第31話

「暫くやってなかったから、もう無理かも」


 しかもレギュラーじゃなかった。


「じゃあ今度、市民体育館とか借ります!」


 マジか!!


「勇凛くんはスポーツやってなかったの?」

「弓道を……でもやっぱ当たる方が珍しかったです」


 勇凛くんの弓道技姿。

 死ぬほど見たい。


「え、写真とか持ってる?」


 私は必死だった。


「え、一応ありますけど……」

「見せて」

「嫌です……」

「じゃあ私のも見せるから」

「……はい、じゃあ見せます」


 勇凛くんは嬉しそうだ。


 勇凛くんのスマホに入っていた、高校時代の弓道着姿──

 カッコ良すぎる!!

 やばい、これは同じ高校に通っていたら一目惚れしてた。

 今度着てくれないかな。


「勇凛くん、ありがとう……私なんか回復してきた」

「え、なんでですか?」

「いや、気にしないで」

「じゃあ七海さんの見せてください」


 勇凛くんの真剣な眼差し。


 私は仕方なくスマホの写真の履歴を漁っていた。

 十年以上前の写真。


 あった。でも最悪だ。

 写真の私の両脇に可愛い女子がいた。


「どうぞ……」


 勇凛くんに見せた。


「……七海さん。可愛い……」

「え?」

「俺、たぶん同じ高校だったら告白していたと思います」


 一気に顔が熱くなった。


「ありがとう……。お世辞でも嬉しいよ」

「お世辞じゃないです!本当です」


 勇凛くんはまた見ている。


「これ、大判印刷して、家に飾りたいです……」

「え……」


 私の高校時代の写真を……。


「勇凛くん、画像送ってあげるから、それはやめよう。なんか嫌だ」


 勇凛くんはまたショボンに。


「だって昔の私愛でられるの複雑だよ。今の私、見てないみたいで」


 昔の方が若くてエネルギーあったから仕方ないけど!


「今の七海さんが一番好きです。でも昔の七海さんにも恋してしまったんです……」


 複雑な心境だった。


「勇凛くん、次はカラオケをやろう」


 私はこの話題から抜け出したかった。


「え……」


 凄い嫌な顔をされた。


「え、ダメ?」

「いや……七海さんが歌いたいなら、どうぞ」


 勇凛くんの反応が気になるが、私たちは次はカラオケの部屋に入った。


「勇凛くん先歌っていいよ」

「……いや、七海さん歌ってください」

「え、うん。わかった」


 私は懐メロを歌った。

 もう今の流行りの曲もわからず、青春時代の曲しか歌えない。


「七海さん、歌上手いです!」


 勇凛くんは目をキラキラさせている。


「ありがとう。じゃあ次、勇凛くん」


 マイクを渡した。


「あ……俺はいいです」


 なぜ!?


「え、聞きたいよ」

「いや、俺はちょっと」

「少しでいいから」


 勇凛くんは悩んだ末、なぜか昭和の歌謡曲を選んだ。


「七海さん、引かないでください」


 勇凛くんは歌い出した。


 それは──

 見事に音程を外しまくっていた。


「もうここまでで勘弁してください」

「う、うん。大丈夫だよ」


 ──しばしの沈黙


「幻滅しましたよね」

「ううん。勇凛くんのこういう一面が知れて、嬉しい」

「本当ですか?」

「うん、親近感湧いた」

「……ならよかったです」


 勇凛くんが安心している。


 ヤバい……。

 勇凛くんのこのギャップが、私を猛烈にキュンの沼に引き摺り込んだ。

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