第30話

「染まる……?」


 勇凛くんは頷いた。


「俺は自分の足で生きていきたいんです。親の所有物のようにはなりたくないんです」


 陽が少し傾いてきて、勇凛くんを照らした。

 勇凛くんが輝いて見える。


「兄たちのように生きるのは嫌なんです。今までは経済的理由で親の決めた学校に行ってますが、卒業したら、自分の自由に生きたいんです」


 勇凛くんは私を見た。


「結婚も……自分の決めた人としたかったんです」


 胸が高鳴った。


「うん……。話してくれてありがとう。嬉しい」


 涙が出そうになった。


「なんで私なのかな。いまだによくわからないよ。それだけは」


 勇凛くんは私の手を握った。


「初めて会った時、あなたがいいと思ったんです。それじゃダメですか?」


 ダメじゃない。

 ただ自信がない。


「七海さん。自分では気がついてないかもしれませんが……とても魅力的です。今まで会った女性の中で一番惹かれました」


 自分だとまったくわからない。


「大袈裟だよ」

「他の誰がどう思っても、俺にとって七海さんが一番なんです」


 勇凛くんの握った手に力がはいる。

 勇凛くんの気持ちが伝わる。

 自信はないけど、勇凛くんの気持ちは信頼できる。


「勇凛くんありがとう。私も今まで出会った男の人の中で、勇凛くんが私のことを一番大切にしてくれている。本当に信頼できる人だよ」


 二人の手が硬く握られる。

 絆を深めるように──


「早く家を決めましょう」

「うん」

「あと……」

「うん」

「これからラウンド2行きませんか?」

「……え?」


 予期せぬ誘いだった。


 ***


 勇凛くんに導かれながら、私たちはラウンド2に行った。

 久々に来たな……。

 勇凛くんは受付に行ってお金を払っている。


「あああ!私も払うから!」

「いえ、俺が払います。俺が誘ったんですから」


 しばらくすると勇凛くんが戻ってきた。


「まず、ボーリングやりませんか?」


 ボーリング。

 ちょっと……いやだいぶストレス溜まっていたから、やりたい。


「うん!」


 私たちはシューズを履いて、ボーリングレーンに向かった。


 まずは勇凛くん。


 投げる前からわかる。

 目線、姿勢。これは上手い。

 勇凛くんが思い切り投げた一投。


 ──ガーター一直線だった。


 え?


 勇凛くんはショボンになってる。


「あーやっぱダメです」

「え?勇凛くん今の偶然だよね?」

「いえ……俺苦手なんです。ボーリング」


 意外すぎた。

 なんでもできるイメージだった。


「じゃあ七海さんの番ですよ」


 今度は私が構える。

 私も得意じゃない。

 ピンをじっくり眺める。


 その時、なぜか勇凛くんのお兄さんが頭に浮かんだ。

 その時の怒りをそのまま一投に込めた。


 ──まさかのストライク。


「七海さん凄いです!」


 勇凛くんが手を叩いて喜んでいる。

 ごめん、勇凛くん、お兄さんにボーリング投げつけてた。


 その後も勇凛くんはガーターと、わずかなピンを倒す程度で、そのギャップが逆に尊かった。


 私は──

 今までやってきた中で一番の高得点を叩きだした。

 これはストレスのせい……?


「七海さんすごいですよ。結構運動神経ありますよね?」

「いや……部活でバレーボールやってたくらいだよ」


 その時、勇凛くんの目が輝いた。


「七海さんのバレーボールやってる姿、見たいです!」


 唐突なお願いに戸惑った。

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