第24話

 勇凛くんの行った方向に走ると、勇凛くんが見えた。

 勇凛くんは一人だった。

 勇凛くんが振り返った。


「あ、七海さん!どうしてここに?」


 驚いている。


「えっと……さっきまで会社の人と一緒にいて」

「そうだったんですね。タイミングが合ってよかったです。家まで送りましょうか?」


 腕時計を見た。

 もう23時……。


「ううん、大丈夫。家までまた来たら終電なくなっちゃうよ」


 勇凛くんの顔を見れただけで嬉しかった。


「……俺の家来ますか?」

「え」

「ここからそんなに遠くないんで」


 勇凛くんの家。

 私が酔い潰れて運んでもらった時初めて行った場所。

 ほとんど記憶がない。

 まだ一緒にいたい。


 ──でも


「……明日仕事あるからまた今度にするよ」


 胸が苦しくなった。


「七海さん」


 顔を上げたら勇凛くんが目の前にいた。


「わ!」

「そんな顔するの反則ですよ」

「え、私なんか変な顔してた?」


 勇凛くんが私の顔を覗き込む。


「寂しそうだなって」


 恥ずかしい……。


「うん。まだ一緒にいたいって思っちゃったんだ……」


 まだ自分にこんな乙女な心があっことに驚きだ。


「そんなこと言われたら、連れて帰りたくなりますよ」


 勇凛くんの、穏やかで優しい表情。

 今までの彼女にもこうだったのかな……。


 ***


 私は導かれるように勇凛くんの家に向かった。


 勇凛くんの部屋。

 うっすら覚えてる記憶と一致している。


 ふと目に入った、人生ゲーム。

 入院していた時に遊んでいたやつ。


「七海さんどうぞ」


 ついてきちゃったけど、どうしよう……。

 このままゆっくりしていたら終電。

 でももうここまできたら──


「……勇凛くん、泊まってもいいかな……」


 リュックを置いた勇凛くんが私を見る。


「え、元からそのつもりですよ?」

「ありがとう……」

「これから二人で暮らすんですから、遠慮しないでください」


 勇凛くんは直ぐにお風呂を洗いに行った。


「私コンビニで必要なもの買ってくるね」


 スポンジを持った勇凛くんが慌てて出てきた。


「俺ついていきますよ!」

「いや、申し訳ないから。一人で大丈夫だよ」

「ダメです!!」


 釘を刺された。


 その後、深夜のコンビニに勇凛くんと向かった。

 私がスキンケア用品や下着を買ってる間、勇凛くん雑誌コーナーで何かを見ている。


『漢字てんつなぎ』


 ハマってしまったのだろうか。


 買い物を済ませ勇凛くんの家に向かう途中、不動産屋のガラス窓に貼られた物件の間取り図を二人で見た。


「七海さんはどんな間取りがいいですか?」

「うーんと、それぞれ部屋があった方がいいよね」

「……なんでですか?」


 何も言えなくなる。


「二人で住める期間、そんなに長くないかもしれないじゃないですか。子供産まれたら引っ越さないといけませんし」


 もう頭が追いつかない。

 なんで勇凛くんはそんなに落ち着いて考えてるの?


 わかってる。勇凛くんは私との将来をちゃんと見据えている。ずっと先まで。


「勇凛くんはすごいね……。大人顔負けだよ」

「俺も大人なんですけど……」


 声が低くなる。


「スミマセン……」


 私が子供なんだ。

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