第3章: 予感と確信【前編】
悠斗は、阿部と過ごす時間がだんだんと自然になっていくのを感じていた。最初はただの友達として接していたはずが、今ではその距離が少しずつ縮まり、悠斗の心の中で何かが変わり始めていた。
学校生活が続く中、悠斗は朝の登校から放課後まで、阿部と何気ない会話を交わすことが多くなった。最初の頃の緊張感は薄れていき、お互いに自然に話せるようになった。
それでも、悠斗の心はまだ確信を持てないでいた。阿部が本当に自分に対してどんな感情を抱いているのか、それを確かめたいと思う反面、その答えを恐れている自分もいた。もし、阿部が自分に対してただの「友情」の感情しか持っていないなら、この先どうしていけばいいのか分からない。悠斗はその不安を拭い去れないままでいた。
その日の昼休み、いつものように阿部が悠斗を呼び止めた。
「悠斗、ちょっといいか?」
阿部は少し顔をしかめて、何か話しに来る様子だった。悠斗は少し身構えながら、「うん、どうしたの?」と答える。
「今度の土曜日、空いてる?」阿部は突然そう聞いてきた。
悠斗は一瞬、驚いた顔をしてから考え込み、すぐに答えた。「うん、空いてるけど、どうして?」
阿部は一度深呼吸をしてから、真剣な表情を浮かべて言った。
「僕、君と一緒に出かけたいと思ってる。ずっと言おうと思ってたんだけど、なんだかタイミングを逃しててさ。」阿部は少し照れくさそうに言った。
悠斗はその言葉に、驚きと同時に胸が高鳴った。阿部が自分と出かけたいと言ってくれたことに、嬉しさと同時に少しの不安が込み上げる。これがただの友達としての誘いならいいけれど、もしかしてその先に、阿部が自分に抱いている気持ちがあるのだろうか。
「いいけど…」悠斗は心の中で少し動揺しながら言葉を続けた。「どこに行きたいの?」
阿部はその質問に、少し考えた後、少しだけ笑顔を浮かべて答えた。
「どこでもいいよ。悠斗が行きたいところに。僕は、ただ君と一緒に過ごせればそれでいいんだ。」
その言葉に、悠斗は胸の奥が温かくなるのを感じた。阿部の言葉には、ただの軽い誘いではなく、もっと深い気持ちが込められているような気がした。自分の中でも、次第にその気持ちに対する確信が湧いてきていた。
放課後、悠斗は少し迷いながらも阿部に向かって言った。
「阿部、土曜日、楽しみにしてるよ。でも、その前にちょっとだけ話したいことがあるんだ。」
阿部は少し驚いた表情を見せたが、すぐに真剣に頷いた。
「うん、もちろん。どうした?」
悠斗は少し言葉を選びながら、続けた。
「僕、君に気になることがあるんだ。土曜日に出かける前に、ちゃんと伝えておきたいことがあって…」
阿部はじっと悠斗を見つめ、何も言わずに待っていた。悠斗は少しだけ息を整えてから、続けた。
「阿部、君が僕に対してどう思っているのか、少し気になってる。僕は君に対して、ただの友達以上の感情を抱いてる。それがどんな気持ちなのか、まだ自分でもよく分からないけれど、君に対して気になる存在になっているのは確かだ。」
阿部はその言葉に、少し黙っていた。悠斗はその反応にドキドキし、胸の鼓動が速くなるのを感じた。もし、阿部がこの気持ちを拒絶するようなことを言ったら、どうしよう――。その不安が一瞬にして押し寄せてくる。
しかし、阿部はゆっくりと微笑みながら、静かな声で言った。
「悠斗、僕も君に同じような気持ちを抱いているよ。」
その言葉に、悠斗の胸が大きく跳ね上がった。まさか、阿部がそんな風に答えてくれるとは思ってもみなかった。
「君がどう思っているのか、ずっと気になっていた。」阿部は静かに続けた。「でも、無理に答えを出させようとは思わなかった。ただ、君が少しでも心を開いてくれることを待っていたんだ。」
悠斗はその言葉に、心が温かくなり、同時に胸の中で溢れ出る感情にどう向き合えばいいのか分からなくなった。自分の気持ちは確かに伝えたけれど、これからどうすればいいのだろうか。
「阿部…。」悠斗は目の前の阿部を見つめ、ゆっくりとその言葉を続けた。「でも、これから先、僕たちがどうなるのか分からないよね。」
阿部はその問いに少し考え込み、そしてにっこりと笑った。
「分からないよ。でも、僕は悠斗と一緒にいたいと思ってる。どんな未来が待っているかは分からないけれど、少なくとも今は一緒に過ごしたい。」阿部の言葉は、悠斗の心に深く響いた。
その後、悠斗は阿部と一緒に過ごす時間がどんどん楽しみになっていった。自分の気持ちを伝えることで、少しだけ肩の荷が下りたような気がした。そして、土曜日が来る頃には、悠斗の中で確信が持てるようになっていた。
阿部も自分と同じように感じているのだと、その事実に少しだけ胸が熱くなった。そして、どんな未来が待っていても、今はその瞬間を大切にして、阿部との時間を楽しみたいと思った。
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