第23話

「お互いのことほとんど知らないで結婚って、話題とかあるの?」

「うーん。まだ一緒に住んでないので、そこまで色々話せてはいないです」

「そうか……。まあ幸せならそれでいいか」


 森川さんが目を伏せた。


 そのあと、色々雑談をした後、店を出た。


「いやーえらいこと聞いてしまった」

「秘密にしてください。お願いです」


 切実な願いだった。


「俺言うと思う?」

「いえ……森川さんは信用してます」


 一応。


「なんかフクザツ」

「はい?」

「突然現れた王子様に拐われたような」

「誰がですか?」

「誰でしょう」


 森川さんが意味深な言葉を言う。


「森川さん、なんか言いたいことあるならハッキリ言って欲しいんですが……。私は鈍感だからわからないです」


 その時、森川さんが止まった。


「俺、川崎さんのこと、狙ってたんだけど」


 ・・・。


「え!?」

「モタモタしてた自分が悪い……。次からは気をつけよう」


 突然森川さんからカミングアウトされた事実にただただ困惑していた。


 ***


「じゃあ俺帰るわ」


 私がぼーっとしてたらいつの間にか駅の近くにいた。


「あ、今日はありがとうございました」


 私は頭を下げた。


「俺の言った事、あまり気にしないで。今まで通りで」


 森川さんはそれを告げると改札を抜けていった。


 気にするわ……。

 心の中で呟いた。


 そんな風に見られてたなんて思ってもみなかった。

 そんな素振りもなかった。

 このタイミングで言われても困るし。


 ぐるぐると色々考えてるうちに、私は駅から反対方向へ。

 無意識に私は向かっていた。

 勇凛くんのバイト先へ──


 そんなに遠くはない。

 きっとこのモヤモヤした感情を、勇凛くんを見ればかき消せるはず。

 そう思ってバイト先の居酒屋の近くに行くと、店の前に勇凛くんがいた。


 ナイスタイミング!


 私は声をかけようとした。


 が


 勇凛くんは店から出てきた女の子と話している。

 仲が良さそうに。


 勇凛くんの笑顔。

 私以外の子に向けられている。

 悲しい。

 勇凛くんはそのままその子と歩いて行った。


 勇凛くんのことを疑ったりなんかしてない。

 ただ、話してる相手が他人で、若い女の子だったことが辛かった。

 何一つ適うものがない。


 私はまた駅に向かって歩き出した。

 すると、スマホに通知が来た。

 勇凛くんからだった。


『七海さん、バイト終わりました。今日は月が綺麗ですね』


 メッセージに月を撮影した画像が添付されていた。

 私も空を見上げたら、同じ月が浮かんでいる。


 きっとまだ遠くない。

 私はまた勇凛くんの行った方向へ走り出した。

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