第28話

「勇凛としばらく会ってないからよくわからなくて。あいつ元気?」

「土曜日にお会いする約束だと伺ってますが、その時に会えますよね……」

「あいつあんま自分のこと話さないから」


 この人と勇凛くんは絶望的に相性が悪い気がする。

 そして私も。


「俺は勇凛が誰と結婚しようがいいんだけど、兄貴はねー」


 兄貴……。

 てことは、二番目のお兄さん?


「あ、勇凛から聞いてるよね?兄貴社長代理って」


 ──社長代理……?


「え、まさか知らないの?」

「はい……」

「うちの会社も?」

「え……?」

「なんも知らないんだ。林ホールディングスわかる?」


 ──林ホールディングスって、超大手企業のあの……?


「親父、社長だから」


 ちょっと待って情報量が多すぎる!!


「俺も経営には関わってるけど、そんなやる気ないし、ゆくゆくは勇凛もうちの会社背負うから」


 勇凛くんの実家がどうかとか、私と勇凛くんの間には関係ないと思っていた。

 ただ、そんな大企業の社長の息子なんて、全くどこにも感じなかった。

 そんな簡単に結婚していい相手ではなかった。

 また複雑な現実がのしかかってきた。


 そして車は駅に着いた。

 私はフラフラと車からロータリーに降りた。


「じゃあまた土曜日ね」


 勇凛くんのお兄さんが窓を閉めてようとしたけど、また開けた。


「俺、勇哉ゆうや。よろしく〜」


 手を振って、颯爽とロータリーを抜けて、都会の雑踏の中に消えた。


 私の感情は滅茶苦茶である。


 ***


 駅に着いて、私が会社に向かおうとする途中、スマホに着信があった。

 勇凛くんからだった。


「はい」

『七海さん、兄に会ったんですよねさっき!?』


 勇凛くんの声から焦りが伝わる。


「うん。病院で会ったの」

『病院……?』

「入院した病院に診断書をもらいに行ってたの」

『そうだったんですね……。さっき兄から七海さんに会ったって連絡があって、居ても立っても居られなくて。兄に何かされませんでしたか?』

「……駅まで送ってもらっただけだよ」


 半ば無理やり……。


『そうですか……ならよかったです』

「……勇凛くんのお父さんって、林ホールディングスの社長さんだったんだね」


 ──沈黙が流れる。


『隠してたわけではありません。そのことについては、改めてまた話します。七海さんはこれからまた会社に戻るんですか?』

「うん。書類提出だけして今日は帰るよ」

『わかりました。じゃあ、どこかで待ち合わせしてもいいですか?』

「わかった。あ……勇凛くん今どこ?」

『大学です。卒論ある程度進めたら帰るつもりです』


 ──勇凛くんの大学。実は気になっていた。


「じゃあ、勇凛くんの大学の近くで待っててもいい?」

『いいですけど……七海さんの会社からは少し遠いかもしれません』

「いいの。行ってみたいんだ。何て大学?」

『慶王大です』


 ・・・。


 やっぱり勇凛くんは、特別な人間なんだなと痛感した。

 あんなお金かかる私立大学、とてもじゃないけど一般家庭じゃ無理。

 セレブや芸能人ばかりの幼稚舎からのエスカレーター式の大学。


 勇凛くんの知らない部分がどんどん暴かれてゆく──

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