第41話

 会社から出ると、勇凛くんが待っていた。


「お待たせ」

「お疲れ様です」


 私はすぐに勇凛くんに近寄って腕を組んだ。

 もう関係を隠すつもりもなくなり、この会社とももうすぐお別れ。

 あの会社の前では流石にできないけど。


 勇凛くんの口数が少ない。

 心なしか元気がない。


「どうしたの……?」

「あ……すみません、ちょっと兄から連絡があって」


 なんだろう……。

 嫌な予感がする。


「来週から研修を受けろと」


 え。


「本社で?」

「はい。今のところは」

「急だね……」


 容赦なく追い詰めてくる。


「バイトはもうできなくなるので、今住んでるマンションから退去しないといけなくて……」


 やばい……じゃあ勇凛くん、住む場所無くなるの……?

 まさか、お兄さん達と暮らすことに?

 私と会う時間は??

 勇凛くんと離れ離れは嫌だ。


「勇凛くん、私の家で一緒に暮らそう!」


 私は思い切って提案した。

 勇凛くんは驚いて少し微笑んだと思ったのも束の間、すぐに表情が曇った。


「俺に近づくと七海さんが危険な目に遭う気がするんです」


 ──そんな……


 あいつらの思惑通りにいってたまるか!


「勇凛くん。私たちは夫婦だよ。夫のピンチなんだから、私も一緒に戦うよ」


 私は勇凛くんの手を握った。


「……ありがとうございます」


 勇凛くんの表情が柔らかくなった。


 私のマンションの前に着いた。


「家に着いたら電話します」

「うん」


 勇凛くんが駅に戻ってゆく。


 その背中が寂しそうで──

 思わず全力で走って後ろからしがみついた。


「え!?」


 勇凛くんが驚いている。


「勇凛くん大好き!!」


 勇凛くんごめん、耐えられなかった。

 勇凛くんが私の頭を撫でてくれた。


「俺も、七海さんのこと大好きです」


 私たちはキスをして、別れた。


 部屋に戻って、余韻に浸っていると、スマホに着信がきた。

 勇凛くん!!


 ……と思ったら知らない番号。

 誰?


「……もしもし」


『私だ』


 この声は──

 勇輝さんだ。


 重い声の響きに体が震えた。


「なぜ私の番号を……?」

『君がこの前置いていった書類に書いてあった』


 最悪だ。


「勇凛くん、来週から研修って早くないですか……?」

『勇凛から聞いたのか。別に早くない。私もそうだった』


 でも、勇凛くんは内定取り消されたばかりで心の準備もできてない。


「バイト辞めなきゃいけないって悩んでましたよ。ちゃんと相談して決めるべきだと思いますが?」

『私に何も相談なく結婚した勇凛が悪い』


 勇凛くんはこの人の所有物かなんかなの……?


『それより君は自分の心配をした方がいい。いつからこっちに来るんだ』

「今日辞表だしたので、あと二週間くらいです」

『そうか……。明日は空いているか?』

「明日?仕事ですけど……」

『夜だ』


 夜?


「仕事終わったあとは特にありませんが」

『またここに来い』


 え。


「本社にですか……?」

『ああ』

「なんでですか?」

『それは来ればわかる。あと──』


 あと?


『勇凛にはこのことを言うな』


 そして一方的に電話を切られた。


 ──不安すぎる。

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