悠斗は、阿部が自分のことを「大切な存在だ」と言った瞬間、心臓が止まりそうになった。普段は冷静で理知的な阿部が、こんなにも率直に自分に向き合ってくることに、悠斗はただただ圧倒されるばかりだった。

阿部の言葉が、悠斗の中で何度も反響する。

「君のことが、すごく気になる。」

その言葉が、悠斗の心を強く揺さぶった。自分が誰にも言えなかった秘密を、たった一人の男に知られ、さらにそれを理解してくれるなんて——。でも、そんな一歩踏み出した感情に、悠斗はまだどう答えるべきか分からなかった。

「でも、阿部……」悠斗は口を開いた。「僕がモデルの仕事をしていること、知られたくなかったんだ。バレたら、学校での生活が壊れてしまう。僕はただ普通の学生として過ごしたいだけなんだ。」

阿部は黙って聞いていたが、その表情は冷静で落ち着いていた。悠斗の気持ちが痛いほど分かるからこそ、黙って彼を見守っているのだろう。やがて、阿部は静かな声で言った。

「君がどうしてその秘密を守りたかったのか、分かるよ。でも、君はもう僕に全部話してくれた。だから、これからは一緒に考えていこう。」

その言葉に、悠斗は少し驚いた。今まで、誰かとこんな風に自分の秘密を共有したことがなかったからだ。ましてや、阿部のようなクラスの人気者に、こんなふうに接されるなんて。

「一緒に考える？」悠斗は何度もその言葉を噛みしめるように言った。

「うん。」阿部は軽く微笑んだ。その笑顔がどこか優しくて、また少しだけ不安を取り除いてくれるように感じた。「君がこれからどうしていきたいのか、僕はその気持ちを尊重する。ただ、君がつらいなら、僕は君の味方になる。」

悠斗はその言葉に心が温かくなるのを感じた。今までずっと、誰にも理解されない孤独を抱えてきた。でも今、目の前にいるのは、自分を理解しようとしてくれる阿部だった。

その瞬間、悠斗は自分がどうしても避けられなかった感情に気づいてしまう。それは、もう完全に阿部に対する「想い」だった。

「ありがとう、阿部。」悠斗はつぶやいた。「でも、僕、どうしていいのか分からない。君ともっと話したいし、君のことをもっと知りたいと思ってる。でも、もし僕が君を巻き込んだら、君まで困らせてしまうんじゃないかって、怖くて。」

阿部はじっと悠斗を見つめながら、少しだけ表情を緩めた。

「そんな心配はしなくていい。」阿部は静かな声で言った。「君が困っているとき、僕はただ君を支えたいだけだよ。だから、君がどうするか決めるのを待ってる。」

悠斗はその言葉を聞いて、少しだけ安心した。自分がどうしても答えを出せない時、阿部はそれを無理に押し付けることはなかった。ただ、悠斗のペースで歩んでくれるというその優しさに、心が温かくなった。

「でも、もし僕が君に気持ちを伝えたら、君がどう感じるのか、それが分からなくて。」悠斗は再び言葉を続けた。

「気持ちを伝えるのが怖いんだね。」阿部は少し考えてから、柔らかく言った。「僕も君に何かを伝えるのは怖かった。でも、伝えなければ、ずっと心の中でモヤモヤし続けるだろう？」

悠斗はその言葉に深く頷いた。確かに、今までずっと自分の気持ちを誰にも話さなかったからこそ、こんなにも不安が募っていたのだ。

「でも、君がどう思うか、ちゃんと分かってから言いたい。」悠斗は真剣な表情で言った。「だから、少しだけ時間をくれないか？」

阿部は軽く笑いながら頷いた。「もちろん。君のペースで、ゆっくり考えてくれ。」

悠斗はその言葉に安心しながらも、同時に心が揺れ動いているのを感じた。阿部がこんなにも自分に優しく接してくれる理由が、少しずつ分かってきた気がした。

その後、2人は少しの間、静かな時間を過ごした。悠斗は、阿部が自分にとってどれほど大切な存在になっているのかを、改めて感じていた。

その後、学校での生活は少しずつ変化していった。阿部は悠斗に対して、前よりも少し優しさを見せるようになり、悠斗もまた彼に少しずつ心を開くようになった。

だが、悠斗はまだ心の中で決断を下せずにいた。自分がモデルとして活動し続けるべきなのか、それとも阿部との関係を大切にするべきなのか。その葛藤は、次第に悠斗の中で大きな問題となっていった。