ちを胸に、これからも阿部と一緒に歩んでいこうと心に決めた。


「ありがとう、阿部。」悠斗は少し涙が滲みそうになりながらも、微笑んで言った。「君の言葉、本当に嬉しいよ。」


阿部はその言葉に優しく頷き、少しだけ顔を赤くして笑った。「僕も、悠斗がいてくれることが嬉しいよ。」


その後、二人はゆっくりと帰路を歩きながら、言葉少なに過ごしていた。阿部の反応に対する悠斗の不安は少しずつ薄れ、心の中で次第に希望が芽生えてきた。阿部が自分の過去を受け入れ、未来に向けて共に歩んでいこうとしていることに、悠斗は深い感謝の気持ちを抱いた。


その日、二人は初めての本当の意味での「未来」を考えながら、静かな時間を共に過ごした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る