第25話

 勇凛くんの家に着いた頃には、日付を跨いでいた。


「七海さん先に風呂に入ってください」

「え!わたしはあとでいいよ!」

「七海さんは明日仕事なんですから、早く上がって寝る準備した方がいいです」


 勇凛くんはクローゼットから何か持ってきた。


「これ、着てください」


 勇凛くんの服……。

 勇凛くんの服を着るって。

 なんかムズムズする。


「じゃあ先に入るね、ありがとう」


 私はすぐに風呂に入って湯船に浸かった。

 お風呂の中がピカピカ。

 ちゃんと掃除してるんだな……。


 家事もちゃんとしてる。

 自立してる。


 うーーーん。

 しっかりしなきゃ。


 急いで湯船を出て、シャワーを浴びる。

 勇凛くんのシャンプー。

 いい匂い。


 素早く洗って、風呂のドアを開けると──

 タオルを持った勇凛くんが目の前にいた。


「あ……」


 二人で固まった。

 全身濡れてて素っ裸な自分と、まさか出てくるとは思ってなかった勇凛くん。


 これは、ラブコメ的展開ですよね?

 リアルでは勘弁してください!!


「すみません!!渡しそびれたんです!」


 慌てて目を逸らしてタオルを渡す勇凛くん。


「私こそごめん!」


 なにが??

 自分につっこむ。

 急いで自分を拭きながら、もっとボディケアをしておけばよかったと、元お一人様社畜女は考えていた……。


 勇凛くんの服を着ると、勇凛くんの匂いがして安心した。


「お、おまたせしました……」


 勇凛くんを見ると、ずっと俯いている。


「どうしたの……?」


 ガッカリしたの……!?

 結婚したの後悔されたらどうしよう!!


「すみません……俺」


 え……え??


「女の人の体見たの初めてで……」


 ・・・。


「え?」


 勇凛くんは、今まで何人か付き合っていたと言っていた。

 何が何だか全くわからない。

 私は激しく混乱していた。


「え……勇凛くん彼女いたんだよね……?」


 勇凛くんは頷いた。


「彼女はいたんですけど、そういうことはしませんでした」


 何か訳があるのだろうか。


「勇凛くん、もしよければ、理由聞いてもいい……?」

「……俺は、結婚するまでしないって決めてたんです」


 その言葉に驚いた。

 男でそんな考えの子がいるの!?

 女ならともかく。


「それ……今までの彼女は納得してたの……?」

「いえ。求められる時にそれを言ったら、別れを切り出されました」


 女だって性欲はある。

 好きな人となら深く繋がりたい。

 なんとなくわかるけど……。


「勇凛くんは相手に誠実なんだね」

「わかりません。ただ、もし万が一ってこともあるので」


 相手のために自分の欲を抑えられるのか。


「……引きますか?」

「え?」

「言われたことあるんです。引いたって」


 勇凛くんは少し苦しそうな顔をしている。


「ううん。引かないよ。むしろ尊敬するよ」


 そんなに真剣に向き合ってくれる男の人と会ったのが初めてだ。

 私なんて、避妊拒否されそうになったり、すごい雑な扱いを受けていて、あまりそういう行為に良い思い出がない。


「私は勇凛くんが旦那さんでよかったって思ったよ」


 勇凛くんは優しい笑顔に戻った。


「ありがとうございます。そう言ってもらえて安心しました」


 その後、勇凛くんがお風呂に入った後、私たちは同じ布団の中に入った。


 今回は迷わなかった。

 自然と手を繋いでいた。


「勇凛くん、おやすみなさい」


 勇凛くんの方を向いたら、キスをされた。

 完全に目が覚めてしまった。


「すみません、今までは我慢できてたんですけど……」


 けど──?


「ちょっとヤバいです」


 勇凛くんの手の力が強くなった。

 勇凛くんの今まで見たことがない熱い眼差しから目が逸らせなかった。

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