第2章: 視線の先に【中編】
悠斗の心は乱れていた。阿部の言葉が、まるで自分の中に深く根を張っていくような感覚に包まれた。彼の目には、ただの好奇心を超えた何かがあった。その何かが、自分の中でどうしても整理できない。気になる、でもまだ受け入れたくないという気持ちが交錯している。
放課後、悠斗はいつものように教室の片隅でノートを広げていた。しかし、今日は何も手が進まない。頭の中で阿部とのやり取りがぐるぐると回り続け、集中できなかった。
「また、阿部のことを考えてるのか?」
背後から声をかけてきたのは、親友の真田だった。真田は悠斗の様子を見て、少しからかうような口調で言った。
「うるさいな、そんなことないよ。」悠斗は軽く答えるが、心の中では「どうして真田はすぐに気づくんだろう?」と思っていた。
真田は悠斗の隣に座り、しばらく黙っていたが、しばらくしてからぽつりと語りかけてきた。
「でも、お前が阿部に気を使ってるのは分かるよ。気になるんだろ?」
悠斗はその言葉を聞いて、少しだけ冷や汗をかいた。自分が阿部に対してどう思っているのか、真田に言うのは少し気が引ける。けれど、真田は悠斗の気持ちを見抜くのが得意だから、どうしても隠しきれなかった。
「気になる、けど…」悠斗は言葉を詰まらせる。「でも、まだよく分からない。阿部が本気で僕を見ているのか、それともただの興味なのか、分からないんだ。」
真田は悠斗の言葉に耳を傾け、しばらく考えるように黙っていた。そして、少しだけ顔を上げて言った。
「お前が決めるべきだ。阿部がどう思っているかは分からないけど、少なくともお前は自分の気持ちをはっきりさせないと、次に進めないだろ?」
その言葉に、悠斗はしばらく黙っていた。真田の言う通りだ。自分が何を感じているのか、それを理解しない限り、阿部との関係も、どう進展していくのかも分からない。
「でも、どうしても踏み出せないんだ。」悠斗は小さく呟いた。「自分の気持ちに素直になれない。もし、阿部に嫌われたらどうしようとか、色々と考えてしまう。」
真田はその言葉に苦笑いしながら言った。
「そんなことで悩んでるんじゃないよ。お前が迷ってる間に、阿部の方がもっとお前に近づいてきたらどうすんだ?」
悠斗はその言葉にドキリとした。確かに、阿部は以前よりも積極的に自分に近づいてきている。自分が迷っているうちに、阿部が他の誰かに気持ちを伝える可能性だってある。
「そうだな…。」悠斗は苦笑いを浮かべる。「ありがとう、真田。」
「まあ、頑張れよ。」真田は言って、悠斗の肩を軽く叩いた。そして、「でも、ちゃんと気持ちを伝えるときは、お前の言葉で伝えろよ。」と付け加える。
悠斗は真田の言葉に背中を押されるような気がした。今までの自分を振り返ってみると、どうしても自分の気持ちに正直になれずにいた。だけど、これからは少しずつでも、心の中で感じたことを大切にして、阿部に向き合わせるのかもしれない。
放課後、悠斗は再び阿部に声をかけられた。
「悠斗、今日も少し話せるか?」
その言葉に、悠斗は心臓が跳ねるのを感じた。少しだけ緊張しながらも、阿部の前に足を進める。
「うん、いいよ。」悠斗は答え、阿部の後を追って校舎を抜け、再びあの静かな裏庭へと向かう。
そこで、阿部は悠斗を見つめながら静かに言った。
「最近、君のことをずっと考えてる。君がどんな気持ちでいるのか、どうして隠しているのか、ずっと気になっている。」
悠斗はその言葉に、心の中で深く息を吐いた。阿部が自分に対してどれほど真剣に向き合っているか、それを感じ取ってはいたが、やはり自分はまだその気持ちを受け入れきれていないのだ。
「僕、まだ迷ってるんだ。」悠斗はようやく口を開いた。「阿部が本当に僕を好きだって思っていいのか、どうしても分からないんだ。」
その言葉を聞いた阿部は、少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに静かな笑顔を浮かべて言った。
「君が迷うのは分かる。無理に答えを出さなくてもいい。僕も、君がどう思っているのかを急かすつもりはない。ただ、僕は君のことを知りたいと思っている。それだけなんだ。」
その言葉に、悠斗の胸が大きく震えた。阿部が自分に対して何も強制してこないこと、その優しさが、悠斗の心に深く染み込んでいくのを感じた。
「阿部…」悠斗は言葉を続けた。「でも、僕も君に気持ちを伝えたいって思うんだ。少しずつ、でもちゃんと。」
阿部は優しく微笑み、そして言った。
「それでいいよ、悠斗。君がどう感じているか、少しずつでいいから、教えてほしい。」
悠斗はその言葉を胸に刻み込むように感じた。自分の気持ちが少しずつ、阿部に対して開かれていくのを感じた。その先に、どんな未来が待っているのかは分からないけれど、今はただ、心を開くことに少しずつ踏み出していけばいいのだと思った。
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