第38話

 そのあと、どっと疲れがでて、家に帰ることに。


「あー私言い過ぎちゃった」

「そんなことないですよ。あんな言い方されたら当然です。ただ……」


 勇凛くんは立ち止まった。


「俺のせいでこんなことになって、七海さんに申し訳ないです」

「勇凛くんのせいじゃないよ」

「いえ、でも巻き込んでしまいました」


 陽が傾く。

 夜を連れてくる。 

 勇凛くんの顔が暗くてよく見えない。


「勇凛くん。今日、うちに泊まれる……?」


 勇凛くんは少し驚いていた。


「いいんですか??」

「うん」


 勇凛くんは表情が明るくなって嬉しそうだ。


「七海さんから言ってもらえて嬉しいです」


 ──やっぱり、勇凛くんとのこの日々を大事にしたい。


 私たちはマンションに向かった。


 ***


 二人で部屋に入ったあと、私たちは無意識に抱き合っていた。

 大きな試練が目の前に立ちはだかる中、信じられるのはお互いだけだ。


 初めてこんなに人を大事にしたいと思った。

 愛しいと思った。

 守りたいと思った。

 ただそれだけだった。


「……勇凛くん」

「はい」

「してもいいかな?」

「何をですか?」

「……察してよ」


 勇凛くんが固まった。


 私は勇凛くんとしっかり繋がりたかった。


 ***


 その後ずっと勇凛くんは挙動不審だ。


「あの……シャワー浴びてもいいですか?」

「え?」

「汗とかかいてるので、洗い流してからがよくて……」

「私は気にしないよ」

「いや、でも」


 勇凛くんはためらっている。


「わかった。じゃあ一緒に入る?」

「え!?」


 勇凛くんが激しく動揺している。


「冗談だよ」


 でも別にいいと思っていた。


「じゃあ、すみません。浴びてきます」


 勇凛くんはすぐにお風呂に向かった。

 待っている時間が、もどかしかった。

 でも割とすぐに上がってきた。

 濡れている勇凛君を見たら、一気に緊張に変わった。


「わ、私もはいりマス……」


 どうしよう。

 最後にシたのっていつだっけ?

 かなり前だ。

 ちゃんとできるかな……。

 不安になった。


 でも、ここまできたら覚悟を決めよう。

 たとえ上手くいかなくても、私たちなら大丈夫。

 よし!!


 私は上がってすぐに、体を拭いて、バスタオルで体を巻いた。

 そしてそのまま勇凛くんに直行した。

 勇凛くんは、そんな気合いが入った私を見て驚いて目を見開いていた。


「え、もうですか……?」

「うん。ダメかな?」


 私は早く繋がりたかった。

 勇凛くんでいっぱいになりたかった。


「いや、大丈夫です。ちょっと緊張して」


 戸惑う勇凛くんが愛しい。


 ──でも


「勇凛くんが、今はそういう気分じゃないならやめておこう」

「え……?」


 流石にこれはやや強引だ。

 やっぱ二人が同じ気持ちでないと。


 私が着替えようと勇凛くんから離れようとした時、勇凛くんに手を掴まれた。


「……俺は覚悟はできてますよ」


 勇凛くんの目は真剣だった。


「かくご……?」


 勇凛くん、前から少し思ってたけど、『武士』っぽい……。

 私はつい笑ってしまった。


「何がおかしいんですか?」


 勇凛くんが混乱してる。


「ごめん。嬉しかったんだ。ちゃんと真剣に向き合えてもらえてるんだなって」


 突きつけられた現実は辛いものだけど、勇凛くんと出会えたことに全く後悔はしていない。

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