第37話

 私と勇凛くんは部屋から出た。

 何も言葉が出なかった。


 エレベーターに乗った。

 エレベーターが下降している先中、勇凛くんが口を開いた。


「七海さん、すみませんでした」

「ううん。勇凛くんは何も悪くないよ」

「あんな事を言ってくるとは思いませんでした……。兄を甘く見ていました」

「勇凛くんと勇輝さんは、子供の頃は仲はどうだったの……?」

「兄とは歳がかなり離れてるので、まともに会話した事はないです」

「ご両親と勇凛くんは?」

「父は子供の頃から色んな支社を回っているので、ほぼ家にいません。母も趣味で家を空けることが多かったです」

「そうか……」


 勇凛くんはもしかして、家庭で孤独だったのかな。

 私の実家はごく平凡。

 姉ちゃんとも関係は悪くない。

 親も普通に会話はする。

 何かあれば相談も乗ってくれる。


 エレベーターは一階に着いた。

 エレベーターを出てエントランスに向かうと、ビルの入り口から急ぎ足で来る、背の高い男性の姿が。


 あれはまさか──


 彼と目が合った。


「あ!もう話終わったの!?」


 ──勇哉さんだった。


 私たちの目の前まできた。


「俺も同席する予定だったんだけど、朝帰りで家帰って寝たら寝坊した」


 ヘラヘラ笑っている。

 それに無性にイライラした。


「どうだったー?」


 私はつい勇哉さんを睨んでしまった。


「こわっ!」

「兄さん。分かってたんじゃないですか?」


 勇凛くんの顔も険しい。


「まあね。兄貴、結婚のこと知ったら大激怒してたから」


 大激怒……。

 ショックだ。


「だから気を引き締めろって言ったでしょ?」


 ニヤニヤしている。


「……バカにしないでください……」


 まだ燃え尽きない炎が燃料投下により燃え上がる。


「私は絶対負けません!」


 勇哉さんは少し驚いた顔をしたけど、またいつもの表情に戻った。


「で、これからどうするの?」

「……この会社に入社します」

「え!?」

「あの人に認めてもらうために」


 勇哉さんは何故かすごく嬉しそうだ。


「七海ちゃん毎日ここ来るのー?じゃあ俺も一緒にいるー」


 勇凛くんがとてつもない恐ろしい表情で勇哉さんを見る。


「七海さんに何かしたら、絶対許しません」

「こわっ!!」


 勇哉さんは私たちのそばを通り過ぎた。


「じゃあたのしみにしてるー」


 何考えてるかわからない笑顔でエレベーターに乗って行った。


 ***


 二人でビルを出て駅に向かって歩く。


「……勇凛くん」

「はい」

「またラウンド2行っていい?」

「はい??」

「ストレス発散したいの」


 勇凛くんは悩んでいる。


「いいですよ」


 いつもの優しい笑顔に戻った。


 ──そしてまた私たちはラウンド2に降り立つ。


 ボーリングの球を持つ。

 そして、今までで一番強い力で投球!


 が


 外れる。

 外しまくる。


「なんで!!」


 打ちひしがれていた。


 今度は勇凛くんの番。


 ──まさかのストライク。


「え……」


 この前までガーターばかりだったのに。


 その後も私はダメダメで、勇凛くんは前回と違ってピンに球を当てまくっていた。

 苦手だったのでは……?


「勇凛くん……できるんじゃん」

「いや……たぶん、メンタルの問題かもしれません。兄だと思ってピンを倒しました」


 苦笑いをしている。

 勇凛くん……。


「絶対頑張る私」


 拳に力が入る。


「俺もやってみせます」


 まだ見ぬ未来に怯えつつも、心は一つだった。

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