第43話

 私が戸惑っている間に店員が靴を待ってきて、勇輝さんは支払いを済ませた。

 私は全身を金で埋め尽くされた気分だ。


「じゃあ行くぞ」


 足早に店を出る勇輝さん。

 追いかけようとしたら、ヒールが高くてコケてしまった。

 が、受け止められた。


「悪かった」


 なんかこの人今日若干優しくない?

 奇妙な違和感感じていた。


 そのままエレベーターに乗り、ホテルの最上階のレストランに向かった。

 その間、チラチラと勇輝さんを見ていた。

 全く読めない男だ。

 ため息が出る。


 エレベーターが開くといい匂いがして、自然とその方向に足が向いてしまった。

 今まで一度もこんな立派なレストランに来たことがない。

 場違いだ。

 たじろいでしまう。


「行くぞ」


 勇輝さんが手を差し伸べる。


「いえ……自分で歩けるんで」


 この手に触れたら危険だと頭がアラートを出している。


 店員に案内された場所は、個室だった。

 都会の夜景が一望できる場所。

 綺麗な夜景に見惚れていた。


「意外に似合ってるな。ドレス」

「はい?」

「中身に問題があるんだな」


 どういう意味!?


 すると、店員が入ってきたから仕方なく椅子に座った。

 なぜこの人とサシで食事しなきゃいけないんだよ。

 食欲がゼロになった。


「なぜ勇凛を選んだ」


 いきなり核心を突く質問。

 本当のことなんて言えない。

 でも。


「彼が私に誠実だったからです」


 これは真実だ。


「……そうか。その返事は悪くない」


 すると、ワインが運ばれてきた。

 血のような色のワインが注がれる。


「乾杯しよう」

「私、お酒飲めません」

「……仕方ない」


 そのあと水が入ったグラスが置かれた。

 私が水を飲もうとすると、勝手にグラスを鳴らされた。


 ──もう嫌だ。


 食事が運ばれてくる。

 私の気持ちを置いてけぼりに、かわるがわる料理が並べられる。

 優雅に食べる勇輝さんを横目に、一口程度しか口に入らない。


 結局ほとんど食べることができずディナーは終わった。

 勇輝さんが会計を済ませる。


「あの、結局用件はなんなんですか?」

「あとで話す」


 なんで今じゃないの!?


「明日も仕事あるのでもう帰ります!」


 もう我慢の限界だった。


「わかった。すぐ済むからついてきなさい」


 なら今ここで済ませろ。

 と言いたいところだけど、彼はそのまま出口に一直線。


 もーーー!


「待ってください!」


 彼についていくと、客室の方に向かっている。


「え?どこに行くんですか?」


 彼が向かった先に客室の扉。

 彼はキーをかざして扉を開けた。

 中は、テレビで見たことあるようなホテルのスイートルームだった。


「入りなさい」

「……嫌です」


 なんで客室に……?


「話を聞かれるとまずい」


 なんの話なの?


「安心しろ。このあと別の女が来る。君に手はださない」


 人をからかうような目線。

 私はその女とよろしくやるための繋ぎか。

 よく見たら指輪もしてるし、既婚者。

 私の前で、まるで不倫宣言。


「……わかりました。用件だけ聞いたらすぐに帰ります」


 私は客室に入った。

 立派な客室を眺めてると、ドアが閉まり、その瞬間──

 彼に抱き寄せられた。


 ──は?


 驚きすぎて何も声が出なかった。


 そんなに強い力ではない。

 でも、身動きがとれない。

 怖い。


「欲しいものはなんでも与えてやる。だから俺のものになれ」


 え。

 どういう意味……?


「……なに言ってるんですかあなた」

「気に入った」


 全く心が読めない表情。


 ──でもわかった。


「あなた、勇凛くんから私を引き離すためにこんなことをしたんですね」


 罠だったんだ。


「……なぜそう思う?」

「信用できないからです」


 腕の力が緩んだ。

 彼はソファに座った。


「一筋縄ではいかないか」


 私は渡されたアクセサリーを外してテーブルに置いた。

 そして靴もその場に置いて履き替えた。

 流石に目の前で服は着替えられない。


「ドレスは今度返します」

「不要だ」


 私はすぐに部屋を出た。

 エレベーターに乗ると、スマホに通知が来た。


『飲み会どうですか?迎えに行きますよ』


 私はそのメッセージを眺めて、胸が熱くなった。


 絶対に負けない。

 屈しない。

 この関係を守り抜く。


 そう誓った。

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