第5章: 真実の距離【後編】
悠斗と阿部は、過去の重い真実をお互いに打ち明け合い、少しずつ前に進んでいると感じていた。しかし、阿部の家族との繋がりが再び二人に影響を与える時がやってきた。阿部が背負ってきた重い過去が、再び二人の関係に試練をもたらすことになり、悠斗はその影響を受けざるを得なくなる。
それは、阿部が突然、悠斗に話しかけてきたことから始まった。
「悠斗、少しだけ話をしたいんだけど。」阿部の声はどこか、いつもと違う緊張感が漂っていた。
「うん、どうした?」悠斗はすぐに反応し、彼の表情を見つめた。阿部の様子がいつもより不安そうに見える。
「実は、家のことでまた少し問題が起きて、君に迷惑をかけたくないんだ。」阿部は眉をひそめて言った。
悠斗はその言葉に胸が締め付けられるような思いを感じた。「迷惑なんてかけてないよ、阿部。何があったの?」
阿部は一度ため息をついてから、静かに語り始めた。「僕の父親が、また過去の問題に絡んでいて…それが今、僕の目の前で明るみに出そうとしているんだ。」
「過去の問題?」悠斗はさらに興味を引かれた。阿部の家族に関する問題はすでに聞いていたが、今回はその「過去の問題」が再び浮かび上がってきたのだ。
「うん…」阿部は目を閉じて、少し沈黙を守った後、ゆっくりと話し始めた。「実は、僕の父親が関わっていた不正が、また誰かによって暴露されようとしているんだ。家族の中で、そのことで揉めている。」
「それって、君の元彼が関係しているって言ってたよね?」悠斗は思い出しながら言った。
「うん。」阿部は頷いた。「その元彼が僕の家族を裏切った理由、そして僕の父親がその関係にどれほど深く関わっていたのかが、今になって全て明らかになろうとしている。」
悠斗はその話をじっと聞きながら、阿部がどれだけ不安で、苦しい思いをしているのかを感じ取った。阿部にとって、この問題が再び顔を出すことは、過去の痛みを思い出させることでもあった。
「じゃあ、今、何が起きようとしているの?」悠斗は心配そうに尋ねた。
阿部は少し顔をしかめ、さらに続けた。「僕の父親が、再びその不正を隠そうとしている。だけど、今回は隠せない。僕がどんなに努力しても、周りがそれを追及し始めている。僕がどこまで関わっていいのか分からないし、どうすればいいのかも分からない。」
その言葉に、悠斗は阿部を見つめる。阿部の目には、過去の恐怖と不安が色濃く表れていた。そして、悠斗はその目に自分の気持ちを込めて言った。
「阿部、君が何をしても、僕は君を信じているよ。」悠斗は静かに言った。「君がどんな過去を持っていても、君がどんな状況にいても、僕は君の味方だから。」
その言葉に、阿部は少しだけ驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んだ。「ありがとう、悠斗。君がいてくれるだけで、少しだけ楽になるよ。」
数日後、事態は予想よりも早く動き始めた。阿部の父親が関わっていた不正の件が公になり、阿部の家族の中で大きな問題が表面化した。それによって、阿部は再び家族と向き合わせられ、過去の決して消えない影に向き合わなければならなくなった。
阿部はそのことで家族から責任を押し付けられ、心の中でさらに自分を追い詰められるような気持ちになっていた。彼の苦しみを知っていた悠斗は、いつものようにそっと彼を支えようと決意していた。
ある日、悠斗は阿部と一緒に家に帰る途中、ふと立ち止まって言った。
「阿部、今日は無理に話さなくてもいいけど、もし話したいことがあったら、僕に言ってね。君が言いたくないことがあったら、無理に聞かないけど。」
阿部は少しだけ笑って、「ありがとう、悠斗。」と言った。けれど、その表情にはどこか強張った部分が見え隠れしていた。阿部がどれだけ無理をしていたのか、悠斗には分かっていた。
「でも、僕は君と一緒にいるよ。」悠斗はそのまま言い続けた。「過去のことも、今起こっていることも、全部一緒に乗り越えたい。」
その言葉を聞いて、阿部はしばらく無言で立ち止まり、やがて大きなため息をついた。
「ありがとう、悠斗。君がいなかったら、どうしていいのか分からないかもしれない。」
その瞬間、悠斗は心から彼を支えたいと感じた。阿部がどれだけ苦しんでいても、どんな未来が待っていても、自分は彼と一緒にい続けることを決めたから。
その後、阿部の家族の問題は少しずつ収束に向かっていったが、阿部自身はその過程で大きな心の痛みを抱えながらも、次第にその痛みと向き合わせられていった。悠斗はそのすべてを見守りながら、彼を支え続けることを誓っていた。
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