第42話

 ──翌日 夜7時30分


 私は林ホールディングスの本社ビルの前にいた。

 勇凛くんには会社で飲み会があると嘘をついてしまった。

 いったい何が目的なのか。


 エントランスの受付に行き、名前と要件を告げると、また最上階に案内された。

 一人でエレベーターに乗って最上階に行く。

 鼓動が早くなった。


 エレベーターが開くと、前と同じく、空気が重たい重厚感があるフロア。

 勇輝さんがいるであろう社長室に向かった。

 深呼吸をしてノックをする。

 すると、扉が開いた。


 ──勇輝さんだった。


 緊張して足がすくんだ。


「逃げずによく来たな」


 含みのある笑みを浮かべている。


「逃げませんよ。ところでご用はなんですか?」


 わざわざこんな時間に呼び出して。


「腹が減ってるだろう」

「は?」

「今から食事に行くからついてこい」


 え。

 なんで……?


「お腹はすいてません!用事だけ済ませて早く帰ります!」


 その時凍てつくような視線で睨まれた。

 動けなくなった。


「要件はこれから話す」


 私は仕方なくついていくことにした。

 エレベーターで二人で一回まで降りると


「こっちに来い」


 正面ではなくビルの裏の出口に彼は向かった。

 外に出ると、目の前に黒いリムジンが停まっていた。


「え……?」


 状況がわからず声が出てしまった。

 リムジンの扉が開き、勇輝さんが乗った。


「君も乗って」


 私も!?

 わけもわからず私はリムジンに乗った。

 私が乗るとすぐに車は動いた。


 初めて乗った……。

 テレビだと見たことあるけど、自分が乗ることになるなんて。

 豪華な内装を見渡していた。


「初めてか」


 勇輝さんが呟く。


「はい。そうですけど」


 何故かそれ以上言ってこない。

 何を考えているかさっぱりわからない。


 そのまま無言で車に揺られてしばらくすると──

 リムジンは超高級ホテルの前に泊まった。


「え?」


 なぜホテル!?

 用件っていったいなんなの?

 私は激しく混乱していた。


 リムジンから降りて、勇輝さんは真っ直ぐホテルのエントランスへ。


「ちょっと待ってください!なんでここに来たんですか!?」

「食事をしに来た。それだけだ」


 こんな高級ホテルで……?


「……その前に連れて行きたい場所がある」


 また!?


「どこですか?」

「ついて来い」


 話を聞け!

 返事をしろ!

 だんだんイライラしてきた。


 連れて行かれたのはホテル内のブティック。


「へ?」


 間抜けな声が出てしまった。


「ドレスコードがあるから、適当に選びなさい」


 ドレスコード……?

 店にはフォーマルなドレスがずらりと並んでいた。

 デザインや質感からして高そう。


「こんな高価なもの買えませんよ」

「私が払う」


 なぜ?

 訳がわからない!


「早くしろ」


 鋭い目で睨まれた。


 くっ……

 私が払わなくて済むなら、適当に選んで着てやるよ!

 私は一番高そうなドレスを選んで着てみた。


「じゃあこれで」


 嫌がらせだ。


「わかった。じゃあこれもつけろ」


 次は箱を渡された。

 なんだこれ。

 開けると……

 宝石がついてるネックレスにイヤリング。


 なんでこんなことになるの……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る